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リスペクトの体現 フェアプレーは日本の誇り 後編
2018年08月31日
公益財団法人日本サッカー協会は、サッカーやスポーツの現場で顕在化する様々な差別や暴力に断固反対し、差別や暴力のない世界をつくるべく様々な取組みを行っています。
本年も、「JFAリスペクトフェアプレーデイズ2018」を9月1日(土)から10日(月)まで設置し、期間中はさまざまな活動を通して、リスペクト(大切に思うこと)、フェアプレー精神を共有し、差別や暴力に断固反対するメッセージを広く伝えていきます。
今回は2017年9月2日に行われたリスペクトF.C. JAPANシンポジウムの冒頭に登壇し、自らの経験を基に「大切に思うこと」への熱い思いを語った田嶋幸三会長の基調講演の後編をご紹介します。
「暴言・暴力の根絶」をお題目にしない
JFAはリスペクトの重要性を広めようとさまざまな活動を推進してきました。しかし、残念なことにいまだに暴言や暴力はなくなっていません。なぜこうしたことが起きるかというと、大人が「暴力根絶」をただのお題目にしているからです。選手に喝を入れるために暴力をふるうという例も聞きます。指導者が暴力をふるうことは最低の行為です。
人間は十人十色で、教えられたことをすぐに理解する子どもと、少し時間が必要な子どもがいます。コーチングの基礎を知っていれば、選手に暴力をふるうなんてことはありえませんが、現実として暴力はある。それを根絶したいのです。暴力は子どもたちの健全な心身の発達にはつながらないということを理解し、指導者にもフェアプレーを徹底してもらいたいと強く思っています。
9月の第1週はFIFA(国際サッカー連盟)がフェアプレーデーとうたっています。私も二人の子どもがスポーツ少年団でサッカーをしていたこともあって、よく試合を見に行きました。ある年の9月のフェアプレー週間のときです。それまで、私はフェアプレーを推奨するように都道府県サッカー協会にバナーを配ったり、FIFAのフェアプレー宣誓文を翻訳して渡していました。すると、多摩川の土手のグラウンドで少年団の役員の方が試合に参加している選手を全員集めてフェアプレー宣言をしてくれたのです。そのとき、われわれJFAがそこまでやっているだろうかと、後ろめたい気持ちになりました。JFAが率先してやり、それを発信していかなければなりません。
審判員も人間ミスは起こり得る
われわれは、指導者や選手に対して指導することができます。しかし、保護者を指導することはできません。保護者はサッカーの現場の最前線にいます。幼稚園児のフェスティバルに始まり、小学生年代の試合、中学・高校の大会などでも非常に熱心です。しかし、保護者が審判員に文句を言っているケースが多い。そこで「めざせ!ベストサポーター」というハンドブックをつくり、各都道府県サッカー協会やトレセンのコーチの協力を通じて保護者に配布してもらいました。
こうした働きかけが受け入れられつつあると思う一方で、リスペクトへの理解がまだ足りないとも感じています。特に目立つのが審判員への不平・不満です。JFAは12歳以下の子どもたちの試合で1人制審判を推奨しています。全日本少年サッカー大会では、今年から全試合でそれを適用することになりました。
指導者や役員の方から1人制審判に対する苦情を受けたこともあります。「みんなが真剣にプレーしているのだから審判員も正確に判定しなければならない。3人制に戻すべきだ」ということでした。そこである年に全国大会の1次ラウンドを1人制、決勝ラウンドから3人制を採用しました。しかし、3人制にしても保護者の文句の数は減りませんでした。
ではなぜ、JFAは1人制審判を推奨しているのか。子どもたちに、笛が鳴るまでプレーを止めない姿勢を身につけてほしいからです。判定に絶対はありません。3人で試合を見ても、5人で見てもミスジャッジはあり得る。それも踏まえた上でサッカーというスポーツが成り立っていることを認識する必要があると思います。
最も大事なのはゲームへのリスペクト
Jリーグがスタートし、ブラジル人の指導者が多かった時代、「マリーシア」という言葉が盛んに言われました。ポルトガル語で「ずる賢い」「老獪」という意味です。しかし、日本人はマリーシアを受け入れることができませんでした。今では、受け入れなくてよかったと思っています。現在、FIFAワールドカップの会場には20数台ものテレビカメラが設置されています。これは選手一人につき一台のカメラが追跡している計算です。「マリーシア」を奨励できる時代ではなくなったということです。
最も大事なのは、ゲームをリスペクトし、フェアに勝利を目指すことです。最後まで、正々堂々と勝ちを追求していくということが最も重要なのです。単にサッカーのうまい選手を輩出するのではなく、人間を育てていくべきだと思っています。社会で正しい判断を下す、ベースとなる価値観を身につけ、仲間と共有していかなければなりません。なおかつ、現代社会には多様な考え方があることも理解しなければならない。選手はもちろん、保護者、指導者、サポーターの皆さんと、リスペクトプロジェクトを伝えていきたいと考えています。
日本サッカーミュージアムの地下2階には数えきれないほどのフェアプレートロフィーがあります。1 9 7 0年代、80年代、日本がアジアで勝てなかったころは、「日本はフェアプレー賞コレクターだ」と他国の人にからかわれたこともあります。でも、それは日本の誇りです。2011年、なでしこジャパン(日本女子代表)がFIFA女子ワールドカップを制して世界女王に輝いたとき、彼女たちは同時にフェアプレー賞を受賞しました。フェアに戦って優勝する。これほど誇らしいことはありません。
これからも大勢の方を巻き込み、リスペクトの輪を広げていきたい。「大切に思うこと」の重要性をご理解いただきたいと思います。
※本記事はJFAnews2017年10月情報号(No.402)に掲載されたものです。
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