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なでしこジャパンの笑顔と仲間 ~いつも心にリスペクト Vol.125~
2023年10月24日
オーストラリアとニュージーランドを舞台に約1カ月間にわたって行われたFIFA女子ワールドカップはスペインの優勝で幕を閉じました。
ラウンド16までの素晴らしい試合内容を受けて、なでしこジャパン(日本女子代表)は世界から一躍「優勝候補」とまで評価されましたが、残念ながら準々決勝で敗れ、2011年に続く快挙はなりませんでした。しかし試合や状況によって戦術を見事に使い分けたこと、それがスペインやノルウェーといった強豪を相手に見事に功を奏したこと、登録された全フィールドプレーヤーが出場機会を得てチーム一丸の戦いを貫いたことなど、本当に素晴らしい戦いだったと思います。
しかし何より私がうれしかったのは、世界の女子サッカーが急激に進化し、変化する中で、それに十分対抗するハイレベルなサッカーをプレーしつつ、なでしこジャパンがその最大の美質を失わなかったことでした。それは、ひたむきさ、チームが心をひとつにして戦う姿です。
いま、世界の女子サッカーは欧州を軸に大きく変化しようとしています。男子サッカーの世界で欧州だけでなく世界をリードする主要国のビッグクラブがファン層を広げるために真剣に女子の強化に取り組み、プレー環境を改善するだけでなく、男子と同じ最先端のサッカー戦術を女子チームにも持ち込んでいるからです。
しかし、残念なことですが、それは同時に男子サッカーの愚かさまで女子サッカーに持ち込むことになりました。イングランドの若手スターFWが、倒れた相手選手を意図的に踏みつけ、退場になった事件は衝撃的でした。男子のサッカーではときおり見かけますが、これまで女子ではどんなレベルでも見たことのない愚行でした。
ゴール後のパフォーマンスも男子顔負けの「膝スライディング」や「飛行機ポーズ」「観客へのアピール」などが普通に行われていました。しかし、なでしこジャパンはまったく対照的でした。
今大会の5試合でなでしこジャパンは15ゴールを記録しました。宮澤ひなた選手が5点で大会得点王になったのは大きな話題となりましたが、オウンゴールによる1点を除く全得点に共通点がありました。「笑顔と仲間」です。
ゴールを決めると、なでしこジャパンの選手は必ず満面の笑顔となって仲間を振り返りました。得点の喜びを仲間と分かち合いたいという気持ちは、サッカーという競技の中で最も大切なことのひとつです。
中でも特に印象的だったのは、スペインとの試合で3点目を取った宮澤選手の笑顔です。自陣から60メートル以上を疾走してゴールを決め、その勢いで倒れ込んだ彼女は、すぐには起き上がれませんでしたが、うつぶせの状態のまま顔を上げると、仲間に満面の笑顔を見せたのです。
最後がどんな個人技で締めくくられようと、サッカーのゴールは「チーム」のものです。ところが現代のサッカーでは得点者が「自分のゴール」とアピールするような安っぽいヒロイズムが正当化され、さまざまなパフォーマンスが横行しています。それが女子にまで広がり始めていることは、今大会の残念な点のひとつでした。
なでしこジャパンの「笑顔と仲間」は、サッカーのゴールがチーム全員の努力の結晶であることをとても素直に表現していました。それは世界を感動させた2011年の優勝時とまったく変わらない光景でした。サッカーの面で大きく進化しても、心はまったく変わらない――。なでしこジャパンを本当に誇らしく思います。
あまり話題にはなりませんでしたが、大会の「フェアプレー賞」はもちろんなでしこジャパンでした。5試合を通じてイエローカードは1枚だけ。レッドカードはもちろんゼロです。なでしこジャパンがこの大会のフェアプレー賞を獲得したのは、優勝した2011年大会に続いて2回目のことです。
なでしこらしい心を失わず、見事なサッカーも両立させたのが、今回のなでしこジャパンでした。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2023年9月号より転載しています。
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