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海外組の逞しさが融合と継続を生む ~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.12~
2021年05月19日
海外組と国内組が融合した背景
2021年3月、日本代表は約1年4カ月ぶりとなる国内での活動を実施することができました。コロナ禍において、試合の開催に尽力していただいた各省庁をはじめ、関係者の皆さまには、この場を借りて感謝の意を述べたいと思います。
その3月の活動においては23人中10人が、自分が代表監督になってから初めて招集した選手であり、うち8人が初の日本代表経験者でした。半数に近い選手たちがそうした状況ながら、韓国戦で3-0、続くモンゴル戦で14-0という結果を残せたのは、昨年10月、11月にヨーロッパで行った活動で、チームのベースを強化でき、その強度を維持した選手たちが、チーム全体を底上げしてくれたからだと感じています。コロナ禍ということで、チームとして過ごす機会が制限される中、経験のある選手たちが中心になり、限られた時間で積極的にコミュニケーションを取る姿がありました。その結果、韓国戦で日本代表初出場ながら初ゴールを決めた山根視来、初キャップをマークした稲垣祥、江坂任ら国内組と、経験のある海外組が融合し、チームとして存分に力を発揮してくれました。こうして振り返ってみても、充実した活動期間だったと実感しています。
実に約1年4カ月ぶりとなった国内での試合を通じて、改めて感じたのは海外でプレーする選手たちの頼もしさとタフさでした。これは日本代表監督に就任した当初から感じていたことですが、特にヨーロッパから帰国して試合に臨んでくれている選手たちの覚悟には、監督としても尊敬の念しかありません。
その理由として、まずはコンディションが挙げられます。前回の活動を例にすれば、吉田麻也と守田英正のふたりは、所属クラブでの試合日程により、チームに合流できたのは3月22日の夜でした。そこから3月25日の韓国戦までは3日あるかないか。彼らの帰国に際しては、日本サッカー協会がチャーター便を手配するなど、できうる限りの準備をしてくれました。それでもコンディションという観点で見れば、難しさはあったことでしょう。チャーター便を利用したとはいえ、長距離移動による疲労もあれば、時差といった問題もあるからです。しかし、ふたりともそれを言い訳にすることなく、試合までにコンディションを整え、韓国戦、続くモンゴル戦でもベストを尽くしてくれました。
それは、彼らふたりだけではなく、海外から長時間に及ぶ移動をして、ピッチに立ってくれている選手全員に共通して言えることでもあります。海外組の選手たちは国内での活動の際には、練習で身体が重そうに見えることもありますが、試合当日には必ずといっていいほど、コンディションを合わせ、心身ともに戦える状態に持ってきてくれています。毎回、その姿勢と取り組みには頭が下がる思いです。
プロサッカー選手であれば当たり前、アスリートならば当然——そう思う人もいるかもしれません。しかしながら、それは決して容易なことではありません。皆さんも出張や旅行などで、長距離移動したときには、帰宅してドッと疲れを感じた経験があるかと思います。それが海外であれば、時差により睡眠時間がうまく確保できずに、その後の体調に影響を及ぼした経験がある人もいるのではないかと思います。選手たちもアスリートとはいえ、同じ人間なだけに、いくら飛行機で快適に過ごし、移動には慣れているとはいえ、やはり疲労は感じるもの。しかも、ピッチで100%の力を出さなければならないとなれば、その大変さは想像に難くないと思います。
実際、2019年11月に、当時U-22日本代表の活動があったときには、横内昭展コーチから、海外組である選手たちが時差調整や長距離移動による疲労からコンディションが整っていなかったとの報告を受けたことがありました。それに付随して、サンフレッチェ広島との練習試合では、選手たちのパフォーマンスが上がらず、横内コーチは、「日本代表の選手ならば、このタイミングで公式戦を戦っているぞ」と、発破をかけたとも聞きました。経験を積んでいる段階だった当時のU-22日本代表選手たちは、それだけ時差調整やコンディション作りに苦労していたことが窺えるエピソードでした。
