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ゼロ・トレランスの姿勢で暴力・暴言等を根絶する ~子どもたちが安全に安心してサッカーに打ち込める環境を~

2019年06月25日

ゼロ・トレランスの姿勢で暴力・暴言等を根絶する ~子どもたちが安全に安心してサッカーに打ち込める環境を~

スポーツ界で体罰や暴力、ハラスメントなどの問題が頻発する中、日本サッカー協会(JFA)は、関連する委員会が連携し、もっと踏み込んだ形でその根絶を図ることを確認した。
47都道府県サッカー協会、各連盟と共に、サッカー界が一丸となってこの問題の解決に臨む。これに合わせて「JFAサッカーファミリー安全保護宣言」を発表。暴力・暴言等の根絶というJFAの強い意思と子どもたちが安全に安心してサッカーに打ち込める環境を広げていくという意気込みが込められている。

暴力・暴言等の根絶に向けたこれまでの取り組み

2012年12月に大阪の高校バスケットボール部で起こった体罰事件をきっかけに日本サッカー協会(JFA)は翌13年の5月、サッカーの指導現場における暴力根絶の宣言を行った。指導者に対しては任意で宣誓書の署名を求めたほか、D級以上の指導者ライセンス講習会のカリキュラムに暴力根絶に関連する内容を盛り込み、指導力やコミュニケーション能力の向上を図った。同年6月にはJFA内に暴力根絶窓口を設置。翌14年からウェルフェアオフィサー制度を導入して暴力・暴言、ハラスメント行為の早期発見と再発防止に努めてきた。
ほかにも、定期的にシンポジウムやキャンペーンを開催したり、『選手のためのハンドブック』『大切に思うこと(Respect Project)』『めざせ!ベストサポーター』といった冊子を配布するなど積極的に啓発活動を推し進めてきた。
しかし、暴力・暴言、ハラスメントといった違反行為はなくなっていない。

JFAが相談窓口を設置した13年度からの相談件数は累計で522件。18年度が120件と最も多くなっている。
18年度のデータを見ると、暴言や威嚇行為に関する相談が多く、種別では第4種が全体の5割以上を占めている。チーム内での解決で済んだ案件や事実が確認されなかったケースもあるが、対応中の案件を除き、実際に規律委員会や裁定委員会の審議の対象となったのは全体の2割強にも上った。ライセンスを持たずに指導に携わっている人の割合も4種チームが最も多いことから、こういった状況を改善することが喫緊の課題になっている。
JFAは、相談窓口に寄せられた通報は氷山の一角であって子どもたちからスポーツの楽しさや心身の健やかな成長の機会を奪っている事実はまだ多くあると見ている。
この状況に忸怩たる思いを抱いてきたJFAの田嶋幸三会長は、「暴力や違反行為に対して一切の妥協も許さないゼロ・トレランスの姿勢で臨む」と強い意思を示し、JFAの司法機関と技術委員会、女子委員会、リスペクト・フェアプレー委員会、医学委員会、競技会委員会等が連携して暴力・暴言等の根絶や活動の浸透を図ることを指示した。

懲罰基準を明確化

違反行為に関しては、6カ月未満の出場停止処分や公的職務の停止・禁止・解任またはサッカー関連活動の停止・禁止等に該当する案件は、各都道府県サッカー協会(47FA)の司法機関で調査し、事実認定を行って処罰する。JFAの司法機関では6カ月以上の出場停止等の重大な事案について懲罰を決定する。
これまでJFAの司法機関では、過去の判例を参考に罰則を科していた。47FAからは、個々の事案の対応として基準を明確にしてほしいという要望も多く寄せられていたことから、今回、懲罰規程を改正してその基準を明文化することとした。
田嶋会長も「どういう行為や言動が暴言やハラスメントになり、それに対してどのような処分が科されるのかということを指導者が知ることも重要で、それが抑止力にもなる」と考えている。
今回の改定では、懲罰規程第34条に第2項として懲罰対象行為が追記され、参照する懲罰基準が新たに記載された。
「指導者に関連した懲罰基準」に違反行為として記載されている内容は、指導現場での暴力・体罰、心身に有害な影響を及ぼす言動、身体的接触を含むわいせつ行為・言動、わいせつな言辞や電話やメールの送付・つきまといといった性的な行為・言動、しごきや追い込みといった不適切な指導などで、その程度によって一定期間の活動停止や永久的なサッカー関連活動の停止、あるいは除名など具体的な懲罰が記されている。
この懲罰基準は、日本スポーツ協会(JSPO)が定める「処分の基準」を参考に作成したものだが、JSPOのそれよりも厳しいものになっている。

