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日本代表:ワールドカップ予選激闘の歴史 History

2017.07.14

【経験者が語るアジア最終予選の真実#第5回】2006年ドイツワールドカップ:福西崇史<後編>好転を生んだ「イランのバス」と「アブダビの夜」

アジア最終予選の第2戦アウェイでイランに1-2と敗れた日本代表は、興奮したイランサポーターがスタジアム周辺に溢れ試合後ホテルへ戻るバスがなかなか出発できないでいた。そのバスの中では、選手同士が緊急ミーティングを開いていた。予選突破のための許容範囲だった「1敗」を早くも喫してしまったことで、チーム内には「次に負けたら終わり」という危機感が漂った。

話し合いのテーマは3バックか4バックか。キャプテンの宮本恒靖選手が、各選手に意見を求める。すると、多くの選手の考えは「後ろを安定させたい」ということだった。つまり、3バックで守備を安定させて戦いたいという意見でまとまったのだ。

「所属チームでも慣れていたので、個人的には3バックのほうがやりやすかった」

当時のチームでボランチを務めていた福西崇史さんは、そう振り返る。ボランチは、後ろが3枚か4枚かによって、プレー中の意識が大きく左右されるポジションだ。

「4バックだとどうしても、サイドバックが攻撃に回る分、後ろにカバーする意識が強くなるが、3バックだと真ん中のツネ(宮本恒靖選手)が1枚余るので、僕はより中盤の仕事に専念できる。そこが変わってくれたのは大きかったですね」

もちろん、3バックにすればディフェンスラインの守備意識がより高まるために、攻撃陣にとっては喜ばしい事態ではない。そこには不満の声も当然あったという。

「攻撃陣とはそういう話もしましたよ。でも今の状況を考えれば、まずは守備ありきでしょ。リスクを負って攻めるのではなくて、今は守備をベースに戦っていこうと」

攻撃陣も納得し、キャプテンの宮本選手がジーコ監督に総意を伝えると、監督はこれを承諾。続くバーレーン戦から日本代表は3バックを主として戦うことになった。

しかし、ホームで行われたバーレーン戦は、守備こそ安定感を取り戻したが、なかなかゴールが生まれないもどかしい展開となった。71分に何とかオウンゴールで先制し、結局この1点が決勝ゴールとなった。

「こんなに嬉しいオウンゴールはなかった」

福西さんがそう振り返るほど、日本代表には余裕がなかった。イランに敗れたショックを払しょくしたとはいえ、日本代表の状態は決して上向いていたわけではなかったのだ。

さらに苦しい状況が続く。第4戦、アウェイでのバーレーン戦を前に、日本代表は親善試合でペルー、アラブ首長国連邦(UAE)に連敗。不甲斐ない戦いが続くなかで、日本代表は気づけば窮地に追い込まれていたのだった。

「ペルーに負けて、UAEにも負けた。とくにUAEは仮想バーレーンとして戦った試合だったんですが、あっさりとカウンターを食らって負けてしまった。ホームでは勝てたけど、アウェイではどうなるかわからない。だから、もう一度みんなで話し合おうと、選手だけでミーティングをやったんです」

話し合いが行われたのはバーレーン戦の直前合宿を行ったUAEのアブダビ。後に大きな転機となったと多くの選手が振り返った「アブダビの夜」とよばれる選手だけのミーティングである。

「あの頃は、スターティングメンバーで出ている組とベンチスタート組になってしまっていて、その間にちょっと隔たりがあったのは確かです。だから、ベンチスタートの人たちの気持ちも聞こうという感じで始まったんだと思います。まずはアツさん(三浦淳寛選手)が熱い想いを語って、それをきっかけに次々にみんなが意見を言い合った。特にベテランの選手の意見は、スタメン組や若い選手たちに響いたと思うし、士気も高まった。あの夜をきっかけに、もう一度チームがひとつになれたんだと思います」

アウェイでのバーレーン戦、選手たちは並々ならぬ想いでピッチに立っていた。スタメンのチャンスを掴んだ小笠原満男選手が34分に先制ゴールを奪うと、その後は気持ちのこもった守備で、相手の攻撃を食い止める。

「みんなが気持ちを出していたし、チームの一体感を感じられた試合だった」

結局、この1点を守り抜いた日本代表が1-0と勝利を収め、ワールドカップ出場に王手をかけたのだった。

勝てば世界最速でワールドカップ出場が決まる朝鮮民主主義人民共和国戦は、本来はアウェイでの試合だったが、イラン代表との試合でファンが暴徒化した同国に対するFIFA規律委員会による制裁により、中立国であるタイ・バンコクでの無観客試合となった。

