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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第5回 唐木田徹 カンボジア審判ダイレクター

2015年05月08日

アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~  第5回 唐木田徹 カンボジア審判ダイレクター

アジアの各国で活躍する指導者達の声を伝える「アジアのピッチから」。第5回は、カンボジアで審判ダイレクターを務めている唐木田徹氏のレポートです。
カンボジアは、2018FIFAワールドカップアジア2次予選で日本と同じグループEになりました。

ワールドカップ予選で日本と同組

カンボジアは今まで1次予選を通過した経験が無かったため、過去に予選での盛り上がりは皆無でした。よって、今回の2次予選進出は歴史的な出来事です。先日行われたドローの結果日本と同組となり、「正気の沙汰ではない!」「将来のカンボジアのためには一流のチームと戦える絶好の機会」と国民的な関心を集めています。もともと本田や香川の両選手はよく知られており、普段着として日本代表のユニフォームを着ているカンボジア人は多いです。2次予選の1戦目及び2戦目はホーム開催ですが、あいにくSEA Games(東南アジア大会)の準決勝・決勝と日程が重なります。SEA Gamesはカンボジアにとって国を挙げての大事な戦いで、U-23カンボジア代表とオーバーエイジの選手でチームを構成しています。同時期に行われるワールドカップ2次予選には別チームが必要なため、現在構成を検討中ですが、こちらのチームはテクニカルダイレクターの小原一典氏が指揮を取る予定です。

カンボジア人審判団が日本での国際親善試合を初担当

3月11日に千葉で行われた「U-22日本代表 vs. U-22ミャンマー代表」の国際親善試合で、カンボジアの審判トリオが笛を吹きました(*1)。国際主審3名、国際副審5名の中からランキングの高い順に選定し、過去のトレーニングや経験を十分発揮できるようメンタル面の準備を指示しました。試合を終えて彼らの感想は、「一方のチームが同じASEAN地域のミャンマーだったため、それほど緊張せずに済んだ。ピッチコンディションが良いので、イレギュラーへの対応等に気を使う必要がなかった。」その一方、一番苦心したのは寒さ対策。カンボジアでは気温が20度を下回ることがないため、日本の3月は寒過ぎて順応するのが何より大変だったようです。今回ASEAN以外の国、しかも日本でカンボジア人が試合を担当することは初めての経験であり何よりも強いインパクトでした。他のカンボジアの審判たちも「いつか自分も!」という思いが生まれたようです。

手探りでの審判育成

2008年の赴任当時は指導者が不在で、体力・知識(競技規則の理解)・技術(判定の精度とマネージメント)の概念も存在せず、どこから手を付けたらいいのか見当がつきませんでした。まずはとにかく①正しい判定するために良いポジションをとること、②その適正なポジションをとるための体力作り、の2つを目標にスタートしました。①については、「後追い(ボールの後をついて回るレフェリング)」が主流だった為、試合のビデオを見せて必要な時に「先取り(次にボールが来る争点を予測して先回りする)」でより正しい判定、またペナルティエリア内での重要な判定を正しくできるよう準備をすることを定着させることに努めました。30m以上も離れたところからPKの笛を吹くことが普通だったのです。②の対策として、「先取り」するためのスプリント能力、そしてカウンターに対しても持続してスピードを保てるようなインターバルトレーニングを週1回全員で行うようにしました。それまでは1時間で10kmほど走ることを”トレーニング”と称していたそうです。

日本人指導者の「トリオ」

現在カンボジアには壱岐友輔氏(カンボジアフットボールアカデミー・U-15カンボジア代表監督)(*2)と小原一典氏(テクニカルダイレクター)と私を含め計3名の日本人指導者が派遣されています。カンボジアは縁故の習慣が根強い為、しがらみに影響されない外国人が好まれるようです。中でも日本人が持つ清廉性・公平性はカンボジアでは強く支持されており、さらに日本はアジアサッカーの盟主と認識されています。昨年、壱岐氏発案により実現したU-15、U-17リーグは、ユース選手に活動の場を提供するとともに、トップリーグを目指す若手や経験の積み上げを必要とする中級レベル審判員たちにも実践を経験する絶好の場になりました。午前に試合を担当し、午後はビデオ分析・ビデオテスト・ディスカッションと1日をフルに利用した集中セッションは審判達にとって特に大きな成果となりました。また、小原氏のテクニカルダイレクター就任により、情報の共有が迅速かつ密になることを期待しています。

今後取り組んで行きたいこと

カンボジアでは首都プノンペンと隣接する1州しか目の届いた環境整備がされていないのが現状です。地方にも埋もれた人材がいるはずであり、より多くの人達に光が届くようなトレセン活動を、選手レベル(小原氏)、ユースレベル(壱岐氏)と共に審判レベルでも行いたいと考えています。70年代から約20年続いた内戦により、特に教育の基盤が失われたカンボジアでは、現在でも公平さに欠ける登用が多く正当に評価される機会がとても少ないのです。せめてサッカーの世界では、選手も審判も良い指導が受けられ、能力が適正に評価され、将来への夢と自信が持てる環境を作っていきたいと思います。

*1:2015/03/11 U-22国際親善試合の担当レフェリーがフクダ電子アリーナで前日練習を実施
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*2:2015/02/06 アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第2回 壱岐友輔 カンボジアフットボールアカデミー・U-15カンボジア代表監督
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