ベスト16に進出を果たした2010 FIFAワールドカップ 南アフリカは、日本代表がまた一歩、世界に近づいた大会となった。4年後の2014 FIFAワールドカップ ブラジルでは、さらなる上位進出を――。そんな期待を背負い新たなチームの指揮官に就任したのは、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督だった。ミラン、インテル、ユベントスといったイタリアの強豪クラブを率いてきた名将に、日本代表の未来は託されたのである。
「代表監督の中でもより攻撃的な監督だと思います。イタリア人というと守備がベースとなるサッカーをイメージしていましたが、良い意味で裏切られたという監督でしたね」
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そう振り返るのは、ザッケローニ監督のチームでも主軸を担った遠藤保仁選手だ。フィリップ・トルシエ監督をはじめ、ジーコ監督、イビチャ・オシム監督、岡田武史監督と多くの代表監督の下でプレーしてきた遠藤選手にとって、ザッケローニ監督は新鮮で面白みのあるスタイルをもたらしてくれた指揮官として印象に残っている。
南アフリカ大会のメンバーの多くがそのまま主軸を担うなか、遠藤選手もレギュラーの座を掴んだ。立ち上げからわずか半年後に開かれた2011年のAFCアジアカップ カタールでは、いきなり優勝を実現するなど、日本代表は早い段階でチームとしての機能性を携えるに至っていた。
「イタリアの監督が初めての選手がほとんどだったと思うので、もちろん最初は手探りな部分もありました。アジアカップまでは半年くらいしかありませんでしたけど、ザッケローニさんが掲げるコンセプトのイメージはしっかりと持てていた。アジアカップで結果が出せたのは自信になったし、監督もある程度手応えを掴めたと思います。普通、2年くらいかかるところを、半年でいいところまで持っていけた。もちろん完成はしていませんでしたけど、比較的早い段階でチームになっていたと思います」
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ザッケローニ監督のもとで着実に強さを身に付けていった日本代表は、2011年8月に札幌で行われたキリンチャレンジカップで韓国代表に3-0と快勝。その勢いのまま9月から始まった2014 FIFAワールドカップ・アジア3次予選に臨むこととなった。
「韓国相手に、あれだけ大差がつくというのは、代表の中でもあまりなかった。内容的にもいい試合ができましたし、いい流れで進んでいるという感覚はありました」
しかし、キリンチャレンジカップとワールドカップ予選は別物だった。ホームで行われた朝鮮民主主義人民共和国代表との3次予選の第1戦は苦戦を強いられる。0-0で迎えた後半アディショナルタイムに吉田麻也選手が起死回生のゴールを叩き込み、1-0と勝利したものの、厳しい戦いを予感させる幕開けとなった。
もっとも、選手たちは冷静さを保っていた。
「結果を見れば、厳しいと思われるかもしれませんが、選手たちはネガティブには考えていなかったと思います。ホームで勝点3を取ることが絶対条件のなか、試合に向かう準備だったり、雰囲気だったりは悪くなかったと思います。なかなか点が決められなかっただけ。そういうことは、サッカーではありますから。良いスタートを切ろうという気持ちが、空回りした部分は多少あったのかもしれないですけど、狙い通りに勝点3を取れたわけですから、苦戦したという感じではなかったですね」
しかし、日本代表は続くアウェイのウズベキスタン代表戦で引き分けに終わってしまう。開始早々に失点し、岡崎慎司選手のゴールでなんとか引き分けに持ち込んだ試合だった。
「ウズベキスタンは強かったですよ。グループの中でも、一番嫌な相手ではありましたね」
ウズベキスタンにはホームの試合でも敗れ、結果的に日本はウズベキスタンに次いで2位で3次予選を通過した。一見苦戦したかに思える戦いだったが、それでも遠藤選手に厳しかったという印象はない。
「3次予選に関しては、普通に自分たちの力を出せばなんとかなると思っていたので、焦りというか、ドタバタする感じはなかったですけどね」
2012年6月、アジア最終予選がスタートする。日本代表はオマーン代表、ヨルダン代表、イラク代表、そして前回大会に続いてまたしてもオーストラリア代表と同グループとなった。
「また、オーストラリアかとは思いましたけど。あと、イランが反対のグループだったのはラッキーだなと思っていました。アジアの中でイランが一番やりづらいと思っていましたから。僕らのほうが勝ち進みやすいグループかなという印象だったし、普通に戦えば、問題もなく突破できると考えていました」
もっとも、遠藤選手は再び同組となったオーストラリアには、浅からぬ因縁も感じていた。
「一番警戒するチームでしたし、過去を振り返っても引き分けが多かったですから。もし、ここで勝点を取れなかったら良くない状況になるかもしれない。意識する相手ではありましたね」
アジア最終予選は、わずか10日間で3試合をこなすハードなスケジュールで始まった。
「3連戦でしたけど、最初の2試合がホーム開催だったので、そこで勝点6を取りたいと思っていました」
初戦の相手、オマーンに3-0と快勝を収めると、続くヨルダンには6-0と圧勝。日本代表は目論み通りに最高のスタートを切った。
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「理想的なスタートだったと思います。勢いに乗るためにも、いい結果だなとは思いましたね。ヨルダン戦はこちら主導権を握る展開になりましたけど、相手選手が退場したのも大きかった。ホームで勝つのは当然でしたけど、気の緩みはなかった。狙い通り勝点6を取って、オーストラリア戦に臨めたことは良かったですね」
2連勝を飾った日本代表の第3戦の相手は、オーストラリア代表。序盤の大一番と言えたアウェイでの一戦は、65分に栗原勇蔵選手のゴールで先制しながら、70分にPKで同点に追いつかれ、1-1で引き分けた。
「ホームで勝点3、アウェイで勝点1を取れば、突破できるなかで、セオリー通りの結果だったと思います。もちろん、勝ちたかったし、勝てたと思う。ただ3試合で勝点7は悪くない数字でしたし、オーストラリアに3ポイントを与えなかったという意味でも、良い結果だったと思います」
順風満帆の船出。ブラジルを目指す日本代表の航海は、不安とは無縁の最高のスタートとなっていた。
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