「勝てばワールドカップに行けるというシチュエーションでしたけど、無観客試合でどうなるのかなと。ちょっとワクワク感もあり、だけどテンションは上がるのかなという不安もあり。実際に試合が始まると、ピッチ上は練習試合かと思うくらい声も通るし、確認もし合えた。違和感はありましたけど、やりやすかったというのが本音ですね」

とはいえ選手たちを奮い立たせたのは、スタジアムの外から聞こえてきたサポーターたちの声援だった。

「試合前から声を出してくれていたし、試合が始まってからも聞こえてきた。見えない僕らを応援してくれているわけですから、感動しましたし、奮い立つものもありました。練習試合ではない、ワールドカップ予選の引き締まった空気を作りだしてくれたのは、本当にありがたかったです」

試合は苦戦しながらも、67分に柳沢敦選手のゴールで先制すると、89分には大黒将志選手が追加点を奪取。2-0とこの予選で初めてとも呼べる快勝で、日本代表は3大会連続となるワールドカップ出場を決めたのだった。

「決まった瞬間は、かなりほっとしましたね。ずっとピリピリしていましたから。ギリギリの戦いの連続だったので、安堵の気持ちは大きかったです」

一方で、今後のことを考えれば、不安の気持ちもあったという。

「ワールドカップ本大会を考えると、どうしていけばいいのかなと。本当はチームを作りながら予選を進めていきたかったけど、実際は出場権を取るために守備を重視した、ある意味で割り切ったサッカーをやっていましたから」

とはいえ、それこそが最終予選なのだと、福西さんは主張する。

「ワールドカップ出場の切符をつかみ取るのは、簡単なことではないんです。目の前の結果だけを求めて、割り切ってやらないと足をすくわれてしまう。そういう戦いを続けるなかでも、積み重なる物もたくさんある。チームとしての一体感や、意見を言い合うなかで、作り上げられるものもあるんです」

自身の経験を踏まえたうえで、福西さんは今の日本代表にエールを送る。

「見ていて、正直歯がゆさはありますよ。割り切りが必要と言ったけど、そのなかで、思い切りの良さとか、個性という部分を出してもらいたいですね。リスクを負えないというのは分かるし、否定はできないですけど、みんながみんな、リスクを回避しすぎている気がする。ワールドカップにかける想いというものを、もっとピッチ上で表現してほしいですね」

8月31日に行われるオーストラリア代表との一戦に勝利すれば、日本代表のワールドカップ出場が決定する。これまでに数々の死闘を演じてきたオーストラリアは、日本代表にとってまさに難敵と言える相手だ。

福西さんにとっても、オーストラリアは苦汁をなめさせられた相手である。それまでOFC(オセアニアサッカー連盟)に所属していたオーストラリアとは2006年ドイツワールドカップの初戦で激突し、1-3と完敗。終盤に立て続けに3失点を喫しての、悪夢の逆転負けだった。

「あの試合は、今でも思い出しますよ、サッカー界にいる限り、忘れることはできません。自分のサッカー人生が大きく変わった試合でした」

中村俊輔選手のゴールで先制し、1-0で試合を折り返したものの、後半が始まるとオーストラリアの戦い方が一変。ロングボールを蹴り込むサッカーを徹底し、日本代表を次第に追い込んでいったのだ。

「もう受けることしかできなかったですね。あそこまで割り切ったサッカーをしてきて面食らった部分もあったし、だんだん余裕もなくなっていった。なんとか耐えていたけど、徐々に追い込まれて、最後に破たんした。そういう試合でした」

福西さんのなかでひとつ後悔があるとすれば、1点を守り切るという戦いができなかったこと。

「なんとなく、点が取れそうだったんですよ。もう1点取れていたら、そのまま勝てただろうし、実際にそのチャンスもありました。でも、割り切ってロングボールを蹴ってくるオーストラリアに対して、日本代表も徹底して守るべきでした。徹底できるか、できないか。その差が勝敗を分けたと思うし、そういうサッカーがあることを、あの試合で一番学んだことでした」

今回のオーストラリア戦も、いかに徹底できるかがポイントとなると福西さんは見ている。福西さんは先日まで行なわれていたコンフェデレーションズカップにテレビの解説の仕事で赴いており、オーストラリアの試合も直に見ている。

「特に印象に残っているのはチリとの試合。チリ相手に攻撃的なサッカーを展開して、ギリギリまで追い詰めましたからね。今度の試合でああいうふうに来られたら、日本代表はどうするのか。そういう視点で見ていました。なかなかうまくいかなかったチリは、途中からロングボールに切り替えたんです。あのチリでさえ、いざとなったら、スタイルを捨ててでも、勝つためのサッカーを徹底してくる。日本代表もそれでいいと思います。アウェイの試合で守りを固めて引き分け狙いの試合をしたけど、そのサッカーに勝算があると考えれば、それでもいい。たとえホームでも関係ないですね。勝つためにやると決めたことを徹底する。その意識が、今回の試合のポイントとなると思います」

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