ニュース
ジーコ・スピリット ~いつも心にリスペクト Vol.47~
2017年04月20日
昨年12月からの鹿島アントラーズの強さには驚かざるをえません。
圧倒的に不利な状況を覆してJリーグのチャンピオンシップで勝利し、FIFAクラブワールドカップでは決勝に進出してスペインのレアル・マドリードと延長戦に入る熱戦を展開、天皇杯でも優勝を飾りました。そして今年も富士ゼロックス・スーパーカップで浦和レッズに競り勝ちました。
相手を圧倒して勝つという試合はほとんどありません。相手が強ければまず我慢強く守備をして失点を防ぎ、チャンスがきたときには総力で攻めかかって得点し、結果として勝利を手にしているのです。その背景に「ジーコ・スピリット」があることは、多くの人が認めています。
前身の住友金属時代を含めてジーコが鹿島でプレーしたのは3シーズン半ほどでした。しかしその後も大きな影響を残しています。鹿島のクラブハウスのロッカールーム入り口には、いまも「ジーコ・スピリット」を示す額が掲げられています。
それによれば、スピリットの要素は「TRABALHO(献身)」 「LEALDADE(誠実)」「RESPEITO(尊重)」の三つであると示されています。
「TRABALHO」とは直訳すれば「労働」であり、かみくだくと「汗を流す」ということになると思います。「LEALDADE」とは英語でいう「Loyalty」のことで、「クラブ(あるいはチーム)に対する忠誠心」ということになります。どんなときにもチームの勝利のためにプレーし、行動したジーコらしい言葉だと思います。
では「RESPEITO」とは何でしょう。ご想像のとおり、「リスペクト」のことです。これにはいくつかの側面があるような気がします。
ひとつはクラブやチームメート、互いに対するリスペクトです。それぞれの立場や考えを尊重し、年齢や肩書きに関係なくリスペクトを払う。それがチームスピリットにつながり、目的を達成する力になる―。日本代表の監督をしていたころのジーコからは、そうした生き方が伝わってきました。
さらには、自分のチーム以外でも、チームを取り巻く人びとに対するリスペクトです。私のような報道にたずさわる者たちにも、ジーコは常にしっかりとリスペクトの態度を示してくれました。質問に答える言葉はいつも誠実で、批判的な言葉にも丁寧な受け答えをしてくれました。
そして何よりも大事なのは、試合で対戦する相手へのリスペクトでしょう。
「私は相手チームをリスペクトしている」
どんな試合の前でも、ジーコは常にこの言葉を口にしました。メディアは平気で「格下」などの言葉を使い、試合前から勝つことが決まっているように表現します。何点取るかだけが問題のように報道することもあり、ファンだけでなく、選手たちもこうしたメディアに影響されます。そして知らず知らずのうちに気が緩み、油断が生じ、痛い目に遭うのです。
サッカーという競技は、試合内容と結果が最も結びつかないスポーツと言われています。どんなにボールを支配してシュートの雨を降らせても、それがゴールに入らなければ得点にならず、勝利にはつながらないという競技がサッカーです。だからどんな相手と対戦するときにも相手を見くびらず、すなわちリスペクトを払って、自分たちの持っているものを出し尽くす態度が大事なのです。
1991年、ジーコはプロ化を1年後に控えた住友金属(このチームが1年後に鹿島アントラーズになります)の一員となりました。日本サッカーリーグ2部でした。世界最高の選手と言われたジーコが、日本の、それも2部リーグの舞台に立ったのです。
しかしジーコはどんな相手でも、どんなに泥だらけのグラウンドでも、チームの勝利のために懸命に走り、プレーをしました。そして世界最高のテクニックを惜しむことなく出し切りました。
これこそ、「リスペクト」のある態度です。そのスピリットが正しく伝えられたからこそ、昨年12月からの鹿島が異常なまでの勝負強さを見せることができたのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
公益財団法人 日本サッカー協会機関誌『JFAnews』
公益財団法人 日本サッカー協会機関誌『JFAnews』日本代表の情報はもちろん、JFAが展開する全ての事業、取り組みのほか、全国各地で開催されているJFA主催大会の記録、全国のチーム情報などが満載されています。指導者、審判員等、サッカーファミリー必見の月刊オフィシャルマガジンです。