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[特集]GKへの理解 世界のGK育成 みんなで本物の目を養おう フランス・フックJFA GKプロジェクトアドバイザー/元オランダ代表GKコーチ インタビュー 後編
2020年06月11日
日本のGKのレベルをさらに押し上げるために日本サッカー協会(JFA)は昨年、百戦錬磨のメンターを招へいした。オランダのフランス・フック氏は30年以上にわたって世界のトップレベルのGKの育成とその価値向上に力を注いできた。経験豊富な指導者にGK育成論の基本を聞いた。
インタビュー日:2019年12月12日
※本記事はJFAnews2020年2月に
掲載されたものです
――では、ヨーロッパから多くの優れたGKが輩出される理由は?
フック 確かにヨーロッパには優秀なGKがひしめいているかのように見えますが、現在、そこでトップに君臨しているのは南米出身のGKたちです。例えば、昨年新設された「ヤシン・トロフィー」に輝いたアリソン(リバプール)はブラジル人ですし、同じイングランドのマンチェスター・シティでプレーするエデルソンもブラジル出身です。
――彼らはなぜ、重用されるのですか。
フック 足元のテクニックがあり、チームの戦術にフィットしているからだと思います。1990年代はピーター・シュマイケル(元デンマーク代表)やオリバー・カーン(元ドイツ代表)のような、ゴール前での存在感があり、とにかくシュートを止める「正統派守護神」が重用されました。
しかし、92年にバックパスのルールが変更されると、GKに求められる役割が少しずつ変わっていきます。ルール変更後の数年は、バックパスをそつなく処理するスキル、つまりミスをせず、簡単にクリアすることが求められました。でも、2000年代に入ると、攻撃の一歩目としてビルドアップも要求されるようになりました。
――トレンドが変化したということですね。
フック この10年で劇的に変わったと思います。時代の波にうまく乗ったのがブラジル人をはじめとする南米出身のGKで、彼らの多くが最終的にGKに落ち着いた元フィールドプレーヤーです。こうした選手は、もともと最終ラインや中盤でプレーしていたから試合の流れも理解しています。
では、なぜヨーロッパにたくさんの優秀なGKがいるかという質問に戻ると、人々の注目がヨーロッパに集まっているからです。最もレベルが高く、人気があるため、人材とその人材を獲得する資金も自然と集まってきます。
――優秀なGKを育てる上では、環境も一つのポイントになるのでは。
フック 何をもって良い環境とするかです。天然芝のピッチがたくさんあれば優秀なGKが育つかといえば、それほど単純な話ではありません。重要なのはやはり指導者です。優れた指導者がいれば、ピッチの善し悪しを問わず、優れた選手が生まれます。
役割の違いにとらわれず全員でGKを理解しよう
――日本の場合、特にアマチュアではGKコーチがいないチームもあります。
フック 問題が明らかになっているのは良いことですよ。JFAの関係者と話していても、もっと多くのGKコーチが必要だとか、若いGKにもっと良い教育を受けさせたいとか、さまざまな意見が出てきます。すでに課題が分かっているから迅速に改善策を考えることができます。
GKコーチがいないチームで保護者がコーチを務めるとします。このようなとき、保護者が困らないように、JFAが極めてシンプルな指導教本をつくっておくことです。最も重要なのは正しいことを最低限教えられるように導くこと。それがJFAと私の仕事です。
――教える側が最低限の知識を身につけることが大事なんですね。
フック 「ここだけは修得させるべき」ということを指導者が把握しているか。全てはその見極めです。特に、ライセンスを取って間もない指導者は選手に教えすぎてしまい、結果として間違ったことを教えがちです。ならば何もせずに黙っているほうがいいのですが、そういうわけにもいきません。このように、教え方をマスターしていないのに教えたがる、という人たちにも伝わる教本でなければなりません。
――専任の指導者を設ければそれで解決というわけでもなさそうです。
フック 専任コーチはもちろん、それ以外のコーチや監督もGKの意義を知っておく必要があります。現代サッカーにおいて、GKは“ほぼフィールドプレーヤー”です。
