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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第1回 藤本栄雄 ベトナム代表アスレティックトレーナー
2015年01月09日
日本サッカー協会では、1999年以降多くの指導者をアジアの様々な国・地域に派遣しています。代表監督や育成コーチ、審判インストラクターなどを現地で務め、チームや選手、審判員の育成・強化に尽力しています。今月から、アジアの様々な環境で「アジアサッカーの発展」を合言葉に活動する指導者の生の声をお伝えします。
2014年秋、アセアンの雄を決めるAFF SUZUKI CUP 2014において2大会ぶりのベスト4進出を果たしたベトナム代表。チームの躍進には、2人の日本人指導者が大きな役割を果たしました。第一回目は、三浦俊也監督とともにベトナム代表に帯同した、藤本栄雄アスレティックトレーナーのレポートです。
コミュニケーションの重要性を再認識
ベトナム代表トレーナーとして帯同したこの3か月間は刺激的で非常に内容が濃いものでした。今回はASEANのチャンピオンを決める「SUZUKIカップ」に向けてチームをサポートすることが大きな仕事でしたが、両国の文化や考え方が違う部分において、どのように選手やコーチにアプローチしたら良いか日々考えました。
一番苦労し、学んだのは、やはりコミュニケーションの重要性でした。私以外のメディカルメンバーであるベトナム人ドクター、フィジオとの会話には片言の英語もしくはベトナム語を使っていました。お互い拙い英語でやり取りしていたため、うまく伝わらないこともありましたが、通訳を通し、また三浦監督のサポートを受けながら何度も話を重ねることにより、なんとか業務を遂行することが出来ました。互いの異なる文化や考え方を尊重しつつ、こちらの考え方を提案し、そして実際に実行する。そして実行後さらに話をして、選手の考え方や感想を聞いていきました。お互いが納得するまで擦り合わせを繰り返すことがやはり大事だと思いました。最初はなかなかうまく伝わらなかったこともありましたが、最後は選手、コーチも理解して一生懸命取り組んでくれたと思います。
ベトナムに残したもの
ベトナムでは怪我の診断や評価は日本と変わらないものでしたが、怪我の予防やリハビリテーションは積極的には行っていませんでした。ここが日本とベトナムのトレーナー業務の大きな違いです。日本では怪我のため練習から外れて別メニューになると、復帰時期までのプランを立てて再受傷しないような体作りをしていきます。しかしベトナムでは、痛みが落ち着けば選手自身の判断で突然復帰する例も見られました。そのため、まずはメディカルスタッフで選手の状態を共有するためのミーティングを実施しました。結果、選手が自分の感覚のみで復帰することがなくなりました。
今回、ベトナム代表に帯同することにより、「傷害予防」を遺産としてチームに残せたのではないかと思います。ウォーミングアップ前5分から10分程度筋温を高めるようなエクササイズは、当初怪我から復帰した選手に対して行っていたのですが、その他の興味を持った選手が徐々に参加し、最終的には三浦監督と相談してチーム全体で行うようになりました。今後も選手が自主的に傷害予防を継続して怪我が減ることを願っています。
三浦俊也監督は、ベトナムで高い評価を得ています。SUZUKIカップ前の親善試合やアジア大会でも結果を残しましたし、SUZUKIカップもグループリーグを首位通過し、準決勝第1戦でも素晴らしいゲームで勝利をおさめました。残念ながら第2戦に負けてしまい、準決勝で敗退してしまいましたが、選手、スタッフ、ベトナム協会の三浦監督への信頼は揺らいでいません。今後のオリンピック予選やシーゲーム(東南アジアのオリンピック)に向け、さらなるベトナム代表の強化において、三浦監督の手腕に期待がよせられています。
アスレティックトレーナーは、国籍に関係なく選手、スタッフから信頼されなければなりません。コミュニケーションを重視し、普段から選手の些細な変化も見逃さないことが大事だと思います。私自身も今回のベトナムでの経験を生かし、さらに積み重ねを続けてアスレティックトレーナーとして成長していきたいと思います。
藤本栄雄(略歴)
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
JFAアカデミー福島勤務の傍ら、各カテゴリーの日本代表チームに数多く帯同。鍼灸及びFIFA公認サッカー傷害予防プログラムインストラクターの資格を持つ。
次回レポートは2月上旬を予定しています。