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キャプテンオンリー ~いつも心にリスペクト Vol.136~

2024年09月26日

キャプテンオンリー ~いつも心にリスペクト Vol.136~

欧州サッカー連盟(UEFA)が主催する「欧州選手権(EURO)」は、サッカー単独の大会としてはFIFAワールドカップに次ぐ人気を誇る大会で、世界中で視聴されています。6月から7月に行われた2024年大会は、日本でもテレビとネットで生放送され、ファンの間で大きな話題となりました。

この大会で、興味深い試行が実施されました。「キャプテンオンリー」と呼ばれ、試合中、レフェリーに歩み寄って判定に関する質問ができるのはそれぞれのチームのキャプテンだけというものです。

きわどい判定、あるいはPKや退場などの判定を受けたとき、たくさんの選手がレフェリーを取り囲んで抗議する姿は、いまやサッカーでは定番のようになってしまいました。競技規則では「審判の決定は最終である」と明確に規定されており、その決定は「常にリスペクトされなければならない」とされているのに、選手たちは怒りにまかせて抗議し、時には暴言を吐き、威嚇までします。

サッカーで最も醜いこうした行為をやめさせるために考えられたのが、今年、国際サッカー評議会(IFAB)で正式に実施が認められた「キャプテンオンリー」の試行なのです。

ドイツで行われたUEFAEURO2024での試行結果は上々でした。大会の序盤では、キャプテンだけがレフェリーに歩み寄ることを許され、他の選手が近寄った場合にはイエローカードが出されるという取り決めを忘れてカードを受ける選手もいましたが、51試合の大会の終盤には、判定をめぐって選手がレフェリーを取り囲むということはまったく見られなくなりました。

ライターであると同時にサッカーのレフェリーも務めているイアン・プレンダーレイスは、「決勝戦は、1960年代以降めったに見られなかったスポーツ精神でプレーされた」とアメリカのメディアに称賛の言葉を寄稿しました。

この成功を受けて、UEFAは7月以降の主催大会の全てで「キャプテンオンリー」を使うことを決め、ドイツサッカー連盟も傘下のあらゆるレベルの大会で即時導入すると発表しました。

IFABは、当初、この試行は、2部までのトップリーグや代表チーム同士の国際試合では実施できないとしていましたが、EUROでの成功を見て、トップリーグ、代表戦で実施する場合のガイドラインを発表しました。そして国際サッカー連盟(FIFA)もパリオリンピックで「キャプテンオンリー」を使いました。

以前、アメリカの大リーグ野球を見ていて、頭近くの投球があったとき、両チームの全選手が出て「乱闘」になるのに驚いたことがあります。もっと驚いたのはテレビ解説をしていた元大リーガーが「出て行かないと罰金なんです」と話したことでした。日本ではただの「乱闘」ですが、アメリカでは、「ベンチを空にする乱闘」と呼ばれているようです。

「スポーツにはそれぞれのお家柄がある」というのは、私が尊敬する大記者・牛木素吉郎さんの名言です。野球文化の門外漢である私が批判するつもりはありませんが、「乱闘」に加わるのが義務であるというのは不思議でした。

しかしサッカーで選手たちがレフェリーを取り囲むのは決して「文化」ではありません。それはルールの精神を忘れ、怒りで自己制御を失った愚かな行為であり、サッカーという競技の魅力を殺してしまう「猛毒」です。そのための手段として「キャプテン」に目をつけたのは、いい着眼点です。

現在の競技規則では「キャプテン」は選手の一人にすぎませんが、19世紀、サッカーの初期には審判員も兼ねる大きな役割と権限を持っていました。

そこまでの権限は持たせられませんが、レフェリーと向き合うとき、「自分がキャプテンである」という自覚が冷静な態度を生むでしょう。そうしたキャプテンを中継することで、周囲の選手たちも怒りにまかせた行動に歯止めがかかるのではないでしょうか。一瞬の怒りが通り過ぎれば、次のプレーを考えるのが選手というものです。「キャプテンオンリー」に、私はとても期待しています。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年8月号より転載しています。

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