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全力プレーで勇気づける ~いつも心にリスペクト Vol.129~

2024年02月22日

全力プレーで勇気づける ~いつも心にリスペクト Vol.129~

「1年の終わりに、とてもいい試合を見ることができました」

スタジアムからの帰り道、友人の英国人ジャーナリストが満足げな口調で語りました。

昨年12月18日、国立競技場で行われた「ウクライナ復興支援チャリティーマッチ」。寒い夜でしたが、両チームの全力の戦いとハイレベルなプレーは、サッカーとしてとても楽しめるものでした。

昨年も夏季に西ヨーロッパからいくつもビッグクラブが「プレシーズンマッチ」のために来日し、Jリーグのクラブと対戦しました。しかしこうした来日チームの目的はひたすら「日本マーケット」の獲得にあり、そのためのスター選手の「顔見せ」です。だからオフ明け直後のトレーニングできていない時期でかまわないのです。

「主義」として、どんなスター選手が来日してもこうした試合は見に行かない私ですが、ウクライナ・チャンピオンで、今季のUEFAチャンピオンズリーグでも大奮闘してきたFCシャフタール・ドネツクが、祖国で戦禍にあった人々に住宅を提供するためのチャリティーとして来日するというところに心を引かれました。対戦するのは、Jリーグの「YBCルヴァンカップ」で初タイトルを獲得したアビスパ福岡です。

シャフタールのホームタウンは東部ウクライナのドネツク市。しかしこの地域は2014年から実質的にロシアの支配下となっており、それ以来、シャフタールは首都キーウに避難してトレーニングしています。ホームゲームもキーウやウクライナ西部のリビウでの開催です。今季のチャンピオンズリーグでは、ホーム3試合をドイツのハンブルクで戦いました。

東京での試合の4日前にはポルトガルのポルトでチャンピオンズリーググループステージ最終戦を戦い、3-5という大熱戦の末敗戦。そこから飛行機を乗り継ぎ、ほぼ24時間のフライトで15日に東京に到着。その疲れも見せず、翌16日以後は日本に避難しているウクライナの人々との交流イベントに参加してきました。

試合は、寒い中、両チームの選手をピッチに並べたまま数十分も続いた政治家などのあいさつをのぞけば、真剣そのもので、とても素晴らしいものでした。

シャフタールは「最高のプレーでウクライナの人々を勇気づけたい」とばかりに、4日前のポルト戦とほぼ同じメンバーを先発させ、スピード溢れるハイレベルなプレーを見せました。そして対戦した福岡も、さまざまな理由で主要選手を何人も欠きながら、攻守両面で一歩も引かない戦いを見せ、1点を先制されたものの、前半の終盤にはシャフタールのマリノ・プシッチ監督が思わず拍手したほどの見事なコンビネーションプレーで逆転に成功します。

後半、驚いたことにシャフタールは11人全員を入れ替えましたがプレーのレベルは落とさず、大きなサイドチェンジで福岡の守備を崩して同点ゴール。福岡も交代選手を次々と投入し、その後も一進一退の熱戦が続きましたが、それ以上の得点は生まれず、2-2の引き分けに終わりました。

「実力から言えば0-5の相手でしたが、相手に長旅の疲れなどがあり、引き分けにできました。日本のシーズンが終わって2週間、やるからには100%の試合を見せたいと準備してきました。選手たちは素晴らしい姿勢を見せたと思います」と、福岡の長谷部茂利監督は謙虚に語りました。

一方、シャフタールのプシッチ監督も、「チャリティーのための試合で祖国の人々の役に立てただけでなく、どんな試合でも同じクオリティーを見せたいという私の考えを選手たちが本当に良く体現してくれたことを、誇りに思います」と、明るい顔で話しました。

祖国を離れざるをえなかった人々、それを支援しようという人々、福岡のファン……。さまざまな人が1万8114人という入場者を構成していました。その誰もが心に暖かな「灯」がともる思いをもった試合を体験し、この寒さの中、住む家もなく苦しんでいる人々に思いを馳せた夜でした。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2024年1月号より転載しています。

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