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指導者養成 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第15回~

2021年12月10日

指導者養成 ~技術委員長 反町康治「サッカーを語ろう」第15回~

日本サッカー協会(JFA)の技術委員会指導者養成部会と足並みをそろえ、僕が今、推し進めたいと考え、取り組んでいることに、監督という仕事の開始年齢の引き下げがある。指導者養成を活性化し、欧州並みの30代半ばでトップディビジョンのプロ監督になり、やがてアジアや世界を舞台に活躍する日本人指導者を送り出したいのである。川崎フロンターレの2連覇で幕を下ろした2021年のJ1リーグ。今シーズンの開幕時、J1の日本人監督の平均年齢は51.1歳だった。コンサドーレ札幌のペトロビッチ監督(64歳)や柏レイソルのネルシーニョ監督(71歳)ら外国人監督を加えると、平均年齢はさらに53.5歳に跳ね上がる。J2で若い監督が試されているかというと、そういう感じでもない。一番の〝若手〟は水戸ホーリーホックの秋葉忠宏監督の46歳。ちなみにJ1からJ3を通じて最年少はY.S.C.C.横浜のシュタルフ悠紀リヒャルト監督の37歳である。

これを欧州5大リーグのトップディビジョンの監督たちと比べるとどうなるか。監督の平均年齢が一番若いのはドイツのブンデスリーガで46歳。以下、スペインのラ・リーガの52.1歳、フランス・リーグアンの53.4歳、イングランド・プレミアリーグの53.7歳、イタリア・セリアAの53.9歳と続く。ブンデスリーガ以外は、日本とそれほど差はないわけだ。しかし、彼らが「監督」と名のつく仕事を何歳から始めたかで比較すると、日欧の差は顕著になる。J1の日本人指揮官の監督開始年齢が平均40.3歳であるのに対し、ブンデスリーガのドイツ人監督は34.9歳、セリエAのイタリア人監督は35.2歳、ラ・リーガのスペイン人監督は35.5歳、プレミアリーグの英国人監督とリーグアンのフランス人監督は36歳となる。明らかに日本人指導者は監督という仕事を始めるのが遅いことが分かっていただけるだろう。

今のところ、J1で最も若い日本人監督は、シーズン途中で指揮を引き継ぎ、湘南ベルマーレを残留に導いた43歳の山口智監督だ。日本の感覚だと若いと感じられるかもしれないが、ラ・リーガのラージョのイラオラ監督、冨安健洋が所属するプレミアリーグのアーセナルのアルテタ監督、セリエAのスペツィアのモッタ監督はいずれも39歳。ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンを率いるナーゲルスマン監督にいたっては34歳である。ボルフスブルクのコーフェルト監督、ホッフェンハイムのヘーネス監督も39歳だから、ブンデスリーガには30代の監督が3人もいる。それで私も「もっともっとネジを巻かなければ」と思うわけである。

日本の場合、何が開始年齢を遅くしているのだろうか。いろいろな要因が複雑に絡んで「これが理由だ」と一概には言えないが、私が残念に思うのは、JFAのライセンス制度が往々にして原因にされることである。「C級(アマチュアレベル-サッカー指導の基礎を理解している)、B級(アマチュアレベル-サッカーの指導が質高くできる)、A級(アマチュアトップレベル)、S級(プロ)と階段を上がっていくのに時間がかかり過ぎる。それでライセンスを積極的に取得する気にならない」という感じで。確かにそういう面はあるのかもしれないが、指導者とは「簡単になれるなら、なってもいいよ」というような安易な気持ちで目指されては困る仕事である。どうしたって、ある程度の時間や労力を割いてもらうのはやむを得ないし、拙速に過ぎると「促成栽培だ」という批判も出てくる。その辺のバランスをどう取っていくか。

自分を例に引けば、選手として現役だった最終年、契約更改の場で年俸の話はそっちのけで、B級ライセンスのコースに通える時間をつくりたいと交渉したものだ。幸い、ベルマーレのフロントが快く了解してくれて、練習の合間を縫って受講することができた。当時、現役JリーガーでB級コースに通っていたのは僕だけだった。そうやって現役のうちにB級を取得したことで、引退してすぐにバルセロナで研修を積みながらA級を取得し、帰国後もただちにS級を受講して36歳でプロチームを率いられる資格を取得できた。アルビレックス新潟で監督になったのは37歳の時。ライセンスの取得を早く始めれば、それだけJ1の監督に早くなれる可能性が広がることを僕は身をもって知っている。

