大成功に終わったFIFA女子ワールドカップ~【コラム】 田嶋幸三の「フットボールがつなぐもの」vol.20~
2023年08月21日
FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023は、スペインが初優勝し、ドイツに続いて男女のワールドカップを制した二つ目のチームとなりました。大会最優秀選手に贈られるゴールデンボール賞はスペインのアイタナ・ボンマティ・コンカ選手が手にしました。
国際サッカー連盟(FIFA)は女子ワールドカップの価値を向上させようと、今大会から出場枠を24から32に拡大させ、賞金総額も前回大会の3,000万USドルから4倍近い大幅増の1億1,000万USドル(日本円で約154億円)に増額するなど、さまざまな改革を図りました。FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長のリーダーシップにより、本当に素晴らしい大会になったと思います。インファンティーノ会長には心からの敬意と感謝の意を表したいと思います。
池田太監督が率いるなでしこジャパン(日本女子代表)は今大会、ベスト8で大会を終えました。しかし、ラウンド16進出チームの中では警告が最少の1枚、退場者もゼロで、2011年大会以来2度目のフェアプレー賞を獲得。また、5得点を挙げた宮澤ひなた選手がゴールデンブーツ賞(得点王)を受賞しました。2011年大会で、同じく5得点を挙げた澤穂希選手以来、2人目の快挙です。
日本はグループステージでザンビアに5-0、コスタリカに2-0、強豪のスペインにも4-0で勝利して無失点でラウンド16に進出しました。ラウンド16ではノルウェーと対戦。開始20分にグーロ・レイテン選手に決められ、今大会で初の失点を喫しましたが、冷静に対応し、後半はボールを奪う位置を修正。理想的な試合運びを見せて3-1で勝利しました。
準々決勝の相手は、FIFAランキング3位のスウェーデン。東京2020オリンピックで銀メダルを獲得した相手は、日本をよく分析しており、攻撃の起点となる長野風花選手(リバプールFC)や長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)にしっかり対応し、前半は日本の攻撃を許しませんでした。後半になると日本のチャンスが生まれる時間帯もありましたが、スウェーデンはやはり一枚上手でした。試合終了間際に途中出場の林穂之香選手(ウェストハム・ユナイテッド)が1点返すも力及ばず。それでもこの大会を通して選手たちは日本らしい戦い方を貫きました。
今大会も多くの人々が現地で、そしてテレビでなでしこジャパンに熱いエールを送ってくださいました。なでしこジャパンの、果敢に挑戦する姿と明るくフェアな立ち居振る舞いは海外のサッカーファンまでをも魅了。特に準々決勝の最後、スタジアムに響き渡った日本コールは感動的なものでした。
今回も観戦後に日本人サポーターがスタンドを清掃する行為が世界から称賛されたほか、大会公式X(旧ツイッター)にはきれいに整頓された日本のロッカールームの様子と、「ARIGATOU ありがとう」のメッセージと日の丸の絵が描かれたホワイトボードの写真が投稿されました。また、インファンティーノ会長も自身のSNSに「準々決勝のスウェーデン戦では惜しくも敗れたが、今回の大会が史上最高のFIFA女子ワールドカップになったことへの貢献は、フィールド内外で誰もが忘れない。全ての選手、スタッフ、そして素晴らしい模範を示してくれたファンに感謝する」と賛辞を記しました。
日本サッカーが世界に称賛されたことを本当に誇りに思います。そういう行いを自然にできるというのは日本で培われた伝統とリスペクトの精神があるからです。私たちは、それを誇るべきですし、決してなくしてはならないと思います。
歴代のなでしこジャパンのDNAを受け継ぐ素晴らしいチームでしたし、日本女子サッカーの価値を向上させてくれたと思います。世代交代を進めながら、強く、魅力的なチームをつくってくれた池田監督やコーチ陣、スタッフらに感謝します。また、選手が所属するチーム、これまで選手たちを育ててくれたクラブや学校など、多くの関係者の皆さまにも心から御礼申し上げます。
