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10ヤード・ルール ~いつも心にリスペクト Vol.135~
2024年08月29日
サッカーという競技で最もリスペクトされていないもの、それは「10ヤード・ルール」ではないでしょうか。メートル法にすると「9・15メートル・ルール」。そうです。フリーキック(FK)のときに相手側のプレーヤーが守らなければならない距離です。
『サッカー競技規則』の第13条(フリーキック)第2項(進め方)に、以下のような記述があります。
「ボールがインプレーになるまで、すべての相手競技者は、(中略)少なくとも9・15m(10ヤード)ボールから離れなければならない」
小学生年代で行われている「8人制サッカー」では「7メートル」ですが、11人制では例外なく「9・15メートル」が適用されます。サッカー選手なら、「手でボールを扱ってはいけない」というルールとともに、誰でも知っている距離ではないでしょうか。
ところが ――。誰もが知っているのに、誰も守ろうとしないのが、この距離なのです。
反則があってレフェリーが笛を吹き、FKを与えます。すると守備側の選手はまずそのボールの前に立ち、攻撃側がすばやくFKをするのを妨害します。攻撃側の選手は「どけよ!」とばかりに手を伸ばし相手を押します。非常に醜いシーンです。主審が寄ってきて攻撃側の選手に「離れて!」と注意するとようやく離れていきます。
ゴール近くで直接得点を狙う位置でのFKになると、この「クイックスタート防止作戦」との組み合わせで、「6~7メートルの壁作戦」が展開されます。壁がボールに近すぎるのは誰の目にも明らかなのですが、レフェリーが下げるまで時間かせぎをするのです。
これに対し、現在のJリーグでは、「バニシングスプレー」という新兵器が使われています。1分間で消えて見えなくなるというスプレーを使って、レフェリーがボールの位置をマークし、ボールから9・15メートルの距離のところに線を引くのです。
この道具そのものが、ルールがいかに守られていないか、そしてまたプレーヤーたちがレフェリーをいかにリスペクトしていないかの証拠です。スプレーが使われる以前には、レフェリーが守備側の選手を9・15メートルまで下げても、キックの前にじわじわと前進してしまうという行為が横行していました。そして攻撃側も、レフェリーが背を向けている間にボールの位置をずらせるなど、少しでも有利にしようとします。こうした姑息な手段を防止するために、スプレーが必要になったのです。
この世の中には、数百とも数千ともいわれるたくさんの種類のスポーツ競技があります(8000という説もあります)。その中で現在、サッカーが最も人気のある競技であるのは多くの人が認めています。
しかしその一方で、「サッカーは平気で卑劣なことをするから嫌い」という人もたくさんいます。競技それぞれに独特の文化や様式があって当然なのですが、サッカーでごく当然のように行われていること、スローインのときにどんどん前に進んでしまう、FKのときに意図的に近くに立って妨害したりキックを遅らせようとするなどの行為は、中でも多くの人に嫌われています。そうした見方を、「それがサッカーの常識」のひと言で無視していいのでしょうか。
FKの妨害や近すぎる壁、すなわち競技規則第13条第2項の明確な違反に対して、レフェリーが断固たる態度で処罰できるよう、ルールの改正が不可欠です。
しかしそれ以前に、プロ、アマチュアを問わず、サッカーを愛し、サッカーをプレーしている人々が、こうした行為が姑息で卑劣で醜いだけでなく、サッカーという競技の魅力を大きく損なわせているという事実をしっかりと認識しなければならないと、私は考えています。バニシングスプレーなどという情けないものに頼らなくても、自分たちでしっかり距離を保つサッカーになっていかなければなりません。
「10ヤード・ルールへのリスペクト」は、これからもサッカーが人類に愛され続けるための大きなカギになるのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年7月号より転載しています。
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