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「受け入れることが大切」 山岸佐知子リスペクト・フェアプレー委員長×佐伯夕利子Jリーグ常勤理事対談 前編
2020年09月09日
JFAは9月5日(土)から14日(月)にかけて、「JFA リスペクト フェアプレー デイズ2020」を設置します。期間中はJリーグや各種連盟、地域・都道府県サッカー協会と協力して、各種試合で「リスペクト・フェアプレー宣言」やバナーの掲出等を行うほか、9月5日(土)にはオンラインでリスペクトシンポジウムを開催しました。
JFAはこれらの活動を通じ、サッカーやスポーツの現場で顕在化する差別や暴力に断固反対し、リスペクト(大切に思うこと)、フェアプレー精神を広く伝えていきます。
ここではJFAリスペクト・フェアプレー委員会の山岸佐知子委員長とJFA女子委員でありJリーグ常勤理事の佐伯夕利子さんによる対談をお届けします。
オンライン取材日:2020年8月14日
――山岸さんは審判員、佐伯さんは選手や指導者としてサッカーに長くかかわっていますが、それぞれの立場や経験から「サッカーへのリスペクト」とはどのようなものと考えているのでしょうか。
山岸 審判活動は1人でできるものではなく、選手や家族など周囲の支えがあり、一緒に楽しむ仲間がいるからできることです。そうやって支えてくれる人に対して節目、節目で感謝していますが、振り返るとそれもサッカーへのリスペクトなのではないかと思っています。一生懸命、練習している選手たちが安心してサッカーが楽しめるように、私たちも立場はアマチュアながら、プロフェッショナリズムを持ってしっかり準備し、楽しむことがリスペクトにつながると思っています。
佐伯 「リスペクト」というワードが日本の社会で広く使われるようになったのは最近だと思いますが、以前から常に何となく存在していました。直訳の「尊厳・尊重」として理解されていたと思いますが、山岸さんがおっしゃったように「感謝」という気持ちも含まれているはずです。私は29年近くスペインにいますが、西洋社会では登場頻度が高い言葉ですね。その中で「リスペクトとは何か」と考えた時に、私の中で一番、腑に落ちるのは「他を受け入れる」ことです。積極的に何かを認めるというより、その一歩手前の「受け入れること」がリスペクトを意味するのではないかと思っています。
山岸 今のお話を聞いて、私自身生活の中で、「他を受け入れる」ことができているかと、少し反省しなければならないな、と思いました。異なった考え方や見た目でも根底は同じ人間ですし、自分と異なることが批判する理由にならない、ということに気付かないといけないですよね。
――山岸さんが現役の審判員時代、選手とのコミュニケーションを取る上で気を付けていたことを教えてください。
山岸 キャリアを始めた頃は女性の審判員が少なく、男性の試合を担当すると、それこそ奇異の目で見られました。そこでしっかり自分の責任を果たしていけば徐々に認められるということを、やりながら実感しました。フィールドに立った時に選手から受け入れてもらうには、見えないところで日頃の準備をしていかなければならないですよね。一緒に試合を作っていく仲間ですから、どちらが偉い、ということは全くないので試合中をスムーズに進めていけるよう、必要に応じてコミュニケーションを取るよう意識していました。
佐伯 女性が少なかったという点では私も似たような経験をしてきました。18歳でスペインに来て、スペインからすればサッカー後進国出身の若い女性が、1人でライセンス取得コースに通った時は、まさに奇異の目で見られました。そこから10年ぐらいが経過し、日本のS級にあたるライセンスを取得して3部チームの監督を務めた時にも、大量のメディアの取材を受けました。その時にサッカー界が男性社会であることや女性蔑視、人種差別についてどう思うか質問されたのですが、「人種差別や女性蔑視があるから私が取り上げられる。それがなくなって初めて、男性優位ではない社会、人種に対する違和感がなくなった状態になるのではないか」と話しました。
――スペインはサッカーが文化として確立されているぶん、リスペクトの精神も根付いていると思いますが、指導する上でリスペクトの重要性を説くことはあるのでしょうか。
佐伯 ありますし、実はそこが大きく欠けているところでもあります。スペインの子たちは、相手が大人だろうと先生だろうと監督だろうと、言い返すということを本能的に行うんですね。言われたことに対して反論することを小さい頃に身に着けているので、その部分に対するマネジメント、調整は日本と違ってすごく難しいです。
山岸 今の佐伯さんのお話に通じるものは私も経験しています。私は審判員の指導をすることも多いんですが、アジア諸国のレフェリーを指導していると、例えば東アジアの方々は、先生の言うことを素直に聞くという教育を受けていて、変な質問をして奇異な目で見られるぐらいなら黙っていたほうがいい、という雰囲気があります。一方で西アジアの方々は「自分の意見を聞いてくれ」という自己主張が非常に強い。興味深い違いでしたが、いかにバランスを取らせるかがポイントだと思いました。主張し続けるだけではなく、指導者の意見を聞くことも大事だけど、聞いてばかりでいいわけでもない、というバランスの取らせ方は非常に難しいですよね。
プロフィール
山岸 佐知子(やまぎし さちこ)
1973年10月21日生まれ/千葉県出身
短期大学在学中にサッカー部に入部し、1年時に審判員資格を取得。その後、ステップアップを続け、2009年に女子2人目となる1級審判員資格を取得した。03年からは女子国際審判員に選出され、国際大会で主審を務め、15年のFIFA女子ワールドカップにアポイントされる。10年から4年連続でアジア年間最優秀女子レフェリーに選出。15年に審判員活動を勇退。その後、S級審判インストラクターとして審判員の養成に携わり、今年度よりJFAリスペクト・フェアプレー委員長に就任した。
佐伯 夕利子(さえき ゆりこ)
1973年10月6日生まれ/福岡県出身
18歳の頃に父の転勤に伴いスペインに渡り、現地のサッカークラブでプレー。1994年にロス・ジェベネス(対象:10~11歳)で指導者に転身し、その後、レアル・マドリード・サッカースクール(対象:12~13歳)などで指導にあたる。2003年にNIVEL III(JFAのS級ライセンスに相当)を取得。06年にはアトレティコ・マドリードCチームで監督兼育成部副部長を務め、その後、ビジャレアルCFで育成部、ユースAコーチングスタッフ、女子チーム監督などを歴任した。今年度よりJFA女子委員ならびにJリーグ常勤理事に就いた。
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