GKコーチ、普通のコーチという立場の違いにとらわれず、全員がGKコーチングコースに積極的に参加し、そのレベルを高める必要があります。チーム全体がGKの価値を理解していれば、そのチームのGKコーチの質はおのずと上がり、結果的にチームもワンランク上がると断言できます。
――チームとしてその重要性を認識しましょう、と。
フック GKが失点の責任を問われるケースが多々あります。もちろん、キャッチミスなどGKのミスが失点の直接的な原因になるときもありますが、人々が思うほど大きなミスではないときも多いのです。その逆もあります。GKが相手のシュートを止めたとき、多くの人が「ナイスセーブ!」と思ったとして、本当は至ってシンプルなセービングかもしれません。本物の目を養うために、全員がある程度の知識を持っておくことです。
繰り返しますが、ポイントは“チーム全員がGKの役割を理解すること”です。「自分のチームには専任のコーチがいるから任せておこう」というスタンスではチームは強くならないし、優れたGKも育ちません。
正しい価値が浸透すれば世界クラスの選手が育つ
――グラスルーツレベルでGKコーチを有することはどれくらい大事ですか。
フック どのレベルでも大事ですが、その前に伝えておきたいことがあります。
GKの指導者はスペシャリストと思われがちですが、スペシャリストになるためにはまず「サッカー」という競技そのものを理解しておかなければならないということです。
GKだけに向けた個別トレーニングを課すGKコーチをよく見ます。専門的な動きに特化した練習が有能な選手を育てると信じているのでしょうが、それは間違っています。
ストライカーは同じポジションの選手だけでは練習しませんよね。クロスを上げる仲間、マーク役となる相手がいます。相手や仲間がいた方がより試合を想定した練習になり、選手たちの成長につながる。GKも同じです。
GKの指導者が普通のライセンスも保持することを義務付けられているのは、そういうことが背景にあるからです。木を見て森を見ず、では良い指導者になれません。
――GKについてもっと知りたい人がいたら、どんなアドバイスを送りますか。
フック 現在、JFAのGKプロジェクトメンバーが作成している教材を「ぜひ参考にしてください」とお伝えしたいですね。まずはJFAのGK A級ライセンス保持者に向けて送り、そこからグラスルーツレベルも含め、徐々に国内に広めていきたいと思っています。理想はこうした活動を進める中で指導者が何らかのリアクションをすること。それが今回のプロジェクトの目指すところです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
フック 「JFA2005年宣言」に「JFAの約束2050」があります。そこには2050年までにサッカーファミリーを1000万人にするという約束と、2050年までにFIFAワールドカップを日本で開催し、その大会で日本が優勝するという約束が記されています。30年後の話ですので忍耐が必要になりますが、いずれにせよ素晴らしいステートメントです。
GKの育成に関してはGKの価値を学ぶ姿勢が不可欠です。それを学び、大切にすることができれば、必ず日本のGKはレベルアップします。サッカー界の枠を飛び越えて日本中に「GKは攻守に不可欠な存在」という考えが浸透したとき、ワールドクラスのGKが輩出されると信じています。
Frans HOEK(フランス・フック)氏の紹介
1956年10月17日オランダ生まれ
プロ選手として12年間プレーした後、GKとFK専門のアシスタントコーチになる。ヨハン・クライフ、ルイス・ファンハールなど世界トップレベルの指揮官のサポート役として、アヤックスやバルセロナをはじめとするクラブチームからオランダやポーランドといった代表チームまで、幅広く指導にあたった。
【指導歴】
1985年~1997年 アヤックス・アムステルダム
1997年 FCバルセロナ
2000年~2001年 オランダ代表
2003年 FCバルセロナ
2006年~2009年 ポーランド代表
2010年~2011年 FCバイエルン・ミュンヘン
2012年~2014年 オランダ代表
2014年~2015年 マンチェスター・ユナイテッド
2016年~2017年 ガラタサライSK
2016年~2018年 オランダ代表
2018年~2019年 サウジアラビア代表