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[特別コラム]東京オリンピックで見えたリスペクト溢れる一幕(川端暁彦)
2021年09月14日
日本サッカー協会(JFA)は9月10日(金)から19日(日)まで「JFAリスペクトフェアプレーデイズ2021」を設置しています。ここでは先の第32回オリンピック競技大会(2020/東京)で男子サッカー競技を取材したフリーランスライターの川端暁彦さんに大会でのリスペクトある風景についてのコラムをご寄稿いただきました。
東京オリンピック2020の男子サッカーはブラジルの金メダル、スペインの銀メダルという形で終幕を迎えた。直前に行われた欧州選手権から6名の選手が参加するなど、特別な力を入れて臨んだスペインにとっては、悲嘆しか漏れないような敗戦である。だが、決勝終了後の記者会見に臨んだデラフエンテ監督から漏れたのは、溜め息などではなかった。
「いいえ、私たちは敗北者ではありません。銀メダルを獲得したのですから」
堂々と胸を張り、そう言い切ってみせた。何を失ったかではなく、何を達成できたかで物事は判断するべきだと語ったスペインの名伯楽は、「負けても品を失わなかったこと」の大切さに触れつつ、「幸せに感じている」とまで言い切った。
これを単なる負け惜しみとして受け取るのは簡単だ。ただ、そういう話ではないと思っている。指揮官が「選手たちの試合中の振る舞いはもちろん、大会を通じての振る舞いにも満足しているよ」と笑って振り返った表情がそれをよく物語っていた。
スター選手揃いのスペインだが、今大会は選手村で他競技の選手たちと交じっての生活を選択した。五つ星ホテルでの生活に慣れている彼らからすれば、決して快適なベッドではないだろうし、食事に行けば、他の競技の選手たちがそうしているように、列に並ばなければいけなくなる。だが、他競技の選手たちと接する機会をエンジョイしつつ、しかし何か深刻な問題を起こすようなこともなく、ハードスケジュールの中で心身を整えて試合に臨むことを繰り返した。
そして決勝での無念の敗戦後、見苦しい振る舞いをする選手もいなかった。その様を見たからこそ、彼らを長くユース年代から指揮してきたデラフエンテ監督は「幸せだった」と形容したのだろう。試合についても、「自分の行った全ての采配に満足していますし、選手たちのプレーについても同様です」と断言した上で、敗因については自分たちの失策ではなく、あくまでブラジルのパフォーマンスが自分たちを上回っていたからと、勝者への敬意を示した。
こうした敬意を感じる振る舞いというのは、大会のさまざまな場面で目にすることができた。例えば、準々決勝、日本とPK戦の末に敗れたニュージーランドのドレッシングルーム(更衣室)のホワイトボードに彼らが残していたメッセージもその一つだろう。
「Thanks Kashima & Tokyo 2020
We had a great time and heading home too soon
Best of Luck Japan(JFA)
NZ Football
kia kaha」(原文ママ)
開催地の鹿島と大会へ感謝の言葉を述べた上で、日本チームの幸運を祈る言葉が綴られ、最後にマオリ語の「kia kaha」の一文が添えられていた。「強くなれ!」などと訳される言葉だそうだけれど、彼らが充てていた訳語は「頑張れ!」である。U-24日本代表への激励の一言だった。
今大会のニュージーランドはU-17・U-20世代の世界大会で連続してグループステージを突破しており、世界でも指折りの成長を見せる国の一つ。実際に戦ってPK戦にまで持ち込まれた我々もその強さを実感させられたわけだが、去り際の振る舞いで見せ付けてくれた気高さも含め、今大会で特筆すべきチームの一つだったことは間違いない。
そして日本チームで触れておきたいのは、試合に出られなかった選手たちの振る舞いだろう。
最も悔しい敗戦となった3位決定戦。その敗戦後、涙を流すMF久保建英のところへ真っ先に駆け寄ったのは、GK大迫敬介だった。
日本代表のメンバーとして南米選手権へ出場するなど、この世代で最も高い評価を受けてきたGKだった大迫だが、大会を前にして年少の谷晃生に正GKのポジションを奪われてしまっていた。悔しくないはずはなく、思うところもあったに違いないが、表に出る部分で彼がその感情のままに振る舞うことは一度もなかった。
大会を前にして、こうも語っている。
「もちろん悔しい気持ちはありますけれど、(鈴木)彩艶、晃生の3人が良い準備を常にし、その中で競争を勝ち抜いた選手がピッチに立つ。出られなかった二人はサポートするだけだと思っている」
広島ユース時代の恩師であり、現在はトップチームのコーチである沢田謙太郎氏が以前に大迫を評した「彼の良いところは苦しいときに下を向かないところだ」という言葉を伝えると、笑顔も浮かべてこう答えた。
「自チームでも昨季は出られていないときがありましたし、逆に僕が出ているときの林卓人さんや他のGKの立ち居振る舞いというのも見ている。そういった選手たちの立ち居振る舞いがどういう影響を与えるのか僕はすごく感じていたので、良い影響を与えていければと思っている」
試合中のウォーミングアップ、記者席からはその様子が見えるのだが、最も出番が巡ってくる確率が低い控えGKであるにもかかわらず、「大迫は本気で出るつもりの準備をしているな」と感じさせるものだったし、練習でもその様子は変わらなかった。一方、これは試合に出た谷が深く感謝していたことだが、ハーフタイムでも試合後でも、後輩へのアドバイスを惜しむことはなかった。谷の活躍と成長ぶりに光が当たった大会だったが、「GKチーム」として戦った成果だったのも間違いない。
どうしても日本で「リスペクト」というと、形式的な道徳や礼儀の概念として捉えられがちだが、個人的にはそうではないと考えている。
思いを込めてゲームに臨み、サッカーに取り組んでいれば、感情的になることがあるのはむしろ当然のこと。ただ、そうした感情があるのを「当然」とした上で、サッカー選手や指導者が(あるいはサッカー記者が!)、どういった立ち居振る舞いを心がけるべきなのか。特定の「正解」があるような話ではないと思うけれど、世界各国の指導者や選手、そして日本代表チームの様子を見ながら、あらためて考えさせられる大会だった。
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