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【VARを知ろう】「サッカーがステップアップするチャンス」山本昌邦JFA副技術委員長インタビュー
2020年02月20日
2020シーズンより明治安田生命JリーグでVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入されます。ここでは解説者として“サッカーを伝える”立場でもある山本昌邦JFA副技術委員長に、VARがサッカーにもたらすもの、VARとの向き合い方などについて聞きました。
※このインタビューは2月5日に実施しました。
――VARの導入について、まずは率直な意見を聞かせてください。
山本 僕は導入には大賛成です。サッカーのクオリティーが上がり、より得点が増えると思っています。事実、2018FIFAワールドカップロシアではPK判定の数が大幅に増加したんですよね(29回。2014年ブラジル大会は13回)。僕が見る限り、VARの導入でペナルティーエリア内のプレーの質や内容が変わりました。
――VARが導入された試合を解説されていますが、どのような印象を持たれましたか。
山本 ドイツ・ブンデスリーガの解説をすると、「そういえばVARあったんだよな」 と感じる試合が多いですね。そのぐらい審判がうまく対応していますし、試合の流れも止まりません。サッカーの本質を逸脱せず、できるだけゲームがスムーズに流れて止まるシーンが少ないというのが、選手の集中力や感情など、いろいろな側面を考えると最も重要なことだと思いますし、その点、ドイツはレベルが高いですね。必要なシーンにだけ介入してくるので、見ていて分かりやすいです。
――ドイツでは2017-18シーズンからVARが導入されています。
山本 ドイツの場合、(試合会場ごとにVORを設置するのではなく)ケルンにマッチセンターを設置し、そこですべての試合をモニタリングできるようにしています。VAR担当者の移動コストなどが削減できますし、一括して交信できるという部分でも非常に効率的だと思います。レベル自体も非常に高いですね。
――日本では今年から本格導入されます。審判のレベルアップも含め、課題と向き合いながらのスタートになると思います。
山本 多少の失敗やミス、アクシデントは起きると思いますけど、それを改善させながら進化していくことが大事ですね。進化するにはチャレンジする必要がありますし、チャレンジにはある程度の失敗がつきものです。そこをどれだけ効率よく改善させていくかが大切だと思います。
――AFC加盟国ではオーストラリアや韓国ですでにVARが導入されています。
山本 アジア全体をレベルアップさせるためにも、日本での導入は不可欠だと思います。日本特有のきめ細やかさを生かせる分野だと思いますし、Jリーグがモデルケースになってどんどん進化させ、アジア諸国の審判が研修をしに来るぐらいになってアジアをリードしていかなければならないと思います。
――VARの導入によって、サッカーはどのように変わっていくのでしょうか。
山本 攻撃面では、ドリブラーの価値が見直されています。ボールを持ってペナルティーエリア内に仕掛けていける選手が重要になってくると思います。ドリブルを仕掛けて倒れた場合、相手DFとの接触があったかどうかが明確になりますし、ペナルティーエリア内で接触があればPKになりますからね。一方、守備側では正当な能力のあるDFが評価されるようになるでしょう。ユニフォームを掴む、相手を抱えるといったファウルが、特にペナルティーエリア内ではできなくなりますので、1対1で抜かれないように自分の能力を高めるしかありません。VARが運用されることで、サッカーの魅力的な部分がよりレベルの高いものになると思います。
――監督という立場だったとしたら、VAR導入に際して選手たちにどのようなことを伝えますか?
山本 「こういうプレーは危険」というのをしっかりレクチャーするでしょうね。戦術的なことに関して言うと、セットプレーは今後、非常にリスクが高くなります。全ゴールの3分の1がセットプレー絡みだと言われていますし、ペナルティーエリア内に入ってしまうと守備側の対応が非常に難しくなるので、ディフェンシブサードでは極力ファウルをしないように、ということを伝えるでしょうね。ワールドカップで上位進出するような強豪は、ディフェンシブサードで1試合に数本程度しかFKを与えないですからね。
――改めて、VARの導入に期待することを教えてください。
山本 2020年のVAR導入は、サッカーが一気にステップアップするチャンスだと思います。特に子どもたちのプレーのクオリティーが上がることに期待します。ごまかせなくなるので指導者側は正しいプレーを教えなければならず、子どもたちは正当なプレーを磨くことができます。また、ペナルティーエリア内では攻撃側が非常に有利になりますので、個人技術で突破できる選手に育ってほしい。そういう選手が出てきたら、世界の頂点も見えてくるのではないかな、と思います。