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感謝の気持ちの表現 ~いつも心にリスペクト Vol.88~
2020年10月26日
Jリーグの試合で、これまでになかったことが続けられています。試合前、入場した選手と審判員たちが並び、拍手をするのです。新型コロナウイルスに対して最前線で戦ってくれている医療従事者への感謝の気持ちを表すものです。再開初節だけの統一セレモニーでしたが、その後も続けているクラブが多いようです。
J1第3節の横浜F・マリノス対湘南ベルマーレの試合では、面白い光景が見られました。会場のニッパツ三ツ沢球技場のバックスタンド裏には、5月に完成したばかりの横浜市民病院の大きな建物があるのですが、選手や審判員たち全員がそちらに向いて拍手を送ったのです。その市民病院の最上階7階と6階の窓には、「おかえりなさいJリーグ。三ツ沢で心をひとつに」という手書きの紙が窓ガラスに並べて貼られていました。
今回の新型コロナウイルスによる「緊急事態宣言」の下で不自由な暮らしを強いられながら、多くの人の心にあらためてわいてきたのが「感謝」の気持ちではなかったでしょうか。交通機関やゴミの収集、宅配便の配達、そして何よりも消防や医療など、世の中には、自宅で自分自身の安全を保つことが許されず、いつもと同様に、あるいはいつも以上に集中して仕事に当たらなければならない人々がいます。コロナ禍で何か一ついいことがあったとしたら、そうした人びとに対し感謝の念を持てるようになったことだったと思います。周囲の人々、自分を支えてくれている人にはっきりとした感謝の気持ちを持つことは、この社会でとても大事なことです。
Jリーグが再開されて私が真っ先に感じたのは、ピッチの美しさでした。4カ月間も使わなかったからきれいで当たり前? そうではありません。いつ使うか分からないスタジアムの芝生に、毎日水をやり、ローラーを引き、刈りそろえ、健康状態をチェックしてくれた人がいたからこそ、こうしていざ試合となったときに最高のコンディションで選手たちを迎えることができたのです。
そうした目で自分の周囲を見回せば、感謝すべきものがあり、感謝の気持ちがあふれるようにわいてくるような人々がたくさんいます。
従来、Jリーグのスタジアムでは、試合ごとに特定のスポンサーデーが設けられ、プロモーションなどが行われてきました。ファン・サポーターにとっては、スポンサーは自分が愛するクラブを助けてくれている頼もしい味方。そうしたイベントを通じて、感謝の気持ちを新たにすることには、小さくない意味があります。
しかしそれだけでなく、これからは、社会で特定の仕事や役割を果たしている人々への感謝の日もつくったらどうでしょうか。たとえば、グラウンドキーパー、ボランティアなど試合に直接関係する人びと、交通機関など観戦に不可欠な人々、そして医療従事者、保健所、学校、電気、水道、通信など、社会的なインフラにたずさわっている人々...。
大げさなセレモニーではなく、さりげなくそうした人々、仕事を具体的に取りあげ、試合前に選手とファン・サポーター全員で拍手を送るようなことを定期的にしていったら、日本という社会がもっともっと素敵になるのではないかと思うのです。
そうした感謝のセレモニーは、プロでなくてもできます。少年少女の試合、草サッカーの試合などでも、試合前の1分間を使うだけで、自分を支えてくれ、サッカーを楽しませてくれているいろいろな人々への感謝をもって試合ができるようになるかもしれません。
誰でも、苦しいとき、大変なときに助けてくれた人に対しては感謝の念を抱きます。しかしそうした時期が去ったとき、真っ先に忘れてしまうのも、感謝の気持ちなのです。Jリーグが4カ月ぶりの再開のときに感じ、表現した感謝の気持ち。それを忘れないためにも、今後も何らかの形で続けていってほしいと思います。Jリーグから少年少女、草サッカーまで感謝の念をもって試合ができれば、日本のサッカーはもっともっと豊かなものになるでしょう。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2020年8月号より転載しています。
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