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[フィジカルフィットネス特集]選手に聞く 遠藤航選手(シュツットガルト/ドイツ) インタビュー
2021年03月09日
リーグ公式ウェブサイトのデュエル勝率ランキングで堂々のトップ(1月19日時点)。遠藤航の球際の強さは、ドイツ・ブンデスリーガでも際立っている。日本屈指のボールハンターに、フィジカルの捉え方を聞いた。
○オンライン取材日:2021年1月19日
※本記事はJFAnews2021年2月に掲載されたものです
大柄な相手にも勝てることを証明したい
フィジカルを鍛えれば日本人も対等に戦える
――意識してフィジカルトレーニングを始めたのはいつ頃ですか。
遠藤 プロになってからです。当時は、あまり知識を持ち合わせていなくて、とりあえず筋トレばかりしていました。海外志向が強かったので、湘南ベルマーレ時代から準備をしていたんです。ヨーロッパのリーグで戦っている選手たちは体つきが違いますので。
――プロになったばかりの頃に筋トレしていたことは、今に生きていますか。
遠藤 間違いなく生きています。筋トレは必要だと思います。いろいろ考え方はありますが、フィジカルのベースをつくるのはプロ選手として不可欠。ドイツでは、プロになる前に体の土台づくりができていることが前提です。16歳、17歳の選手でも体はがっしりしていて、完成されていますから。
――ヨーロッパに移籍する前にフィジカルを強化していたから、うまく適応できたと思う側面は?
遠藤 個人的には、海外に移籍するタイミングは早ければ早い方がいいとは思っていません。ヨーロッパの選手たちに比べると、日本人はフィジカルのベースができるのが遅いので、体をしっかりつくってから海を渡ってもいいのかなと。若くしてヨーロッパでプレーするチャンスをつかんでも、1年、2年で日本に帰って来るのはもったいない。18歳、19歳で加入しても長い目で見てくれて、なおかつフィジカルのベースをつくる時間をもらえれば別ですが、僕らは海外では外国人選手です。即戦力として考えられているので、そうも言っていられないパターンがほとんどだと思います。
――ヨーロッパに渡った後も筋力トレーニングは継続しているのですか。
遠藤 今は筋トレで体を強くするよりも、柔軟性を高めたり、可動域を広げること、つまりモビリティーを向上させることに重きを置いています。ヨーロッパに来てからはいかに体をうまく動かすかに焦点を当てています。ドイツのトレーナーたちとよく話すようになり、考え方が変わってきましたね。体を鍛えることと、鍛えた体をサッカーにどう生かすかは、また別の話。ドイツのトレーナーは、体をうまく動かすことを指導するのが仕事です。選手個人に合わせて見ることが多いので、チームにはトレーナーが3人いるのも普通。トレーニングルームには1人か2人が必ずいて、選手が相談すればすぐに対応してくれます。その環境は日本とは違います。
――個別対応するために人員も割いているのですね。
遠藤 チームからは、それぞれの選手が自分に合ったメニューを渡されています。シーズン始めに体力、筋力、柔軟性、関節の動きなど、いろいろとチェックしてもらい、それを基に各自メニューを組み立てていきます。僕の場合、足首が硬く、股関節まわりの動きがあまりよくなかったので、その動作をスムーズにするメニューを組んでもらっています。
――体の動かし方を学んだことで、ピッチ上のパフォーマンスは変わりましたか。
遠藤 僕の場合、日本のパーソナルトレーナーからも教わっているので、いちがいにドイツのメニューだけで変化したとは言えないのですが、良くはなっています。ボランチというポジションは、クレバーさも必要ですが、フィジカルコンタクトを避けては通れません。ただ思い切りバン!と相手に当たればいいのかといえば、そうではない。体を当てたときに、いかにバランスを崩されないようにするかが大事。178センチの体でも十分に戦えます。
――体格で劣っていても負けないと。
