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大坂なおみ選手のリスペクト ~いつも心にリスペクト Vol.66~
2019年01月23日
ニューヨークで行われていた全米オープンテニスの女子シングルスで大坂なおみ選手がアメリカのセリーナ・ウィリアムズ選手を破って優勝を飾ったのは、9月8日(日本時間では9日朝)のことでした。9月4日に関西地方を直撃し大きな被害を残した台風21号に続き、6日早朝には北海道東部を直下型地震が襲ったばかりで、行方不明者の捜索が続く中、電力や水道の供給がまだ北海道全域では回復していないころでした。
相次ぐ自然災害に日本中が意気消沈といった時期、大坂選手の快挙に、私も大きく元気づけられるような思いがしました。
しかしそれ以上に、私は大坂選手のリスペクト精神あふれる態度と行動に大きな感銘を受けました。
決勝戦の相手、セリーナ選手は、大坂選手にとって子どものころからのアイドルだったそうです。決勝で対戦が決まったときにも、それを隠すことなく話しました。
しかし試合が始まると大坂選手は自分のプレーに集中、磨いてきた強サーブと進境著しいラリーの粘りで第1セットを62で取り、第2セットも一歩も譲らない試合に持ち込みました。
その第2セットの途中で、セリーナ選手がスタンドのコーチから「指示」を受けたと判定されて警告を受けます。セリーナ選手は自分は絶対にそんなひきょうなまねはしていないと主張しましたが、その後にはラケットをたたきつけて壊したことで再度の警告、1ポイントのペナルティーを受けます。
さらに、大坂選手がセリーナ選手のサービスゲームをブレークすると、セリーナ選手は自分を見失い、執拗な抗議を再開します。
その声はマイクを通じてテレビにも流れます。その執拗さと侮辱的な言葉を聞いて、私は「サッカーなら退場だな」と感じましたが、カルロス・ラモス主審は我慢強く聞いていました。しかし収まらないセリーナ選手が最後の暴言を吐くと、「1ゲームペナルティー」を宣告します。ブレークした大坂選手が4-3とリードした状況。それがこのペナルティーで5-3になり、あと1ゲーム取れば優勝という状況になったのです。
長引くセリーナ選手の抗議の間、大坂選手は背を向け、集中を切らすなと自分自身に言い聞かせ続けているように見えました。しかし5-3で迎えた第9ゲーム、大坂選手は集中を失ったかのように緩慢な動きに終始し、ラブゲーム、つまり1ポイントも取れずにセリーナ選手のキープを許します。
試合は5-4で大坂選手のサービスに変わります。いちど集中が切れたら、休憩抜きのゲームで取り戻すのは大変です。しかし大坂選手は第9ゲームなどなかったかのように集中し、最後は力強いショットで初優勝を決めたのです。
セリーナ選手とアメリカのファンを気づかった表彰式での大坂選手のコメントや態度は、大きく報道されています。
しかしそれ以上に私が衝撃を受けたのは、第9ゲームでした。この件に関し報道されたかどうか知りませんが、直後のゲームのプレーぶりからすると、大坂選手は1ゲームをセリーナ選手に「返した」としか思えなかったからです。
テニスではこうしたことが当たり前なのかどうか知りません。サッカーでは、昔、誤審でPKの判定を受けた攻撃側の選手がわざとPKを外すということもありましたが、最近では聞きません。
夢にまで見たセリーナ選手との全米オープン決勝。どんな理由があれ、その1ゲームをまったくプレーすることなく得ることを、大坂選手は潔しとできなかったのではないでしょうか。
当然、セリーナ選手へのリスペクトから、そうであっても、大坂選手は真相は語らないでしょう。
百戦錬磨のプロ選手の行為なら理解できます。しかし初めてのメジャータイトル決勝、その勝利を目前にした状況で、20歳の選手にこんなことができるのでしょうか。おそらく、それは「考えた」結果ではなく、「感じた」ままに行動した結果だったのではないでしょうか。大坂選手が本来もっている深い人間性、「リスペクト」の心が生んだ行動だったと思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
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