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思いやりの輪がつながって ~いつも心にリスペクト Vol.133~

2024年06月25日

思いやりの輪がつながって ~いつも心にリスペクト Vol.133~

4月のある日曜日の午後、味の素スタジアムでの「FC東京×町田ゼルビア」という注目のカードの取材に行きました。

スタジアムの最寄り駅は私鉄京王線の飛田給駅。普段は各駅停車しか停まりませんが、試合のある日には特急が臨時停車してくれるのでとても助かります。しかし人気のカードとあって、特急はかなりの混みようです。途中駅から乗った私は、座席の前まで進み、空いていたつり革につかまりました。

そのときでした。前に座っていた若い女性が立ち上がり、「どうぞ」と席を譲ってくれたのです。一瞬驚きましたが、せっかくの厚意なので甘えることにしました。

「ありがとう」と言って座ると、隣に座っていた年輩の女性が英語で「私の娘です」と、にこやかに、そして誇らしげに話しかけてきました。「そうですか、どちらからいらしたのですか」と返すと、「台湾よ。娘がサッカーが好きなので、見に行くのよ」と言います。目の前でスマホに目を落としている娘さんのシャツは、なるほど、ホームチームのユニホームでした。

「先日の地震は大変でしたね。大丈夫でしたか」と聞くと、自宅が台北なので、だいぶ揺れたが被害はなかったとのこと。だから予定通り日本観光に来たのだと言います。

そんなことを話しているうちに次の駅に到着しました。すると年配の女性が目の前にきました。私はすぐに立つと、「ありがとう」という女性に、「この方が譲ってくれたんです」と、隣に立つFC東京ファンの台湾女性を紹介しました。女性が座ると、隣に座る「台湾の母」は私に向かってウインクしながら親指を立て、日本人女性にも「私の娘です」と話かけます。私が「台湾からいらしたそうです」と教えると、日本人女性は「あらまっ!」と驚いたように言って、英語で話し始めました。よく見ると、その日本人女性はなんとビジターチーム、町田のユニホームを着ているではありませんか。

それから10分もたたずに電車は飛田給駅のホームにすべり込み、私たちは「青赤(FC東京)」と「青(町田)」のファンの波をかきわけるようにホームに降り、スタジアムへの数百メートルの道を一緒に歩きました。

年配の女性が一人でサッカーを、しかもビジターチームのユニホームを着て見に行くというのはすごいなと思いましたが、聞くとスタジアムで息子夫妻と待ち合わせなのだそうです。「一人でアウェイの試合に来るのは初めてだったので心細かったけれど、電車の中でご親切な人に会えて、台湾の方ともお友達になれて、とてもよかったです」と、うれしそうに話していました。

台湾人のお母さんも、「娘がサッカーを見に行くというので私もちょっと心配だったけど、日本のサッカースタジアムは女性でもまったく心配がないんで安心しました。それに、ライバルの町田のファンとこんなに楽しく話ができてお友だちになれ、とても気に入りました」と、笑顔を見せました。

味の素スタジアムは3万人を超えるファンでにぎわっていました。午前中には顔を見せていた太陽は雲にさえぎられていましたが、風がないため寒さは感じず、サッカー観戦にもってこいの午後。試合はとても激しく、スピード感に富んだもので、目が離せない展開になりました。

今季J1に上がったばかりながら勝利を重ねて好調の町田がCKから見事なシュートで先制し、すぐにFC東京がPKで同点にし、さらに目の覚めるような速攻から町田が勝ち越し点。スタジアムは沸きに沸きました。両チームの奮闘ぶりは、勝敗をつけるのがもったいないように感じましたが、そんなふうに思えたのは、もしかしたら、スタジアムに来る車中で出会った3人の素敵な女性たちのおかげだったかもしれません。

台湾から来た若い女性がきっかけになった「思いやりの輪」がつながって、見知らぬ同士だった人同士が、一期一会かもしれないけれど友情に包まれる――。その小さな幸福感が、試合を見る目にも影響を与えたのかもしれません。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年5月号より転載しています。

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