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どんなときにもポジティブに ~いつも心にリスペクト Vol.69~
2019年03月22日
イングランドサッカー協会(FA)が昨秋から新しい取り組みを始めました。
「私たちはポジティブな働きかけだけ(We Only Do Positive)」というキャンペーンです。
18歳までのサッカーで何が起こっているか、FAが1年間をかけて広範な調査を行った結果わかったのは、少年少女の成長に最も大きな役割を果たすのは「リスペクト」であることでした。10人中9人の子どもが、コーチや父母たちからのポジティブ(肯定的)な勇気づけの中でより良いプレーができ、逆にネガティブ(否定的)な言葉や態度は悪影響を与えることが明確になったのです。
FAの公式サイトのこのキャンペーンに関するページには、1本の短い動画が掲載されています。
母親が少年を車に乗せて試合会場にやってきます。
「だいじょうぶ、お父さんもきっと来るから」
なかなか父親が姿を見せないため、少年は気になって仕方がなく、コーチに注意を受けます。そこにようやく、警備の仕事を終えて駆けつけてきた父親が現れます。
張り切って試合にはいる少年。しかし懸命なタックルも及ばず相手に得点を許し、ドリブルで相手を抜いて放ったシュートもポストを直撃してしまいます。頭をかかえる少年。「何をやってるんだ」と言わんばかりの父親の表情を、少年はしっかりと見ています。
そしてPKのチャンス。少年は見事なキックでゴールの右上隅を狙いますが、相手GKがすばらしい反応を見せてセーブ。結局試合は負けで終わります。
失望した少年。「もうサッカーはいいや」とばかりに、シューズを脱ぎ捨てて両親の車に戻ります。
「で、どうだったの?」
後部座席に乗った少年に無造作にたずねる母親。うなだれる少年。助手席の父親が振り向いて少年に声をかけたのはそのときでした。
「ライオンのように強い心がこもったプレーだったぞ」
その言葉に、少年の瞳が輝きます。小さくウインクする父親。少年はうれしそうにほほ笑むと、車のドアを開け、シューズを取りに駆けだすのです。
子どもたちはサッカーが大好きで取り組んでいるのですが、同時に、自分がしっかりプレーできているのか、いつも不安にかられています。試合には勝敗があり、勝てば安心が得られますが、負けるとますます不安になります。
ここで大事なのが、コーチや父母など、子どもを囲む大人たちです。失敗したり負けたりするたびにネガティブな言葉を口にしたり態度に出せば、子どもたちは自信を失い、喜びを感じられなくなって、サッカーへの情熱も失せてしまうでしょう。それは彼らから「成長」のチャンスを奪ってしまうことなのです。
逆に、コーチや父母がどんなときにもポジティブな言葉や態度で勇気づければ、子どもたちはサッカーをプレーすることに大きな喜びを感じ、もっともっと意欲的に取り組むようになります。それが「成長」の最大の力になることは言うまでもありません。
FAが始めたポジティブ・キャンペーンは、コーチや父母など、「子どもたちを囲む大人たち」を再教育するためのプログラムです。大人たちから叱られて育ち、コーチたちから否定的なことばかり言われて育ってきた大人たちは、子どもたちにも同じように接しがちです。しかしそれでは、子どもたちは伸び伸びと自分自身を伸ばすことはできません。
子どもとは、成熟への途上にある者のことであり、理解不足や失敗があるのは当然です。大人に要求されるのは、そうした存在に対する最大限の「リスペクト」ではないでしょうか。理解不足をなじり、失敗を叱るのではなく。何かをやろうという積極的な態度をほめることです。そして、危険がないようにしたり、子どもたちが心からサッカーを楽しめる環境を整えることです。
どんなときにもポジティブな面を探し、子どもたちを励ます言葉を出し惜しんではいけないことを、FAの動画は教えてくれます。
(イングランドサッカー協会HPより)
イングランドサッカー協会は2008年より、リスペクトプログラムを立ち上げ、ピッチ内外のあらゆる場面で行動の改善に取り組んでいる(We Only Do Positiveキャンペーンは、こちらを参照)
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2019年1月号より転載しています。
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