Jリーグや日本代表で素晴らしい実績を残した選手、元選手にできるだけスムーズに指導者の階段を上ってもらうために、JFAは日本プロサッカー選手会(JPFA)とも連携していくつかの手を打っている。一例がC級やB級のコースをJリーグのオフシーズンの12月、1月に開催し、受講しやすくしたこと。コロナ禍で開催を見送っているけれど、欧州各国のリーグはオフシーズンが6月、7月なので海外組のためにそこでもコースを開くつもりでいる。一定の条件をクリアした選手に対する優遇措置も採用している。Jリーグで長年にわたり活躍した選手や代表選手は日本で飛び抜けた経験値を持つ。その知見は指導者になって広く還元されるべきなのだが、代表の主力になればなるほどシーズンを通して働き詰めになり、ライセンスを取得する時間的な余裕がなくなってしまう。そういう悪循環を解消する手立てとしての〝優先レーン〟の採用である。

例えば、C級の取得に関しては、①トップディビジョンリーグ(日本ならJ1相当以上のリーグ)に7年以上在籍している、②国際Aマッチに20試合以上の出場歴がある、という条件のうち、どちらかを満たせば、C級短縮版の特別コース受講を可能にした。特別コースはセーフガーディング、ハラスメント、子どもたちとの関わり方など、ベーシックなカリキュラムが中心。C級に対するハードルは、これでかなり下がると思っている。B級受講時には「国際Aマッチに20試合以上の出場歴」がある上で、コース修了時の成績が抜群な者に対しては1年の指導経験を免除し、翌年にはA級ジェネラルを受講できるファストトラックを設けることにした。これまでもA級からS級に上がる際に、①国際Aマッチに20試合以上の出場歴がある、②プロリーグ公式戦で300試合以上の出場歴がある、のどちらかに該当し、かつA級ジェネラルの成績が優秀なら1年の指導経験を免除しS級を受講できるようにしてきた。つまり、これら新旧の優遇措置を連結させると、日本代表として20試合以上のキャップ数を持ち、なおかつB級、A級のコースで優秀な成績を修めた者は2年分の指導経験をスキップできるわけで、理屈の上ではその分だけ早くS級が取得できるわけである。

ライセンス取得に優先レーンを設けることに、いろいろな意見があることは承知している。「選手時代の実績と指導力は関係ない」というのはそのとおりだし、「名選手必ずしも名監督ならず」という格言もある。しかし「名選手にして名監督」という例も実はいくらでもある。グアルディオラしかり、ジダンしかり。日本代表やJ1で長年活躍するような選手はお金を払ってもできないような貴重な経験を積んでいるのは間違いないし、その経験や見識は貴重なものだ。そういう人材を、少しでも早く指導経験を積ませて現場に立たせることは、次世代に良い種をまくことにもつながると確信している。人を教えることにあまり興味がないという選手に言いたいのは、指導の世界に足を踏み入れると、自分の考えが整理されるメリットがあることだ。指導者や指導法への理解が深まり、客観的な視点を持てるようになる。私もB級コースを受講し「ボディーシェイプ」「プルアウェイ」などの指導用語を知った現役最後の年が、一番プレーが整理されていた。

ライセンスを取ることは、指導者として最低限のことを身につけてスタートラインに立つことを意味する。勝負はあくまでも取った後で、そこから先はクリエイティブに自分なりの監督像をつくり上げていくしかない。やること、なすこと、全部うまくいったなんて監督は一人もいない。私も失敗から多くを学んだ。「どうしてこんなことができないんだ」と選手にいらだって怒るコーチは無能な証拠で、できないことをできるようにするのが指導者というものだ。そういう意味で、どこのチームに行っても素晴らしいサッカーを作り上げるグアルディオラは本当にアイデアの宝庫という感じ。できないことをできるようにする引き出しは、ライセンスを取得した後も自分で学び続けて増やすしかない。

スポーツの世界で、高い頂をつくるには、裾野を広げることが大事だと言われる。指導者の世界も同じだろう。より多くの指導者が己の信念や哲学に磨きをかけ、競い合うことで、アジアや欧州で活躍する日本人指導者も出てくると思う。指導者の質は日本サッカーの浮沈を握っているとも思う。選手を育て、世に送り出すということにおいて、競技人生の入り口から出口まで選手と伴走するのは、身内の方を除けば、指導者である。選手の人間形成にも大きく関わる指導者の良し悪しは、選手の人生に大きな影響を及ぼす。そういう意味でも本当に大事だし、真理の探究を続ける終わりのない仕事ともいえる。日本のスポーツ界では「選手は指導者を選べない」とよく言われる。学校の部活などをイメージすると、確かに、自分で好きな競技を選んで入部することはできても、そこにいる顧問の先生を「この人の教え方は自分に合わないから変えてほしい」と注文をつけることは難しい。コーチと選手の関係にはどこか「運命」「宿命」と受け止めて付き合っていくしかないところがある。それだけに、教える側と教えられる側の不幸なミスマッチを少しでも減らすためにも、指導者の質を上げていくことはすごく大事だと思っている。

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