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互いにリスペクトするスポーツの文化 ~いつも心にリスペクト Vol.101~

2021年11月01日

互いにリスペクトするスポーツの文化 ~いつも心にリスペクト Vol.101~

東京オリンピックでは、伝統的な数々の種目に交じって、五つの競技が初めて正式種目として実施されました。空手は開催国日本伝統の競技としてこの大会だけで行われたものでしたが、他の4競技、バスケットボールの「3×3」、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンはいずれも若い世代に人気のあるスポーツで、もちろん世界大会もありますが、一般にはこれまで「レジャー」のようにとらえられてきたものです。

国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックを若者にも関心の持たれる大会にしようと、こうした競技を加えたと言われています。次回、2024年のパリ大会では、これらに加えて、「ブレイクダンス」と呼ばれることが多い「ブレイキン」も正式種目になることが決まっています。

正直に言うと、私は、こうした競技が行われることに少し懐疑的でした。冬季オリンピックで行われているスキーの「フリースタイル」を含め、どうもなじめなかったからです。しかしテレビで競技を見て、その考えは大きく変わりました。

選手たちのスタイルはとても自由で、ファッショナブルな感じもしました。しかし競技そのものは非常に真剣で、テクニックや強さ、速さを獲得するための努力や工夫は、どんなスポーツにも負けないものがあると感じたからです。

そして何よりも感心したのは、こうした「エクストリームスポーツ」や「アーバンスポーツ」と呼ばれる若者の文化やファッションと強く結びついたスポーツの競技者たちが、ライバルたちに対してしっかりとした「リスペクト」の精神を持ち、それを行動で見事に表現していたことでした。

提示された課題に1人1人が順番に取り組んで達成度や達成時間を競う「スポーツクライミング」では、競技前にライバルたちが集まって「ここに右足を置き、次はこの手をかけて...」などと意見を出し合う姿が見られました。サッカーで言えば両チームの監督が「こんな戦術を使ったらどうだろう」と試合前に話し合うようなもので、非常に驚きました。

そして何よりも、勝負や順位が決まった後に互いに健闘をたたえ合う姿が印象的でした。もちろん、金メダルを獲得した選手は喜びを体いっぱいに表現するのですが、すぐにライバルたちが駆け寄り、互いに祝福するのです。

私にはあまり知識がないのですが、こうした競技の選手たちは日常的に世界の各地で行われる大会で競い合っており、互いによく知る間柄なのかもしれません。だから、勝っても負けてもライバルを祝福し、健闘をたたえ合うのが当然になっているのかもしれません。

しかしそれ以上に強く感じたのは、こうしたスポーツがもつ「文化」のようなものでした。

私の「師」に当たるジャーナリストの牛木素吉郎さんは、「スポーツにはそれぞれお家柄がある」と表現されました。サッカーにはサッカーの、野球には野球の歴史や伝統があり、ひとつの競技の尺度で他の競技を批判するのは間違っているというのです。

今回のオリンピックで正式種目になったいわゆる「若者スポーツ」には、選手たちが互いを尊重し、競いながらも強い仲間意識を感じている素晴らしい文化があることが分かり、私はとても爽やかな思いを感じました。そして、サッカーでもそうした意識を高め、文化にまでなるよう、働きかけを続ける必要があると強く感じたのです。

サッカーは世界で最も多くの人がプレーを楽しみ、トップクラスの競技を応援しているスポーツです。あまりに世界に広まったためか、サッカーの「お国ぶり」もさまざまで、ライバル意識やヒロイズムばかりが先行し、互いへのリスペクトをどこかに置き忘れ、それが国と国の関係だけでなく、チームとチームの関係、選手と選手の関係にまでまん延してしまっているように感じます。

世界で最も盛んなサッカーでリスペクトの精神を「文化」にすることができたら、サッカーは今よりずっと大きな価値を人類にもたらすことができるはず――。私は本気でそう考えています。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2021年9月号より転載しています。

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