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時間の空費はやめてプレーしよう ~いつも心にリスペクト Vol.113~
2022年10月26日
8月の後半にさいたま市で行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の東地区ノックアウトステージは、なかなか見応えのある大会でした。
4月のグループステージを勝ち抜いた8チームが集まり、1回戦勝ち抜き方式でアジアの東地区からのACL決勝(来年2月)進出チームを決める大会。日本から浦和レッズ、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸の3クラブが進出したこともあり、さいたま市で集中開催されることになったのです。
日本の3クラブに加え、韓国から全北現代と大邱、タイからパトゥム・ユナイテッド、マレーシアからジョホール・ダルル・タクジム、そして香港から傑志。東南アジアのプロリーグの急成長やJリーグの質の高さなどがよく理解できる大会でした。そして同時に、アジアのトップレフェリーが集まったことも注目に値しました。
カタールで11月に開幕するFIFAワールドカップには、日本の山下良美主審をはじめ、アジアから6人の主審が指名されています。そのうちの4人、カタールのアルジャシム、オーストラリアのビース、イランのファガニ、そしてアラブ首長国連邦のモハンメドの4人が、この大会で主審を務めました。さらに副審とVARも、計9人が「ワールドカップ審判員」でした。どの試合も引き締まったものになったのは当然です。中でも私が注目したのは、ラウンド16の神戸対横浜FMを担当したときのファガニ主審のレフェリングでした。
フルネームはアリレザ・ファガニ。1978年生まれの44歳。ワールドカップは14年ブラジル大会の開幕戦で第4審判を務め、18年ロシア大会では3位決定戦まで4試合も担当しました。15年のAFCアジアカップ、FIFAクラブワールドカップ、そして16年のオリンピック(リオデジャネイロ大会)では、決勝戦の主審も務めています。間違いなく、現在アジアナンバーワンの主審と言っていいでしょう。
父親も、そして弟もレフェリーという「サッカー審判一家」の出身。弟のモハンマドレザ・ファガニはスウェーデンに移住して主審を務めていますが、兄のアリレザも19年にイランからオーストラリアに移住し、現在はオーストラリアリーグで活躍しています。
興味深かったのは、ゴールキックやスローインに時間をかけようとする行為に断固とした態度をとったことです。まだ0-0だった前半の17分には、自陣奥からの横浜FMのFKに対し、強い笛を吹いてただちに始めるよう指示しました。その後スコアが動き、神戸がリードすると、スローインやゴールキックでたびたび注意がありました。もちろん、相手のFKとなったボールを(軽くですが)蹴ってしまった行為には、厳しく注意をしました。
Jリーグを見ていると、日本の主審はこうした行為にわりと寛容で、時間がかけられた後に初めて注意します。しかしファガニ主審は、時間をかけそうな雰囲気を察知すると、すかさず笛を吹いてスローインやゴールキックを促すのです。
その笛がまた絶妙でした。選手たちの神経を逆なでするようなものではなかったのです。不正な行為に怒ったり、自分自身の苛立ちを示すものではなく、「つまらない時間かせぎなどせず、さあ、プレーしようよ!」と、積極的に呼びかけるものだったのです。
神戸が2-1とリードして迎えた後半も、この笛は続きます。しかし3-1となった後、本来なら神戸がもっと「時間かせぎ」をして不思議でない終盤になっても、そう笛は増えませんでした。選手たちの多くが、ファガニ主審の意図を理解し、時間をかけずにプレーするようになったからです。
試合はともにハイレベルな攻防を繰り出し、猛暑の中、最後まで相手へのプレスも緩まず、非常にスピーディーでスリリングなものになりました。その背景には、「時間を空費せず、プレーを続けて観客を楽しませよう」というファガニ主審の意図と、それを理解し、尊重した両チームの姿勢があったと、私は強く感じました。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年9月号より転載しています。
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