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日本代表監督リレーインタビュー 第7回 U-16日本代表 森山佳郎監督「自信を掴むきっかけ。やればできる」
2020年05月05日
日本代表チームは新型コロナウイルスの感染拡大防止のために多くのサッカーやスポーツの現場同様に活動の自粛を余儀なくされています。選手の皆さんと同様にStay homeを続ける各カテゴリーの代表監督に今回はサッカーに対する思いや、苦難を乗り切ってきた経験、夢の大切さなど、話を聞きました。
今回は、狩野倫久監督と同じ年代の男子選手を率いる、U-16日本代表の森山佳郎監督です。
「あれ、なんで体育館にいるんだろう」
僕は、もともとは野球大好き少年でした。サッカーとの出会いは小学3年生。学校にサッカー部ができて、野球は4年生からしか入れなかったので、「よし!一年間体を鍛えよう」と始めました。特に秀でたものがあるわけではない、普通のサッカー少年でしたが、思った以上に楽しくて。そのまま小学校卒業まで続けました。中学に入ると、なにか違うこともやってみようとバスケットボール部を選びました。最初の練習が終わって、ふと体育館の外を見たらサッカー部が練習しているんですね。「あれ、なんで俺は体育館にいるんだろう。ちょっと選択を間違ったかな」と思ったことを覚えています。ただ、自分で決断して始めたことですし、すぐサッカーに戻るのは中途半端ですから、一年間はバスケットボールに取り組みました。バスケットボールも楽しかったですが、「サッカーがしたい」「サッカーがこんなに好きなんだ」と気付くことができたのは、自分にとって大きなきっかけでした。あれから40年。そのおかげか一度もサッカーをやめようと思ったことはありません。
再びサッカーから離れた一年間
高校生で進路を考えたとき、大学でサッカーを続けながら、将来は高校の体育の先生になりたいなと思っていました。鹿児島の大学がサッカーを強化するということだったので受験の準備をしていたのですが、願書の提出期限を間違えていて。一年浪人することを決めました。おっちょこちょいですね(笑)。予備校に通って、朝から深夜まで睡眠時間も削って根詰めて勉強しましたが、いい経験でした。受験の二次試験で体育実技があったので、勉強の合間に夜中にランニングをしたり、腹筋、背筋はしていましたが、グラウンドでサッカーボールを蹴ることは一切なし。この浪人生活で再びサッカーから離れて、サッカーがやりたい気持ちがまたさらに強くなりました。
自信を掴むきっかけ。自分もやればできる
晴れて筑波大学に入学したのですが、サッカー部は120人も部員がいるようなチーム。一期上には井原正巳さん、中山雅史さん、そして現在U-19日本代表監督の影山雅永さんとそうそうたるメンバーがいましたので、僕のような選手は当然Cチームでのスタートでした。走るのが好きで得意だったので、一人で走ったり、「もっと上手くなりたいな」とキックボードで自主練習する時間もありましたね。そうして4年生で初めて試合に出るようになりました。大学時代の戦績は4年間で1得点1アシストだったのですが、この1得点1アシストをしたのが総理大臣杯1回戦の仙台大学戦で、ちょうどサンフレッチェ広島の今西和男強化部長とスカウトの方が見に来ていました。その後、第一志望の熊本県の教員採用試験に不合格になってしまい、このご縁があって広島に入りました。選手引退後は、イングランドにコーチ留学をするつもりだったのですが、広島ユースで指導を始めるきっかけを作ってくれたのも今西さんです。広島ユースは土地柄、そこまでトップレベルの選手が集まれるわけではないなかで、選手を預かってサッカーだけではなく人間性を磨いて、一流の選手に育てて戦うというのがベース。今西さんには、サッカー人である前に、一人前の人間であれ、と根本から教えていただきました。
選手時代を振り返って、自分自身が変わるきっかけの一つはサンフレッチェ広島でのバクスター監督との出会いですね。個人戦術やベースを知らないまま我流でやってきて、25歳になって初めて細かいポジショニングなどを学びました。試合に出るようになり、1994年には日本代表にも呼んでいただいた。これは本当の話、コーチから代表に選出されたと聞いて、「何の代表ですか」と聞き返したくらい、全く考えたことのない話でした。ただ日本代表のトレーニングに入ってみると、自分が思っていたほどの違いを感じなかった。自分もやればできるんじゃないかと思い、それから先は、海外の著名な選手と対峙しても緊張せずに戦うことができました。自信を掴むきっかけというのは非常に大事だなと、いま若い選手と接していても感じます。「イングランド相手だろうがスペインだろうが普通に互角にやれるぞ」と選手たちによく言っていますが、僕自身も日本代表に入って、やればできると気付いたのはキャリアのなかで大きかったです。
持っているものをすべてお借りしたい
影響を与えてくれた方をもう一人挙げるとしたら、ペトロヴィッチ監督(元サンフレッチェ広島監督、現北海道コンサドーレ札幌)です。広島ユースの監督としてトップのキャンプや練習に入れてもらって、非常に影響を受けました。サッカーの知識、情熱、そしてなにより選手に対する愛情が溢れていて、相手を尊重したうえで喜怒哀楽すべてをぶつける。怒るときは顔を真っ赤にして怒鳴るけれど、頑張った選手を抱きしめてチョコレートをそっと渡したり、笑顔で「家族はどうだー」と声をかけたり。チームが強くなるため、選手が成長するために、エネルギーすべてを注ぐマインドは素晴らしいなと思います。
監督を務めるようになり、これまで多くのコーチと一緒にやってきました。僕が常に思っているのは、「持っているものをすべてお借りする」ということ。自分が経験できなかったこと、自分が持っていないものを持った人たちと仕事をさせてもらっていますので、その良さをすべて出してもらいたい。もう、「監督ダメだけど、コーチングスタッフすごいよね」と言われるくらいでも、選手が成長していけばいいと思っているので、チームに関わる人の思っていることを聞きたい、学びたい、引き出したいと思っています。
爆発できるよう、今からエネルギーを蓄えて
世界の情勢を見ていて、命の尊さ、家族や大事な仲間の健康や安全こそが大事で、それがあることが前提でサッカーが出来ると身に染みて感じています。普段なんとなくサッカーができているけれど、そこには準備してくれる人、運営・企画をしてくれる人、あるいは場合によっては後片付けをしてくれる同級生がいて成り立っていることもある。サッカーが出来ることは当たり前ではなくて、すごくありがたいことです。再開のときが来たら、感謝の気持ち、プレーできる喜びを持ってプレーしなくてはいけない。そういう時を一緒に迎えたいですね。
ただ、いま何もできないかというと、そうではない。僕は映像を見直したり、海外サッカーの分析や新しい情報をインターネットでいろいろと探したりしています。海外の指導者とコミュニケーションをこれまで以上に図りたいので、新しいチャレンジとして英語の勉強も毎日やっています。社会では色々な工夫をして、逆境をチャンスに変えようとしている方々がいる。一人でできることもたくさんありますし、仲間とアイデアを出し合ったり、普段できなかったことをやってみることもいいかなと思っています。決して悲観することなくポジティブに。このときを、自分の成長やチームへの貢献につなげられるように、そして再開したときに爆発できるように、エネルギーを蓄えておいてほしいと思います。
次回は最終回、森山佳郎監督と同じく選手、指導者時代をサンフレッチェ広島で過ごした森保一監督(SAMURAI BLUE/U-23日本代表)です。
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