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【ワールドカップを戦った男たち#第3回】遠藤保仁 後編
2018年06月21日
SAMURAI BLUEが、自国開催以外で初めてグループステージを突破した2010年南アフリカ大会。
岡田武史監督の指揮の元、ピッチに立ったグループステージ3戦目のデンマーク戦で遠藤選手は、ワールドカップでは自身初となる『ゴール』を決めている。得意のフリーキックだった。引き分け以上でノックアウトステージ進出を決められるという状況でこの一戦を迎えた日本は、前半17分に本田圭佑選手のフリーキックで先制点を奪うと、30分のフリーキックのシーンでキッカーに立った遠藤選手が右足でゴールを捉えて追加点を奪う。これにより俄然、優位に立った日本は最終的に3対1で勝利をおさめ、ノックアウトステージ進出を決めた。
「実は前日の公式練習でフリーキックの練習をしていた時は10本近く蹴ったのに、1本も決まらなかったんです(笑)。ただ、デンマーク戦は標高の高いスタジアムでの開催だったので、あらかじめ『ボールに当たる箇所がほんの少しでもズレたら大きくボールが飛んでしまう』とか『いつも通りの感覚で蹴っても普段以上にカーブがかかる』といった感覚をなんとなくでも掴めていたのは大きかった。それらを踏まえ、また、デンマーク戦では練習していたポイントより少し遠目だったことから、やや強めに蹴ったのですが、ボールが当たる箇所、角度、軌道まで全てイメージ通りにボールが飛び、ゴールを捉えることができました。このゴールで相手が3点取らなければいけない状況に追い込めたという意味では貴重なゴールだったと思います」
ただし、遠藤選手曰くこのゴールは、彼がサッカー人生で量産してきたゴールの中で「ベスト10にさえ、入らないゴール」だと振り返る。その理由には、彼らしい『ゴール』へのこだわりと、サッカー感が溢れていた。
「サッカーは一人で結果を出せるスポーツじゃない。だからこそ、僕はフリーキックのようにキッカーだけが目立つゴールより、流れの中から、みんなで繋いで奪うゴールが好きなんです。それに、ペナルティーキックでゴールを決めた時はメディアにも『誰がペナルティーキックを得たのか』というところまでクローズアップしてもらえるけど、フリーキックは大抵の場合、『誰が決めたか』だけがクローズアップされて、フリーキックを誰が獲得したかまで注目されることはまずない。僕が決めたフリーキックも…あの時は嘉人(大久保嘉人選手/ヴィッセル神戸=当時)がファウルを受けたことで僕のゴールが生まれましたが、それを覚えている人はほとんどいないんじゃないかな(笑)。そういう意味では…ゴールを決められたこと自体は素直に嬉しかったけど、自分の中では『ベストゴール』には入りません」
遠藤選手が出場した3度のワールドカップにおいて最も好成績を残したのも、この南アフリカ大会だ。同大会のグループステージにおいて、初戦のカメルーン戦を白星発したSAMURAI BLUEは、オランダ戦にこそ敗れたものの、先に書いた『引き分け以上で勝ち抜ける』という状況下での3戦目、デンマーク戦で白星を掴み、2002年以来、自国開催のワールドカップ以外では初のグループステージ突破を決める。その理由について彼は「1戦目を勝ったことによる心理的余裕」を挙げた。
「ワールドカップのグループステージは勝ち点9の奪い合いで、現実的に最初の2試合で1つでも白星を積み上げられなければグループステージ突破は厳しくなりますからね。そのどちらかで勝てばいいとはいえ、1戦目に勝った方が2戦目を戦うにあたっての心理的余裕が生まれると考えれば、南アフリカ大会で初戦を勝利できたのは大きかったし、その効果は2戦目を戦った際にすごく感じました。実際、仮に1戦目で敗れたとすると、2戦目のオランダ戦は『絶対に勝たなければいけない』という考えが働いて、もっとガチガチの戦いになっていたと思います。でも1戦目を勝っていたことでオランダ戦は入りかたも良かったし、負けはしましたけど、ある程度狙い通りのサッカーができて3戦目に繋げられた。それもデンマーク戦での結果を引き寄せられた理由だと思います」
その言葉を踏まえ、今回のロシア大会について尋ねてみる。遠藤選手自身は「自分が日本代表として戦っている時に、そこにいない現役選手からあれこれ分析されるのは好きじゃなかった」からだろう。「日本代表に関する戦術的な分析はしたくない」という前提で、グループステージ突破の『カギ』について、考えを聞かせてくれた。
「今大会も1、2戦目で白星が欲しいというのは間違いないはずですが、正直、南米の強さは尋常じゃないですから。上手さ、速さ、強さ、ズル賢さという全てを兼ね備えた選手が多い。例えば1対1のシーンにしても、ヨーロッパの選手なら力対力で真正面からバチンとぶつかってくるけど、南米は独特な強さで嫌な当たり方をしてくる。そういう意味では初戦のコロンビア戦はかなり難しい試合になるはず…と考えても、2戦目がキーなのかな、と。そこでしっかりと勝ち点3を積み上げるためのチームとしての空気があって、それをプレーに繋げられて、勝利という結果を掴めれば、突破の可能性は十分あると思います」
と同時に、ガンバ大阪監督時代には10年間にわたってともに仕事をし、数々のタイトルを獲得した西野朗日本代表監督についても、その手腕をよく知る遠藤だからこそのエールで激励した。
「ガンバ監督時代の西野さんは、どういう状況に置かれても常に攻撃的な姿勢を崩さない監督でした。途中交代の選手もほとんど前線の選手ばかりで、守備で固めるというような戦いもほぼなかったですしね。それはどんな大一番でも変わらなかった。そうした強気な姿勢が日本代表でも見られるのか。あるいは相手との力関係を考えてもっと現実的な戦い方を選択するのか。日本代表監督として指揮をとる姿をほぼ見ていないので、どういう戦いを目指されるのかは現時点で分かりませんが、僕は前者が西野さんの『勝負強さ』を裏付ける理由だと思うだけに、そういう姿が日本代表でも見られたら嬉しいなとは思います」
そう話す遠藤選手に、最後に改めて自身のことについて尋ねてみる。ここ最近は日本代表から遠ざかり、4大会連続のワールドカップ出場を実現できなかった中で、その胸にあるプロサッカー選手としての『野望』には今も『ワールドカップ』が含まれているのだろうか。
「カタール大会は目指しますか?」
単刀直入に質問をすると、間髪を入れずに「もちろん!」と言い切り、改めて日本代表への思いを聞かせてくれた。
「これまで選ばれてきた日本代表は常に自分を成長させてくれる場所でした。特に『海外組』ではなかった僕にとって、代表に行って世界を体感し、自分の実力を知り、課題を感じ、新たな強みを自分に備えるという繰り返しがなければ、今のキャリアもなかったと思います。だからこそ『代表引退』の概念は僕にはありません。サッカー選手として国を背負って戦う厳しさも、楽しさも十分に知っているからこそ、現役選手である限りは全力で、カタールを目指します」
遠藤保仁選手が日本代表として戦った国際Aマッチは、日本人では歴代最多となる152試合。それだけの経験を積み上げてもなお、かつて日本代表を目指していた10代の頃のように目を輝かせて日本代表への『欲』をギラつかせる。その変わらないプロサッカー選手としての熱こそが、今も彼が日本のトップリーグで輝き続ける理由でもある。
(このインタビューは6月4日に収録したものです。)
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