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高倉麻子なでしこジャパン新監督インタビュー Part 2 上を意識して考える力で切り開け
2016年06月01日
なでしこジャパンの高倉麻子新監督は、アンダーカテゴリーの代表チームを指導する傍ら、FIFAやAFCのTSG(テクニカルスタディグループ)の一員として、女子サッカーの国際的なトレンドを注視してきました。世界の現状を肌で感じてきた監督は、「技術があってクレバー、走力があり、チームのために戦うことができて、代表への思いが強い」ことを代表選手選考の条件に挙げ、年齢に関係なく選考することを明らかにしています。なでしこジャパンで世界への新たな挑戦に乗り出す指揮官が見る世界の傾向、選手に求めるものは何か。インタビュー第2弾をお届けします。
Q:最近の世界の変化をどう見ていますか?
世界の女子市場はどんどん大きくなっていて、昨年のカナダのFIFA女子ワールドカップでも、サッカー大国ではないのに観客動員数がすごく伸びました。広告費の伸びも大きくて、女子の注目度が上がっているので、各国の本気度もどんどん上がっていると肌で感じました。それだけにこのままではいけないというのを強く感じていますし、2019年のフランス大会への世界の注目度も大きくなると思います。
諸外国もすごく力を入れてきていて、ドイツやアメリカはもちろん、フランスも年々力を付けてきていますし、ほかのどの国もそうです。南米もサッカー文化があるので本気になれば伸びは早い。アジア勢も上位5チームと他チームに少し差はありますが、どうなるかわかりません。サッカーはサイクルが早いので今後の5年間に、各国協会とそれぞれのリーグがどんな努力をしていくかがすごく大事になります。
Q:競技面での世界のトレンドはどうですか?日本がさらにレベルアップするために必要なことは?
女子サッカー自体のレベルがかなり上がっているのは間違いありません。ある一定のレベルに達するチームが増えて、力を入れている他の国にもチャンスがあるということです。
フィジカル的な要素が高くなって、シンプルな走りやゲームのスピード感、キックの飛距離や人がぶつかる音などを見ると、レベルがかなり上がっていると感じます。昔は女子の試合をテレビで見ると、スピードのなさや動きに女らしさというのが見られましたが、今では「え、女子だったの?!」というぐらいまで上がってきていると思います。
プレーの質、シンプルにボールを蹴ったり止めたり動きながらのテクニックというところでは、日本は他国より上回っていると思いますし、プレーの丁寧さや周りへの気遣いなども日本のスタイルは少し独特ではないかと思います。
それには日本の文化の影響があると思います。きちんと並ぶ、ごみが落ちていない、震災のときなどでも多くの人が自分は我慢をしてでも人にものを譲ったりしています。多くを語らずに自分を抑えて周りと協調するなど、武士道ではないけれど、強い思いや忠誠を尽くす、家族を守る、自分が影に隠れても人のために何かをするという意識が強いと思うんです。
Q:それが日本の戦い方に?
日本の戦い方はそういうものがグラウンドの中にあります。「自分が、自分が」ではなくて、人のためにやることに美学を感じているのだと思います。自分は輝かなくても、みんなのためにできて、全員で一つのものを掴み取るというのがすごく好きなのかもしれません。
日本には、周りと協調できずに崩れるとメンタル的にも立て直せずに終わるということはないですね。昨年カナダでのワールドカップも11年のドイツ大会も、みんなの輪で勝つことができた。我慢して戦って、どこかでチャンスを活かして点をとってギリギリでも勝ちをものにする。しかも最後まで諦めずに戦う。そういうチームは他にあまりないと思います。
戦術的には、アメリカやドイツもあまり蹴らないでボールを大事にして繋ぐスタイルに変わってきました。特にアメリカは日本が優勝してからその傾向が顕著で、女子サッカー自体のトレンドが変わってきた。コンパクトで組織的な守備も、今ではどこのチームでもやっています。でも、日本人だからできているところはあるので、日本のトレーニングの手法だけ持ち帰ってやっても同じようにはできないと思います。ディテールや質の部分は、日本はもっとこだわって、もっと細かいところを追求してやれると思っています。
Q:選手に求めるものは?
どの年代でも、チームにマイナスになることや自分勝手な行動やプレーは絶対に許したくない。そこが選考条件の一つに挙げた、「チームのために戦うことができる選手」という点です。チームの約束事のなかで自分なりのこだわりを持って、グラウンドで良いプレーができれば起用し続けると思いますし、できなければ外すことになると思います。ただ、今までやってきた選手がどんなことを考えて、どういうものを見て来たのか。何万人もの観衆の前で戦ってきた度胸もあるわけですから、その辺はうまく組み合わせて創っていきたいと思っています。
私が持っているもので伝えられることはすべて伝えて、できることは精いっぱい全力でやります。でも、結果は自分自身で掴みとるものだと思うので、選手には上手くなるために、自分を表現するためにどうしたらいいか、自分自身で考えて欲しい。壁にあたっても苦しみながら自分で道を切り開いていって欲しいと、いつも思っています。私は誰にでも扉を開けているつもりなので、あとは自分で掴みとって欲しいです。
Q:就任会見でも「状況判断が出来るチームに」と話していました。「考えること」がキーワードですね。
選手選考の条件に「テクニックがあってクレバーな」という点を入れていますが、クレバーさ、頭の良さとは自分で考える力です。サッカーでは瞬間で移り変わる状況のなかで何がベストかを選びます。それを自分の肉体で表現しなければならないので、トップアスリートとして世界と戦える身体をつくらなければなりません。いろいろな局面打開には幅広いテクニックが必要とされますし、周りとの協調も不可欠です。
考える力は生活面でも必要で、20~30人のチームみんなが気持ち良く過ごすのに自分が何をすべきかを感じる、考えて行動する。そうやってチームはみんなで作っていくものです。チームが良い方向に向かうように舵を取るのは私の役割であり、大部コーチの役割で、船を動かすのは選手ですね。
オーケストラに例えれば、思い切ってそれぞれの音を出して表現してもらう。そこでどんな組み合わせでどんな音がでるか、どういう方向にいくのか、楽しみです。「自分はこういう選手だ」と選手が強く出してくるのを待っています。最終的には「なんとしてもピッチに立ちたい、なでしこの一員で戦いたい」という気持ちがある選手を選んでいくことになると思います。
Q:世界でなでしこが戦うために、まず早急に補っていきたい点はどこでしょうか?
守備でも攻撃でも「もう一歩先取りする」プレーを求めたいですね。常に「もっと上を」と意識してやっていかなければ、停滞、そして後退してしまいます。自信を持ってプレーすることも大事だけれど、いつも「足りない」と思うことが大事です。リオデジャネイロオリンピックの最終予選では、選手はプレーをうまく表現できなかっただけかもしれませんが、「足りない」と思うものをもう一回整理して、もう一つみんなが無理をするというのをもう一回確認してやりたいと考えています。
ディフェンスでのボールの奪い方も、みんなで行くなら行く、待つなら待つというのをはっきりさせたい。攻撃に関しては自由にやってもらいたいところもあるので、あまり大きな約束は決めないで個人の得意なプレーと役割を整理したい。みんながお互いにどういうプレーヤーで何が得意かというのを分かりながらプレーをして、良さを出し合う。そういう確認をやっていきたいと思います。
私自身、誰がどういうプレーを見せてくれるのか、非常に楽しみです。アメリカ遠征では、初戦は特に時間がないので思い切ってぶつかって行って、この遠征からマイナスでもプラスでも何かを持って帰って今後に生かしたいと思っています。
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