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ブルーノ・ガルシアのフットサル道場 vol.2「コンフォートゾーンを脱出せよ!」
2019年08月22日
必見「フットサル道場」!
機関誌『JFAnews』で連載中のブルーノ・ガルシアフットサル日本代表監督のコラムをJFA.jpでもお届けします。フットサルの魅力や指導法など、フットサルだけでなく、サッカーにも通じるポイント満載です。
※本コラムはJFAnews2017年6月号に掲載されたものです
問題を放置すると成長の妨げになる
この世に不安や劣等感、コンプレックスを抱いたことがないという人はいるだろうか。どんなにポジティブな人も不安の一つくらいは持ったことがあるはずだし、今は全てが順風満帆でも、数年後には苦境に立たされるようなことがあるかもしれない。地位や名誉、職業や性別、年齢に関係なく、誰もがネガティブな気持ちになったことはあるだろう。
先日、フットサルA級コーチ養成講習会で講師を務めたとき、こんな質問を受けた。
「ドリブルもパスも上手なのに、シュートが決まらないという選手とどう向き合うべきか」。決定力不足というコンプレックスを克服できるかという問いかけだった。
世界に目を向けると、ワールドクラスと呼ばれる点取り屋は、アルゼンチンやウルグアイ、ブラジルなど南米出身者であるケースが多い。私自身、南米で指導していて気が付いたことがある。彼らの多くが、フットボールは貧困から抜け出す手段と捉えているため、選手の間には常にサバイバル精神が充満していた。点を取らなければ、生活していけない。そんな状況にある選手のゴールへの執着心、ボールを持ったときの集中力はすさまじく、指導者として刺激を受けたものだ。
日本の場合、生活水準が南米より高く、食事にも困らない。とはいえ、「生活水準が高いから選手のハングリー精神が削がれ、決定力が低くなる」と結論付けるのは、短絡的すぎる。そもそも、ハングリー精神=貧困からくるもの、とは言い切れない。日本にも得点への飢餓感を強く持った選手はいる。決定力不足解消のカギの一つは、こうした選手を増やすことではないだろうか。
ハングリーで、成長にどん欲な選手を育てるには、彼らを「コンフォートゾーン(居心地の良い場所)」から抜け出させる必要がある。得意なポジションやプレーにこだわるなという意味ではない。苦手なものに直面したとき問題を放置すること、課題を示されたとき「自分にはできないから仕方がない」と見切りをつけることがコンフォートゾーンであり、成長の妨げになる。
選手の弱点を克服させるのは指導者であり、保護者の仕事。だからこそ、指導者には忍耐力と工夫が必要になる
(写真はフットサルA級コーチ養成講習会のひとコマ)
大人の我慢と工夫が子どもの人格を形成する
コンフォートゾーンは、日本風に言うと「ぬるま湯」にあたる。選手がコンフォートゾーンから抜け出し、苦手なものを克服する習慣をつけるにはどうすればいいか。選手の保護者と指導者による、教育と育成が肝になる。
私にも子どもがいる。自分の経験に基づいて、「これはやっておいた方がいい」と子どもに勧めるのだが、断られることがある。子どもが言うことを聞かないときは少し我慢して、工夫するように心がけている。
例えば、果物が苦手な子がいるとする。「果物には栄養があるよ」と言っても、なかなか食べようとしない子だ。ここで、親が「はい、そうですか」といって諦めるのは早い。皮をむいて、食べやすいようにひと口の大きさに切ってみる。それでも食べないのならば、さらに細かく切ってヨーグルトに入れてみる。あらゆる手を使い、子どもが知らず知らずのうちに食べるように導けば、果物嫌いを克服できるかもしれない。
この考え方は、サッカーやフットサルにも通じる。全てのプレーを左足で行う選手がいるとする。左足のキック、ボールタッチは一級品だが、右足はあまり使わず、無理な体勢でも左足を使おうとする、古典的なレフティーだ。
この選手の右足を鍛えたい場合、指導者が取り組むべきは練習に一工夫を加えることだ。例えば、得意な左足はワンタッチで、一方の苦手な右足はどれだけ使ってもいいという条件でプレーさせるだけで、その選手の意識は自然と右足に向く。他の選手にも同じような条件を与えれば、全員が一緒になって苦手の克服に取り組むことができる。
子どもたちは、好きだからサッカーやフットサルに取り組む。その中で、ほぼ全員が苦手なことや壁に当たる。その壁の前に立ち尽くすか、壁を乗り越えようとするかは、親と指導者次第と言っていい。だから大人には、子どもがコンフォートゾーンから抜け出す習慣を日々の生活でつけさせてほしい。それによって、その子どもが大人になったとき、不安や劣等感を乗り越えやすくなるはずだ。