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許していけないことには毅然とした態度で ~いつも心にリスペクト Vol.122~
2023年07月25日
最近のJリーグで気になっていることがあります。レフェリー(主審)と選手たちの関係です。
かつてのレフェリーには、選手たちが何か言っても「問答無用」といった態度をとる人が少なくありませんでした。しかし近年は、選手の話を聞いたり、簡単に済むことであれば判定の説明をしたりするなど、「コミュニケーション」を否定せず、それによって選手に冷静さを取り戻させたり、互いの信頼関係を深めようとするレフェリーが明らかに増えました。
それ自体はとても良いことです。反則や行為の悪質性にもよりますが、しゃくし定規にイエローカードを出すのではなく、できれば注意して繰り返させないことも、重要な「ゲームコントロール」の手法だということも理解できます。
しかし、そうしたレフェリーの姿勢に選手たちが「つけいる」ような場面が、このところ散見されるのです。気になるのはそこです。
5月14日のJ1第13節、国立競技場で行われた「鹿島アントラーズ×名古屋グランパス」の前半29分。右CKを受けた鹿島の鈴木優磨選手が見事なヘディングシュートで先制点を決めた直後に、そうした出来事の一つが起こりました。
ゴールが決まって喜んだ鈴木選手はチームメートのところに走ろうと振り向きましたが、そこに黄色いシャツの木村博之主審がいるのを見て足を止め、木村主審をにらみつけながら胸を張って近づいていこうとしたのです。
実は前半12分に鈴木選手はやはり右CKから見事なヘディングシュートを決めていたのですが、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)が、CKが蹴られる直前に鈴木選手自身にファウルがあったと指摘、映像を見た木村主審は得点を取り消してCKのやり直しを命じました。そして鈴木選手は今度は文句なしの得点を決め、木村主審に対して「どうだ」という気持ちだったのでしょう。
この態度は明らかにレフェリーへの威嚇です。それに気づいた鹿島のチームメートがすばやく主審との間に入り、鈴木選手をなだめ、得点を祝福しました。チームメートが止めたこともあったのか、木村主審は鈴木選手の行為にカードは出しませんでした。
4月29日のJ1第10節、日産スタジアムでの「横浜F・マリノス×名古屋グランパス」では、こんなシーンがありました。前半13分のことです。自陣深くからカウンターを仕掛けようとした名古屋の森下龍矢選手を横浜FMの松原健選手が反則で止めます。イエローカードが出てもおかしくないシーンでしたが、山下良美主審の判断は「厳しく注意する」ことでした。
名古屋の選手は「カード」を求めて詰め寄ります。それを制し、自陣に戻ろうとする松原選手を呼び止めて山下主審が注意を始めた瞬間、反則のあった地点から20メートルも離れたところにあったボールを名古屋のマテウスカストロ選手が思いきってシュートしてしまったのです。ボールは60メートル以上飛び、ワンバウンドして横浜FMのゴールのバーをたたきました。それを見た山下主審は、即座にマテウスカストロ選手にイエローカードを突きつけたのです。
「笛を吹いて試合再開を止めていたのか」という指摘もありましたが、この状況では関係はありません。反則のあった地点から明らかに遠く、しかもマテウスカストロ選手はその直前まで山下主審に猛抗議をしていたのです。明白なレフェリーへの侮辱行為で、イエローカードは当然でした。
5月20日の「名古屋グランパス×サンフレッチェ広島」では、相手にレッドカードが出なかったことに怒った広島のドウグラスヴィエラ選手が小屋幸栄主審に激しく詰め寄り、最後には両手で小屋主審の体に触れました。しかしこれに対するカードは出ませんでした。
レフェリーの「権威主義」を復活させるべきとは思いません。コミュニケーションを大切にし、信頼関係を築こうというのは、正しい方向性です。しかし許していけないことには、レフェリーたちも「毅然」とした態度で臨まなければならないと思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2023年6月号より転載しています。
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