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サッカーにおける脳振盪などの事象に対する指針
JFAスポーツ医学委員会

世界的に見て、スポーツにおける脳振盪などの頭部外傷に対して、より慎重な対応が求められている。
JFA スポーツ医学委員会として、試合中あるいは練習中などに頭部外傷を被った選手に対する対応を、ピッチ上から復帰まで含めて、現在推奨されている具体的手順を述べる。 特に若年者の脳振盪の復帰には、より慎重に注意を要する。

1.ピッチ上での対応

ピッチ上で頭部外傷を被った可能性がある選手に対して、行うべき対応は、以下の通りの順序で行うのが望ましい。

  • 1)呼吸、循環動態のチェックをする。
  • 2)意識状態の簡単な確認後、担架(バックボード)などでタッチラインへ移動させる。この際には、頸部の安静には十分に注意する。(バックボードを扱うものは事前に使用訓練を受けること)
  • 3)簡易的な脳振盪診断ツール(スポーツ現場での脳振盪の診断:付図1)を用いて、脳振盪か否かの判断をする。これは、チームドクターによる診断が望ましいが、不在の場合には、アスレティックトレーナー(以下、AT) などが代行する。
  • 4)診断ツールで脳振盪が疑われれば、試合・練習から退くべきである。短時間のうち回復したとしても、試合復帰は避けるべきである。

2.24時間以内の対応

脳振盪が疑われた場合、短時間で症状が回復した場合も含めて、以下のような手順で選手を扱うのが望ましい。

  • 1)タッチライン沿い、ベンチあるいは控室などで休息をとる。この間はチームドクターあるいは AT などが頻回に選手の状態をチェックする。可能であれば、SCAT5を用いて、脳振盪の状況を客観的に評価する(SCAT5 はシーズン開始前など症状がない時にベースラインの検査を行なっておくこと)。
  • 2)受傷時に数秒単位以上の意識消失や健忘があった場合には、たとえ意識が正常に復したと思われても病院へ搬送をする事が望ましい。
  • 3)頭痛、吐き気、嘔吐などが新たに出現してきたり、一向に改善しない、あるいは悪化するようであれば、専門施設へ搬送する。これは脳振盪に併発し得る外傷性頭蓋内出血の可能性を考慮してのことである。
  • 4)経過が良好であるときは、帰宅を許可するが、24時間以内は単独での生活は避けるように指導する。また、のちに頭痛、吐き気、嘔吐が生じた場合には即座に病院を受診するように指導する。

3.段階的な復帰へのプログラム

段階的なサッカー競技への復帰プログラム(表1)は、脳振盪を起こしたハイレベルの成人サッカー選手に対し、管理された段階的な競技の再開を保証することを目的としている。構造的な損傷(頭蓋内出血や頭蓋骨骨折など)がある選手については、担当医が競技への復帰の手順を個別に判断する必要がある。
症状の出ない範囲での活動(フェーズ1)を開始する前、そして「通常の接触プレーを含むトレーニング」(フェーズ6)に復帰する前に再度、選手は担当医による再検査を受ける必要がある。医学的な再評価は、以下の点に重点を置いて行う。

  • ・受傷当日の異常診断所見
  • ・持続的または追加的な徴候や症状、またはその性質、強度、頻度の変化
  • ・身体的及び認知的トレーニング負荷が増えた中での症状の発現

段階的なサッカー競技への復帰プログラムは6つのフェーズで構成され、身体的要求(有酸素運動から無酸素運動へ、負荷なしから負荷を加えたものへ)、サッカーに特化したエクササイズ(単純なものから複雑なものへ)、接触のリスク(個別トレーニングからチームトレーニングへ、非接触からフルコンタクトへ)、頭部への衝撃(ヘディングなしからヘディングありへ)を段階的に増やしていくものである。各フェーズは、少なくとも1回のトレーニングセッションを含み、最低でも24時間かけて行う。いずれの段階においても、トレーニング中またはトレーニング後に症状が悪化または再発した場合は、その症状が治まるまで(少なくとも24時間)休息を取り、その後、症状が発現しなかったフェーズに戻ってプログラムを継続する。各フェーズをすべて無症状で終了した時点で、試合への復帰が医学的に許可されるべきである。若い選手や、脳振盪を繰り返し起こしたことがあるなど特定の危険因子を持つ選手に対しては、より慎重なアプローチを取らなければならない。
臨床的な回復とプレーへの復帰に要する時間枠は過去20年間で長くなってきているが、これはおそらく、損傷に対する意識の高まりと、損傷の認識、プレーからの離脱、スポーツ活動の医学的管理に関する指針や法律によるものと考えられる。
競技への復帰のための医学的許可は、必ず、脳損傷の処置経験が豊富な担当医が下すべきである。こうした許可は、「プレーしたい」という選手本人の意志や、症状の潜伏、あるいはコーチ、保護者、メディアを含む他者からのプレッシャーに左右されることなく、医学的な判断のみに基づくものでなければならない。

