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ラグビーにおけるリスペクトとは ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.79~

2019年04月10日

ラグビーにおけるリスペクトとは ~サッカーの活動における暴力根絶に向けてVol.79~

ラグビーの試合では、フルタイム(日本国内ではノーサイドという言葉が用いられることもある)のホイッスル後、ピッチ上で両チームの選手が握手をしたり、レフェリーに握手を求めたりするシーンがあります。これは、ラグビーにおいて選手およびレフェリーがリスペクトし合ってプレーしている証拠であり、ラグビーにおけるリスペクトが如実に表れている瞬間でもあります。

レフェリーをリスペクトしていると言われる由縁

英国でのラグビーは教育手段(アスレティシズム)としてスタートし、勝敗よりも試合を通してジェントルマンを育成することに主眼を置いていました。そのため、レフェリーに対するクレームは自己矛盾の最たるものであり、レフェリーの笛に忠実な振る舞いをすることがジェントルマン的なスポーツマンらしい行為と言われました。ここから、試合中および試合後にレフェリーに対してあいさつを行う文化が生まれたのではないかと考えられます。
「自己を知る、自己を律する、自己に打ち克つ、これこそがアスリートの義務であり、最も大切なことである」P・クーベンダン

レフェリー制度

1845年のルールブック(世界最古のフットボール・ルール)にはレフェリーに関する項目や言葉が見当たりません。当時、審判の役割は対戦している両チームのキャプテンが何か協議しなければならなくなった時点で話し合って決めていました。
71年にイングランドが協会を結成し、統一ルールを定めたときに、最後の条項で「あらゆる争点について調停者になれるのは両チームのキャプテンだけである」と明記しています。81年には両チームのキャプテンによる解決に限界が生じたため、アンパイア制度を導入しました。アンパイアは両チームのキャプテンが決め、選ばれた者が務めました。しかし、ここでも問題点として中立性・意見の不一致が起き、85年にイングランド協会がレフェリー制度を導入し、現在の形となるレフェリーと2名のアンパイアを設けました。そして、92年にレフェリーと2名のタッチジャッジ制度となりました。
〔レフェリーとアンパイアの違い〕
アンパイア:事実の見極め
レフェリー:問題解決を依頼された人(両者の仲裁者・調停者)

英国におけるスポーツ価値の社会化

英国人の価値基準の原点には「フェア」という観点があるとも言われ、最大の価値を置かれているようです。対等な条件でのみ勝負に臨むべきで、相手側のチャンスも同等に重んじます。
こんな逸話もあります。あるチームが対戦相手のグラウンドに遠征したときに、傾斜のあるグラウンドで試合を行うと言われたそうです。傾斜があるため、傾斜下のチームは不利ではないかとホームのチームに申し入れをしたところ、前後半でサイドが入れ替わるのだからイコールコンディションと答えられ、試合が行われたそうです。
フェアとは、戦いにおける機会などの諸条件を等しくすること(平等・均等)。スポーツにおけるフェアは、単なる公平・平等ではなく、戦い・競争のもとでの機会の平等・均等であり、戦い方でのチャンスとなり、条件の同等・平等性を求めるものです。

リスペクトとは?

ラグビーの競技規則書(ルールブック)には、第1条の前にラグビー憲章と項目があります。99年にワールドラグビー(ラグビーユニオンの国際統括団体)が憲章を制定しました。ラグビーというスポーツをプレーし、コーチし、競技規則をつくり、適用する際の基本原則を網羅しています。この憲章は、競技規則とともに、欠かすことのできない重要なものであり、全てのレベルでプレーする人たちのための基準を示すものです。
ゲームをプレーすること、それに伴うサポート活動とは別に、ラグビーには勇気、忠誠心、スポーツマンシップ、規律、そしてチームワークといった多くの社会的・情緒的概念が包含されています。この憲章は、競技方法と行動の評価を可能にするチェックリストを示すためにあります。そしてその目的は、ラグビーがそのユニークな特徴をフィールドの中と外の両方で維持することを確実なものにすることにあります。
ラグビーは、成人の男性にとっても女性にとっても、少年少女にとっても価値のあるスポーツです。ラグビーは仲間の競技者との間のチームワーク、理解、協力、そして尊敬をつくり上げます。その基になるのは、それらがいつでもそうであったように、参加する喜び、ゲームが要求する勇気とスキル、関与する全ての人々の人生を豊かにするチームスポーツへの愛、そしてゲームにおいて共有される興味を通して築かれる生涯の友情です。
そのような偉大な友情が試合前にも試合後にも存在するのは、ラグビーの持つ激しい身体的・競争的特徴があるからです。競い合うチームの選手がお互いに楽しむという長きに渡って存在する伝統は、ゲームの中核となる部分として今日も存続しています。
ラグビーはプロフェッショナルの時代の到来を完全に受け入れるようになりましたが、レクリエーショナルなゲームとしての特質と伝統は残っています。伝統的なスポーツの特質の多くが弱められ、あるいは疑われる時代にあって、高い水準のスポーツマンシップ、倫理的な行動、そしてフェアプレーを維持する能力をラグビーが有することを、ラグビーは真に誇りに思います。この憲章は、これら大切に守られてきた価値を強めるための一助になることを期すものです。
ラグビーの魅力の多くは、ラグビーが競技規則に記された文言に従うとともに、競技規則の精神の中でプレーされているという事実にあります。これが確実に起きるようにする責任は一個人に帰するものではなく、コーチ、キャプテン、選手、そしてレフェリーを含むものです。
2019年にはラグビー最高峰の大会「ラグビーワールドカップ」が日本で初開催(アジア初)されます。ラグビーワールドカップを通して、ラグビーの楽しさ、リスペクト精神を伝えていきたいと思います。

【報告者】岸川剛之(公益財団法人日本ラグビーフットボール協会審判委員長/JFAリスペクト・フェアプレー委員会委員)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2017年5月号より転載しています。

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