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心打つ120分間の戦い ~いつも心にリスペクト Vol.112~
2022年09月26日
天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会のラウンド16、7月20日に東京都の味の素スタジアムで行われた東京ヴェルディ対ジュビロ磐田は魂をゆさぶられる一戦でした。うだるような暑さの中、延長戦まで120分間の熱戦は2-1で東京Vの勝利に終わりましたが、勝敗を超えて見る者の心を打つ試合だったと感じました。
現在、J2の中位でもがいている東京Vですが、天皇杯では6月に行われた3回戦でJ1王者の川崎フロンターレに1-0で粘り勝つという番狂わせを演じ、大きな話題になりました。しかし7月13日に予定されていたラウンド16を前に大きなピンチに襲われます。
チーム内に複数の新型コロナウイルス陽性者が出て、7月11日から6日間もチーム活動を停止せざるをえなくなったのです。当然、天皇杯の試合は中止となり、磐田の了解を得て決まったのが、1週間後、20日の試合だったのです。
しかしチーム練習ができたのは3日間だけ。それ以前の6日間は、部屋から出ることができなかった選手、1人で公園を走ることは許された選手など、さまざまだったといいます。その間、トレーナーが個々に連絡を取り、コンディションの維持に努めてきました。
序盤は磐田がやや優勢のように見えましたが、東京Vも経験豊富なMF梶川諒太を中心にパスをつないで反撃し、一進一退の展開。そうした中から後半の37分に東京VがPKのチャンスをつかみ、FW新井瑞希が決めて均衡を破ります。磐田は諦めずにパワープレーに出てゴールに迫ります。そしてアディショナルタイムに左からMF松本昌也が入れたクロスをファーポストでDF伊藤槙人が頭で折り返し、FWジャーメイン良がゴールに送り込みます。
90分間ゆるめることなく最前線からプレスをかけ、戦い続けてきた東京V。ここで大きく崩れても不思議はありませんでした。しかし延長戦を前に、城福浩監督は本来MFの西谷亮とDFの奈良輪雄太を2トップに並べるという大胆な采配を見せます。2人とも交代で入ったばかりの選手です。「(前線からプレッシャーをかけ続けるために)普段のポジションに関係なく走れる選手を置きたかった」(城福監督)という狙いでした。
延長後半9分に決勝ゴールを決めたのは奈良輪でした。左CKがクリアされたのをペナルティーエリア外で拾った彼は、迷わず右足を振り抜き、23メートルの距離からゴール左に突き刺したのです。
奈良輪は34歳のベテラン選手。主にサイドバックでプレーしています。しかし延長戦からFWになった彼は、30分間、最前線で全身全霊をかけたかのような猛ダッシュを繰り返し、相手守備陣にプレッシャーをかけ続けました。
「どの試合も、今日この瞬間でサッカー選手が終わってもいいというテンションでサッカーをしてきた。それがたまたまゴールというプレゼントになった」と試合後に語った奈良輪。そうした思いがストレートに伝わってくるゴールであり、プレーぶりでした。
東京Vは18年ぶりの準々決勝進出です。しかし試合後の城福監督は冷静な口調でこう話しました。
「われわれのクラブでのコロナ事情で試合を延期したことについて、試合関係者、ジュビロの関係者、サポーター、メディアを含めた皆さまにお詫び申し上げます」と、勝った喜びよりも、謝罪と感謝の念を伝えたのです。
実は相手の磐田も大変な状況でした。7月13日に2人の選手とコーチ1人が陽性となり、活動停止にはならなかったものの、17日のJ1・FC東京戦で新たな負傷者も出て、チーム編成がぎりぎりの状態でした。1週間前に試合ができていたら…と感じたファンも少なくなかったでしょう。
しかし伊藤彰監督はひと言も言い訳や愚痴めいたことは言わず。120分間よく頑張ってくれたと、選手たちをほめました。
両チームとも許された6人の交代選手を使いきり、120分間、ペースを落とさずに戦い抜いた試合。両チームの監督と選手たちの気持ちがストレートに表れたプレーが、心を打ったのは当然でした。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年8月号より転載しています。
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