表1:段階的なサッカー競技への復帰プログラム

フェーズ活動範囲活動内容
1症状の出ない範囲での活動症状閾値を超えない(活動前の症状の悪化や追加的な症状の発現がない)日常活動、例えば10分間の歩行
2軽い有酸素運動(HRmax約70%まで)a)エアロバイクによる有酸素運動:ウォームアップとクールダウンを含み25~40分、低~中強度の控えめな運動
b)可動域運動やストレッチ、安定性トレーニング、およびバランス(両脚立位および片脚立位)エクササイズ
3サッカーに特化した運動 a)ピッチ上でのカーディオトレーニング
- さまざまなランニングタスクを伴う中強度のウォームアップ10分
- 十分な休憩を挟みながら、強度の高いインターバル走
- 低強度で5~10分間のクールダウン
b)ボールを使ったテクニカルトレーニング(1対1)
- 基本:バランスとショートパス/ロングパス、目標への簡単なシュート
- ボディトレーニング(負荷なし/弾性抵抗を付加)
- 可動域運動とストレッチ
c)体幹強化/安定化運動(負荷や急激な動作を伴わない)
- 基本的な下肢と上肢の筋力エクササイズ(弾性抵抗)
- 不安定な路面でのバランス練習(両脚立位および片脚立位)
負荷の重いトレーニングや接触プレーは行わない
ゴールキーパーの場合:ジムのマット上で、控えめなダイビングの動き(急激でない動き)を行う(ボールはキャッチしない)
4接触プレーのないサッカートレーニングメニュー a)ピッチ上でのカーディオトレーニング
- 直線走行、方向転換、横移動、前後走、ジグザグ走行など、中強度のウォームアップ10分
- HRmax 90%までの高強度インターバル走
- 低強度で5~10分間のクールダウン
b)テクニックのトレーニング(少人数グループ)
- ミニゲーム
- ショートパス/ロングパス
- ゴールや目標へのシュート
- ドリブルしながらのプラント&カット
- 基本:柔らかいボールのみを使用して簡単にヘディング(バランスを取りながら複雑さを増していく)、管理された環境で限られた量を行う
c)ボディトレーニング(弾性抵抗を付加)
- 可動域運動とストレッチ
- 体幹強化と安定化運動(フリーウェイトを含む)
- 基本的な下肢と上肢の筋力エクササイズ(弾性抵抗、フリーウェイト)
- 不安定な路面でのバランス練習(両脚立位および片脚立位)
d)強化トレーニング
- 負荷は1-RMの約80%以下に抑え、ウエイトリフティングや、頭が腰の高さより下に来るエクササイズは行わない
- 多関節運動の外部抵抗を徐々に増加させる
接触プレーは行わない
ゴールキーパーの場合:マット上でのダイビング練習。ボールをキャッチしない場合とキャッチする場合を想定(短・中距離からのシュート、GKコーチと1対1)
5限定的な接触プレーを伴うサッカートレーニングメニュー 控えめな接触プレー:接触状況(ヘディング、チェック、タックルなど)を想定する
- 段階的に強度を上げる
- パートナー(リハビリコーチなど)1名とのプレーから、少人数のグループでのトレーニングへ
- 狭いプレーエリア(ピッチの3分の1または4分の1)からピッチ全体へ
- 管理された状況(スローイング後、相手のいないところでのヘディングなど)で、通常のボールを使ったヘディングを行う。ヘディングの回数を徐々に増やす
ゴールキーパーの場合:芝の上でのダイビング練習。ボールをキャッチしない場合とキャッチする場合を想定(中・長距離からのシュート、GKコーチと1対1)
6フルコンタクト練習(チームトレーニング) 医師の許可を得た後、通常のチームトレーニングに参加
a)カーディオトレーニング:継続して進める
b)ボディトレーニングとストレッチ:通常の練習を再開(制限なし)
c)精神的な準備態勢の評価と確認

注:選手は、活動前の症状の悪化や新たな症状の発現がなく、活動に耐えられる場合にのみ、次の段階に移るべきである。

略語:HRmax=最大心拍数、1-RM=最大挙上重量

まとめ

脳振盪は様々な結果をもたらす可能性があり、その徴候や症状は、衝撃を受けた後、数分、数時間、数日の間に急速に発現したり変化したりする。したがって、頭部外傷を受けた後のサッカー選手の診察と処置については、体系的な手順を踏み、チームドクターが選手にプレーを続行させるべきか、それとも離脱させるべきかの判断をサポートする必要がある。脳振盪は潜在的に重症な場合もあるという認識を、すべての医療関係者、その他サッカーに関わるすべての専門家の間で高める必要がある。

SCAT6; Sport Concussion Assessment Tool 6 について

脳振盪に対する評価のツールとして現在はSCAT5を用いており広く運用されているが、2022年第6回国際スポーツ脳振盪会議が6年ぶりに開催され、SCAT6、SCOAT6(下記添付)などが発表された。今後SCAT6などのツールやエリートを対象としたFIFA脳振盪予防キャンペーンのプロトコールに移行する予定であるが、日本の言語と文化的背景を加味した適切な和訳が発表されるまでは時間を要することが想定される。そのため最新のevidenceに基づいて改訂された、段階的競技復帰のプログラムについては活用していく。

SCAT6(英文).pdf
SCOAT6(英文).pdf

追記
本指針は、スポーツ関連脳振盪の管理に携わる者を対象として、現段階において、もっとも適切と思われる知見に基づいてガイド的な役割を示したものであり、実際には個々の管理は各々の事例や環境に即して行うべきである。

競技中、選手に脳振盪の疑いが生じた場合の対応について

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