今大会にアポイントされた山下良美主審、坊薗真琴副審、手代木直美副審の活躍も特筆すべきことです。
日本人審判トリオは、地元ニュージーランド女子代表とノルウェー女子代表の記念すべき開幕戦を担当。日本人がFIFAワールドカップの開幕戦の笛を吹くのは2014年のブラジル大会での西村雄一主審、相樂亨副審、名木利幸副審以来で、女子ワールドカップでは初めてです。
会場となったイーデン・パークスタジアムには4万1237人が集結。大観衆が見守る中、見事、大役を務めました。
FIFAは今大会でVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の検証が行われた際、スタジアム来場者とテレビ視聴者に説明(※)することを決めました。その事象が開幕戦で発生。スコアレスで迎えた試合終了間際の88分に、ニュージーランドへのPKの判定がVARで検証されることになり、検証の末、山下主審はPKを指示しました。その後、山下主審はマイクを通して観戦者らにそのVAR判定を説明しました。実に堂々とした態度でした。
開幕戦は、本大会における判定や判断などの基準を示す役割もありますので、プレッシャーも大きかったはずです。注目の開幕戦を、冷静に、毅然とジャッジしたことは日本サッカーとして、また、女性審判員らにとっても誇るべきことだと思います。
山下主審ら日本人の審判トリオは開幕戦のほか、グループEのアメリカ対オランダ戦、ラウンド16のオランダ対南アフリカの計3試合を担当。また、山下、坊薗両審判員はグループステージでそれぞれ第4の審判員と副審に指名され、決勝戦では山下主審が第4の審判員にアポイントされました。FIFA女子ワールドカップの決勝を日本人審判員が担当するのは、2007年の中国大会で第4の審判員を担った大岩真由美主審以来、2人目です。
日本人審判員が世界の桧舞台で素晴らしいレフェリングを披露したことを心からうれしく、誇りに思います。
※FIFAクラブワールドカップモロッコ2022とFIFA U-20ワールドカップアルゼンチン2023で試験的に実施。
日本国内でも多くの皆さんがテレビで応援してくださいました。ラウンド16のノルウェー戦は、NHKの視聴者数が約672万人で、グループステージのスペイン戦の2倍以上だったことがFIFAの集計で分かりました。
前号でお伝えした通り、今大会の日本国内での放送についてはFIFAとの交渉が難航しました。私と宮本恒靖専務理事とで粘り強く交渉に当たり、開幕を1週間後に控えた7月13日にようやくFIFAとNHKとが合意に至りました。また、ニュース映像も各テレビ局で使用できることになりました。FIFAのインファンティーノ会長とNHK、関係者の皆さまには心から感謝申し上げます。
多くの人々になでしこジャパンの試合を観ていただいたことがチームの力になったことは言うまでもありません。日頃、女子サッカーを見る機会がない人も、大会の盛り上がりや世界の女子サッカーの迫力、なでしこジャパンの魅力などを感じていただけたと思います。世界最高レベルに触れ、サッカーに関心を持ったり、なでしこジャパンに憧れたりするなどして、サッカーを始める少女や女性もまた増えていくでしょう。ファンの拡大なども期待され、WEリーグやなでしこリーグの盛り上げ、女子サッカーの発展を大きく後押ししてくれるはずです。
なでしこジャパンもWEリーグ同様に、女性活躍社会の実現を目指しています。今年6月には「自分らしく挑戦する象徴であること」というなでしこジャパンのパーパス(存在意義)を発表。多くの人々の共感を得て、誰もが意志を持って夢や目標にチャレンジし、一人一人が輝く社会をつくっていきたいとしています。なでしこジャパンが強く、そして国際社会から評価され、リスペクトされることで、日本だけでなく、女性の社会進出が遅れていると言われるアジアの発展にも寄与するはずです。
8月26日(土)からは2023-24 WEリーグカップがスタートしますし、10月23日(月)からは、パリオリンピック2024 アジア2次予選がスタートします。ぜひ、これからも日本の女子サッカーをご支援ください。
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