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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第9回 河本菜穂子 モルディブ女子代表監督
2015年09月16日
モルディブでの生活
モルディブは、市民の99パーセントがイスラム教徒のため、一日5回のお祈り時間が生活リズムの基本になっています。会社や学校は日曜日から始まり、金曜日と土曜日が休みです。休息日である金曜日は特別なお祈りの日でもあり、お祈りを行う男性達が道路まで溢れだして道を封鎖します。初めてその光景をみた時は大変驚き、イスラム教の国にいることを実感しました。
小学校から全授業が英語で行われるため小学生以上の子供たちの日常会話は英語を使い、家庭の中だけ母国語のディベヒ語を話しています。 韓国やインドの歌、日本やアメリカの漫画、イングランドのサッカーなど、様々な文化に触れて育っている一方、電車、地下鉄、新幹線に乗ることや山、川、湖で遊ぶこと、動物園を訪れたり、雪に触れるなど中学生年代でも未体験なことが沢山あります。また、女子の場合、股関節ストレッチや馬跳びは、脚を広げてはいけないという考えで恥ずかしさを持っている選手も多くいます。男子のモルディブ代表チームは国内で大変人気が高く、代表戦となると国中を挙げて応援します。
モルディブにおける女子サッカー
現在、女子代表チームに加えて、U-14女子代表チームの活動にも携わっています。この年代はまだサッカーを始めて1、2年目の選手ばかりで、今は週3回、基礎運動能力とスキル向上を目標にトレーニングとゲームを行っています。
「代表監督」は初の挑戦ですが、選手・コーチングスタッフ・モルディブ協会、更にモルディブオリンピック委員会のサポートを得て、業務を行っています。私の赴任以降、規律やルールの遵守を意識すること、更に代表選手としての行動や考え方が少しずつ出来るようになってきました。スキル面や戦術理解度も上がり得点チャンスを作りだすシーンも見られます。高いモチベーションで積極的にトレーニングに取り組むようになり、チーム力は上がりつつありますが、フィジカルや1対1、そしてチーム内での競争力強化が課題です。
モルディブでは2003年の女子代表チーム活動開始以降、男子選手と同じ場所、更に市民の目につく場所でサッカーをするなんて考えられなかった時代が11年ほど続いていましたが、私の初采配となった昨年の南アジア女子選手権で女子代表チームが国際試合史上の初勝利を挙げて国中の注目を集めました。それも手伝ってか少しずつ環境の変化があり、協会に隣接する男子チームが使用するグラウンドで女子もトレーニングが出来るようになりました。その光景が日常的になるにつれ、女性がサッカーすることへの認知度も高まっています。
将来は、モルディブの女子サッカーのために育成年代のトレーニング環境を整え、女性のサッカー人口を増やし、女子サッカーがモルディブ国内の人気スポーツになるようキッズ年代から働きかけていきたいですね。また時期をみて女子リーグの創設も考えています。自分一人では実現出来ないので、協会関係者の方々とよく話し合い作り上げていこうと思います。
海外を目指す女性指導者へのメッセージ
昨年3月にJ-GREEN堺にて行われたJFA主催の「国際女子コーチングコース」への参加を通じて多くの女性コーチたちと出会い、アジア各国の女子サッカー情報を共有することで私自身の意識が変わりました。その時は初めて、モルディブにおける女子サッカーの存在を知った程度でしたが、その夏に、南アジア女子選手権大会に向けての短期派遣のお話をJFAからいただき、家族のサポートも得て、私のチャレンジがスタートしました。
アジアでは多くの女性指導者が求められており、日本人女性指導者なら誰にでも海外で経験を積むチャンスがあります。そのチャンスを得るためには、日々何事にも自分で責任を持って決断し行動すること、そして英会話の勉強も必要です。いつくるか分からないチャンスが巡って来た時にチャレンジできるよう毎日を大切にし、また、自分がサッカーに対して真剣に考え行動していることや自分の夢について、日頃から家族や周囲の人たちに熱意を持って伝えることでサポートも得られるのではないでしょうか。海外での指導経験は日本サッカーへの貢献にも繋がります。一人でも多くの女性指導者が海外にチャレンジしてほしいと切に願っています。