遠藤 日本では、海外の選手には体の強さで勝てないから、スピードやアジリティー(敏捷性)で勝負しようという考え方もありますが、僕はそうは思いません。フィジカルを鍛えれば、日本人でもヨーロッパの選手たちと球際で対等に戦えます。むしろ、僕はそれを証明したい。実際、僕はボランチとしてブンデスリーガでプレーできています。しっかりとした準備をすれば、大柄な選手たちにも競り勝てます。そこはほかの日本人がもっとトライしていいところだと思います。日本にいる頃からそう思っていましたし、ヨーロッパに来て、さらにそれを実感しています。
手にしたフィジカルをいかにピッチで生かすか
――ベルギーのシント・トロイデンでヨーロッパの1年目を過ごしました。フィジカル面の苦労はなかったのですか。
遠藤 ベルギーでは特に戸惑うことはありませんでしたが、ドイツのシュツットガルトに移籍したときには、練習のインテンシティー(強度)の高さに驚きました。組織で守ることもありますが、1対1の争いが多い上、激しい。これから日本代表が世界で通用するチームになっていくためにも、一人一人のフィジカルをもっと高めていく必要はあると実感しています。ボールホルダーに対して厳しく奪いにいける選手がもっと出てきてほしいです。
――日本とドイツでは、フィジカル強化の考え方は違うと思いますか。
遠藤 出発点が違います。ドイツは試合中に疲れない状態をできるだけ長く維持するためにフィジカルトレーニングをします。体が疲れないための準備です。日本の場合は、疲れた状態や肉体的に追い込まれた状態でも、いかにスプリントできるかに重きを置いていると思います。
シーズン始めの体のつくり方も180度異なります。日本では走る練習が多い印象ですが、ドイツの指導者は「サッカーに必要なフィジカル能力は、サッカーをしないと身につかない」という考え方を持っています。シーズン前のキャンプでもボールを使った実践的な練習を多めに組み込み、コンディションを上げていきます。
――日本サッカー協会ではこれまで以上にフィジカルを強化していこうという指針を打ち出しており、今年、フィジカルフィットネスライセンスが新設されます。
遠藤 フィジカルライセンスを取得する指導者には選手のフィジカルの基盤を整えた後、その体をうまく使えるような指導もしていただければ助かります。けがを予防するためのメニューだったり、100%以上の力を発揮できるようにしたり、パッと思い浮かぶだけでもいろいろとあります。一定のフィジカル水準に達した選手側からすると、体の機能性が高まるような指導を受けたいところだと思います。
――遠藤選手も早くから身体操作に特化したトレーニングに取り組みたかったですか。
遠藤 そうすれば、よりけがをしにくい体になっていたかもしれないですね。身体操作に特化したトレーニングはそれほど負荷がかかりませんし、継続することに重きを置いているので、毎日短時間でできます。日本でも少しずつ取り入れているチームが出てきたと聞いていますが、ヨーロッパではスタンダードです。
新しいトレーニングも次から次へと出てきます。今、ドイツでは、バイエルンのロベルト・レバンドフスキらが取り組んでいることで知られる脳波トレーニング「ニューロアスレチックトレーニング」が話題です。このトレーニングをすると、例えば、首を振りながらボールを受けたときなどに、より鮮明にボールや周囲が見えるようになったりという効果があるようです。情報化社会の今、フィジカルのベースは鍛えさえすれば、誰もがつくることができる。サッカー選手としての違いが生じるのはその後で、手に入れたフィジカルをいかにピッチで還元するかが問われています。
――今後、さらに高いレベルで戦う上でフィジカル強化は必要だと思いますか。
遠藤 これ以上、体重を増やすようなことはしないつもりです。それよりも体の動かし方を追求していけば、まだまだ伸びしろはあると思っています。自分が鍛えてきた体を100%以上に使いこなせるように、これからも貪欲にトレーニングを継続していきます。
湘南ベルマーレ、浦和レッズとJリーグでプレーしていたときにフィジカルの基盤を強固にした。
入念な準備が、現在の活躍にもつながっている。