指導資格再審査における指導をより厳重に

違反行為を起こした指導者に対しては、ライセンスの停止・降級・失効といった制裁だけでなく、47FAと連携して定期的な研修(自費参加)やレポートの提出、一定期間の社会奉仕活動などを課すほか、ライセンス更新講習の際にコンプライアンス研修とセーフガード研修(*)を義務付けるなど、指導者資格の再審査における指導も厳重に行う。
コンプライアンス研修は、JFAに登録する約8万人の指導者などを主な対象としたプログラムで、既にJFAのオンライン登録システム「KICKOFF」を使ったeラーニングでスタートしている。内容はサッカー界の倫理・コンプライアンス方針と倫理規範の解説、「ハラスメントの禁止」の事例紹介、確認テストで構成されている(随時更新)。セーフガード研修はイングランドサッカー協会のそれを参考にカリキュラムを構築しているところだ。
一方で、指導者がメンターに相談したり助言を受けられる体制を整えることが実質的な再発予防や啓発になるとして、技術担当者の専任化と連動して指導者メンター制度を整備する考えだ。田嶋会長は「われわれの取り組みを最も知ってほしい無資格の指導者ともコミュニケーションが取れるのではないか」と期待を寄せる。
(*)子どもや女子選手等と接する場合に気をつけなければならないことなどを研修するもの

懲罰を公表することに関する議論

現在、JFAは懲罰を公表していない。理由は、被害者が特定されてプライバシーや人権が侵害されることを防ぐことが一つ。例えば被害者が未成年者の場合、懲罰事実を公表することによって学校やチームで二次被害を受けてしまう可能性があるからだ。一方で被処分者の人権にも配慮する必要がある。SNS等の普及によって個人情報の漏洩や誤情報の拡散などが頻繁に起こるようになり、懲罰を公表することで個人名や処分内容が衆目にさらされ、不当に誹謗中傷されるリスクを避けるためでもある。
とはいえ、問題行為がなくならないために抑止力として公表すべきではないかといった意見や、被処分者の個人名を出さずとも最低限の内容を明らかにすることが、警鐘を鳴らすことになるのではないかといった意見も出ている。これについては、引き続き、法務委員会を中心に理事会や各種委員会等で慎重に議論していくこととしている。

多角的な取り組みを推進

JFAは5月16日、暴力・暴言、ハラスメント等の根絶に加え、医科学的な見地に立った選手のサポート、暑熱環境下でのサッカー活動など、子どもたちの安全・安心の確保という観点で「JFAサッカーファミリー安全保護宣言」を発表した。

1.サッカーにおける暴力・暴言を根絶します(ゼロ・トレランスの実現)
先述した通り、競技規則を改正し、暴力・暴言、ハラスメント等の具体的な事例を挙げてその懲罰を明記するとともに、懲罰を科された指導者に対するライセンスの再審査や暴力等を起こさないための指導・再教育も義務付ける。また、今年3月に開催された国際サッカー評議会(IFAB)の年次総会で「2019/2020サッカー競技規則」が改正され、その中でチーム役員による違反行為も懲戒の対象となったことから、試合中の暴言等も見逃すことなく、選手らが存分にパフォーマンスを発揮できる環境を整備することにしている。

2.子どもたちをハラスメントから守ります
差別や虐待、いじめといった身体的・心理的に苦痛を与えるハラスメント行為はもちろん、大人たちの喫煙で生じた副流煙を吸い込んでしまう受動喫煙といった健康被害や飲酒による迷惑行為、トラブル防止にも力を注ぐ。

