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小学生に全国大会は必要か ~いつも心にリスペクト Vol.109~
2022年06月24日
日本の柔道を統括する「公益財団法人全日本柔道連盟(全柔連、山下泰裕会長)が、3月14日に都道府県の柔道連盟(協会)会長宛てに出した「全国小学生学年別柔道大会廃止」の通達が、スポーツ界に波紋を生んでいます。
「昨今の状況を鑑みるに、小学生の大会においても行きすぎた勝利至上主義が散見される」とした上で、「心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくないものと考えます」と、その通達は説明しています。
さらに「柔道の父」、「日本のスポーツの父」とも言われる嘉納治五郎の「将来大いに伸びようと思うものは、目前の勝ち負けに重きを置いてはならぬ」という言葉も引用しています。全柔連は2004年からこの大会を開催してきました。対象は小学校5、6年生。重量級と軽量級に分かれて争われてきましたが、指導者が子どもに6キロもの減量を強いたり、判定を巡って指導者や保護者が審判員に罵声を浴びせることもあったといいます(3月18日付『朝日新聞デジタル』)。
1977年に始まった「全日本少年サッカー大会」が、さまざまな改革を経て、現在では「JFA全日本U-12サッカー選手権大会」として続けられています。2011年に11人制から8人制となり、2015年には、熱中症対策のためにそれまでの夏休み開催から冬休み開催に改められました。しかし全国の小学生のサッカーがこの大会を頂点とし、約25万人の「4種(小学生年代)登録選手」たちがこの大会を目標に練習に励んでいることに変わりはありません。
ただ、目標が高くなればなるほど競争は厳しくなり、「指導」も過熱します。その過程で、指導者が子どもたちに対して高圧的になったり、暴言を発したりすることは、なかなかなくなりません。近年、JFAを含め関係する人々の努力で「暴力」こそ大きく減っていますが、「勝つために。強くなるために」という正当化で、子どもの心を傷つける威圧的な「指導」が後を絶たないのも事実です。
それが「全国大会」があるためなのか、なければもっと「プレーヤーズファースト」の指導になっていくのか、私には分かりません。しかし小学生年代で全国優勝したり、そのヒーローになったりすることが、その子どもたちにとってこれから長く続くサッカー選手としての人生でどれだけの意味があるのか、それは、周囲の大人たちが考えるほど大きくはないのではないかと、私は考えています。
全柔連の通達から2週間後の3月28日、『朝日新聞』には、陸上競技でオリンピック3大会に出場した為末大さんの提言が掲載されています。大見出しは、「全国大会、中学生までは、いらないのでは」――。
自身、中学3年生のときに100メートルと200メートルで日本一になったという為末さんですが、同年代の中学チャンピオンが次々とトップレベルから脱落していくのを見たといいます。為末さんがオリンピック出場にまで自分を高められたのは、どうやったら速く走れるかという好奇心、すなわち、勝ち負けではないところにモチベーションがあったからと話しています。
サッカーでも、小学生で全国優勝のエースとなり、あるいは中学生時代に大きく注目された選手が結局伸びず、プロにもなれなかったという例を、50年間近くの取材生活の中で、私は数限りないほど見てきました。
私は、小学生年代は、通常は市町村(あるいは複数の市町村)単位か、せいぜい日帰りができる都道府県内の大会、中学生年代も、地域協会内の大会までで十分なのではないかと考えています。
「日本一」を目指してハードトレーニングに耐えることが無意味だというわけではありません。しかしそれよりも、シニア時代までサッカーを人生の友とできるよう、サッカーの楽しさ、仲間を尊重し、助け合いながらともに成長していく喜び、すなわち為末さんが言う「勝ち負け以外のモチベーション」に気づかせることが、何より大事な年代なのではないでしょうか。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年5月号より転載しています。
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