リスクを抱えながら日本代表で戦う海外組の覚悟
また、ヨーロッパを主戦場に活動している選手たちにとっては、代表での活動を終え、所属クラブに戻ってからもコンディションという視点での戦いは続きます。再び長距離移動を強いられるため、所属クラブに戻ってからも、当然ながらコンディションについては、クラブから確認されることでしょう。それにより、次の公式戦への出場を見送られる機会もあるかもしれません。ヨーロッパにおいては、助っ人という立場である彼らが、コンディションを理由に、1試合出場を逃したとする。それが意味することの大きさは、図り知れません。
例えばですが、自分が代表の活動で抜けている間に、所属クラブの練習でアピールした同じポジションの選手が評価を上げているかもしれない。自分が出場しなかった1試合で同じポジションで起用された選手が活躍して結果を残すかもしれない。それがゆくゆくは、自分自身のキャリアを左右する結果につながるかもしれない……。心身ともにのし掛かる重圧もまた、図り知れません。彼らは、日本代表の活動を終え、所属クラブに戻ってからも、そうした厳しい戦いに打ち勝ち、再び出場機会をつかんで、また日本代表に戻ってきてくれている。ひと言でいえば、常にリスクを抱えているのです。それでもなお、日本代表の活動に誇りを持ち、プレーしてくれている。まさに日本を背負って戦ってくれている覚悟を知れば知るほど、頼もしさであり、逞しさを感じもします。コロナ禍が続くなか、1年4カ月ぶりに国内で試合を行うことができたからこそ、改めて彼らへの敬意を思い起こさせてもらいました。
それは冒頭でも述べたように、昨年10月に2試合、11月に2試合、ヨーロッパで親善試合ができたからこそ感じたことでもあります。昨年2度にわたり、ヨーロッパで活動したときには、ヨーロッパでプレーしている選手たちの状態の良さを痛感しました。時差調整やコンディション調整に、それほど時間を割く必要がなかったため、“トレーニングの強度”を上げることもできれば、戦術を落とし込み、コンビネーションを高める時間を作ることもできました。やはり冒頭で、“強度を維持した状態で3月の2試合を戦えた”と綴ったのは、そうした視点によるものです。
強度の高いトレーニングを経て、コートジボワールやメキシコといった高い強度を誇る相手と試合ができたことで、そのイメージを持ったまま韓国戦に臨むことができました。そうした経験と継続が、韓国戦において3-0という結果を残すことができた要因であるとも考えています。
昨年の欧州遠征で得た強度の効果と継続
3月の活動で、特に初招集した選手たちは、ここまで述べてきた海外でプレーする選手たちのタフさを実感してくれたことでしょう。実際、国内組である選手たちからは、自分も感じていたように、海外から日本に戻ってきて時差調整やコンディション調整がある中で、高いパフォーマンスを見せる姿に感銘を受ければ、刺激を受けたという話を聞きました。その刺激が、国内で戦う彼らを向上させ、所属クラブ、さらには日本の力になってくれると期待しています。
思い起こせば、自分がサンフレッチェ広島の監督を務めていたときもそうでした。日本代表に招集された選手が戻ってくると、そこで得た意識をチームに落とし込んでくれることで、チーム全体の練習強度が向上する効果を実感していました。それはJリーグにおける試合においても、イコールだと思っています。マッチアップした選手が日本代表に選ばれた彼らを抑えようとすることで、魅力ある試合になる。さらにそこでお互いがまた切磋琢磨することで、サポーターが感動や興奮を覚え、さらには日本サッカーのレベルアップにつながっていく。
そうした発見や発掘、そして経験の継続を繰り返していく。そのうえで、チームとして融合していく。その循環が、日本代表を、さらには日本サッカーをも向上させていくと考えています。
昨年2度にわたるヨーロッパでの活動と、今年3月の国内での活動では、循環と融合を行うことができたと確信しています。まさに継続は力なり——改めて、その格言を噛みしめさせてくれる充実した期間でした。
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