3.子どもたちの健康を守ります
子どもたちの健康を守るためには医学的サポートも不可欠だ。スポーツドクターやトレーナーの数は増えてはいるが、グラスルーツサッカーの中で実際にチームに配置されているケースはごくわずかで、けがや事故等に対する知識が不十分なために無理をしてプレーをした(させた)結果、選手生命を断たれる事態も起きている。これに対応すべく、グラスルーツにおけるメディカルサポートを充実させる一方、現在、各地で行っている簡易救急講習会(JFA+PUSHコース)をより拡大させる考えだ。
また、脳震とうや骨折といったスポーツ外傷の処置や障害予防の指針の周知、AED(自動体外式除細動器)の設置も促進させる。さらに、ドーピングからの保護や健康的な日々を過ごすための生活指導、食育活動も推し進めていく。

4.良い指導者の養成と有資格指導者を適正に配置します
子どもたちが年齢や目的、成長やレベルに合った適切な指導を受けられるよう、「B級コーチ」を標準にしていく。B級ライセンスは、サッカーの全体像を理解し基本的な知識と指導力を有する資格で、JFAは「JFA中期計画2019/2022」でもB級ライセンス保有者を一万人に増やす計画を打ち出している。また、JFAが主催する大会においてベンチ入りするスタッフにD級以上のライセンス保有者を配置することも検討している。
そのほか、先述の指導者メンターの配置や女子が気軽にサッカーに参加できるよう女性指導者を増やすこと。グリーンカードのさらなる普及にも努める。

5.暑熱環境下等でのサッカー環境を改善します
地球温暖化による環境変化にも対応する必要がある。熱中症や落雷に関するガイドラインを徹底させる一方で、夏場の公式戦の運営方法を見直し、猛暑による健康被害をなくすことに取り組む。

6.年齢・性別・障がい・人種に関係なく、サッカーを楽しめる環境を整備します。
少子高齢化への対応やダイバーシティの推進といったところでもスポーツは大きな役割を果たす。キッズからシニア世代、そして、障がい者や社会的少数者も気軽にサッカーに参加できる環境を広げていくことが重要だ。また、子どもたちが自らのレベルや目的に合ったチームに移籍できるようにするための配慮や生涯を通じてサッカーに親しむことのできる環境、安全に無理なく取り組める部活動の整備などにも取り組んでいく。

「子どもの権利とスポーツの原則」に賛同

この「JFAサッカーファミリー安全保護宣言」は、2018年11月20日に発表されたユニセフ(国連児童基金)の「子どもの権利とスポーツの原則(Children′s Rights in Sport Principles)」を一部参考に作成したもので、5月16日の理事会ではこの「子どもの権利とスポーツの原則」に賛同することも決まった。
「子どもの権利とスポーツの原則」はスポーツと子どもの課題に特化した、ユニセフ初の文書で、スポーツ団体/スポーツに関わる教育機関とスポーツ指導者に期待されることとして、「子どもの権利の尊重と推進にコミットする」「スポーツを通じた子どものバランスの取れた成長に配慮する」「子どもをスポーツに関係したリスクから保護する」「子どもの健康を守る」「子どもの権利を守るためのガバナンス体制を整備する」「子どもに関わるおとなの理解とエンゲージメント(対話)を推進する」の6項目、スポーツ団体等を支援する企業・組織に期待されることとして「スポーツ団体等への支援の意思決定において、子どもの権利を組み込む」「支援先のスポーツ団体等に対して働きかけを行う」の2項目、成人アスリートに期待されることとして「関係者への働きかけと対話を行う」、子どもの保護者に期待されることとして「スポーツを通じた子どもの健全な成長をサポートする」の10項目からなる。
サッカーが子どもの心身の健全な成長をもたらし、子どもたちの権利を守るものになるためにも、関係者一人一人が責任と自覚を持って行動することが求められる。
JFAは6月13日、日本ユニセフ協会と共同記者会見を行って「子どもの権利とスポーツの原則」に賛同する趣旨と「JFAサッカーファミリー安全保護宣言」を発表した。今後もさまざまな機会を通じてJFAの考えを発信し、関係する全てのサッカーファミリーと共により良いスポーツ環境を実現していく。

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年6月号より転載しています。

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