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サッカーができる日々に感謝 ~森保一監督手記「一心一意、一心一向 - MORIYASU Hajime MEMO -」vol.06~
2019年12月27日
戦争や平和について考える機会
東京オリンピックに向かうチームの活動は、これまで主に海外で行ってきましたが、国内での初戦を11月17日に広島で行いました。また12月28日には、長崎の地にてキリンチャレンジカップでU-22ジャマイカ代表と対戦します。
広島と長崎は、世界でふたつしかない被爆地。オリンピックは平和の祭典としても捉えられているだけに、被爆地であり、平和都市である広島と長崎の地で試合ができることに、大きな意義を感じています。
この2試合は、日本サッカー協会としても「BLUE PEACE DAYS」と銘打ってプロジェクトを展開しています。オリンピックがスポーツの世界大会というだけでなく、平和の祭典という意義を持っているだけに、この機会を通じて平和について考えることにつながればと思います。
また、長崎と広島は自分にとって縁のある土地でもあります。長崎は生まれ育った町で、広島は人生で一番多くの時間を過ごした町。自分にとってつながりの深いふたつの都市で試合ができることには、ありがたい気持ちでいっぱいです。それだけに11月に広島で試合をしたときには、スタジアムに向かうバスの道中や、ロッカールームに入ったときには懐かしさも覚えました。
自分自身は戦争を体験していないだけに、平和について語っていいものかと思うところもありますが、学生時代を長崎で、選手時代の多くを広島で過ごしただけに、戦争や平和について触れ、考えさせられる機会は自然とありました。
長崎では8月9日は登校日だった
昔話をさせてもらえれば、長崎では原爆が投下された8月9日は登校日でした。その時期は夏休みでしたが、8月9日は学校に行き、原爆が投下された11時2分にはみんなで黙祷をし、犠牲者にご冥福を捧げる習慣がありました。それと同時に、戦争がいかに恐ろしいものか、原爆によって町にどれだけ大きな被害があったのか、また復興するのにどれだけの月日と努力を重ねてきたのかを子どもながらに知りました。
全国的にもテレビやラジオをはじめとするメディアでニュースとして取り上げられますが、被爆地である長崎ではより大きく報道されることもあり、家族とも戦争について、平和について話をする機会は多かったように思います。
そうした環境で育ったこともあり、広島で生活するようになってからは、広島に原爆が投下された8月6日の8時15分にも黙祷するようになりました。その時間は練習場に向かう車中のことが多かったので、いつも練習場に着き、クラブハウスで黙祷していました。それは選手時代だけでなく、コーチ、監督になってから、そして今も続けています。
自分が好きなことをできる幸せ
サンフレッチェ広島の監督時代には、試合前日に宿泊していたホテルが、平和記念公園の近くにあったことから、周辺を散歩する習慣がありました。近くを流れる元安川を眺めながら歩き、慰霊碑が見えるところまで行く。その途中、途中にもさまざまな慰霊碑が設置されていることもあり、それを目にするたびにいつも心が引き締まりました。
そして、同時にこうも思っていました。
「今、自分が好きな仕事ができているのは幸せなことなんだな」と……。
当時は、多くの人が戦争に駆り出され、犠牲になったと聞きます。また、罪のない多くの方たちの命も奪われました。そうした惨状を考えると悲しさもこみ上げてきますし、同時に何不自由のない生活を送れている自分がいかに幸せかということをつくづく考えさせられます。
さらに今の長崎や広島の町を見ると、日本人の力も感じます。僕自身も写真や映像でしか知ることはできませんでしたが、原爆が投下され、辺り一面は焼け野原になりました。まさに何もなくなってしまった状況から、今は町が綺麗によみがえっている。元安川周辺を歩くたびに、町を復興させた日本人の力強さを感じました。それと同時に、以前の町が壊されないことが一番良かっただけに、町が破壊されていなければ、この景色は違っていたのだろうかとも考えました。
11月に広島で試合をした際には、自分自身はFIFAワールドカップ予選もあったことから同席することはかないませんでしたが、選手たちが慰霊碑に献花し、語り部さんから当時の話を聞く貴重な機会が設けられました。選手たちは真剣な表情で、その話を聞いていたというので、それぞれに思うところ、感じることもあったのではないかと思っています。
終戦から74年――。二度と繰り返さないために。そして今、自分たちが好きなことをできている日々に改めて感謝したい。
広島と長崎で行われる試合は、東京オリンピックに向けた強化として大事な試合ではありますが、選手たちはもちろん、そして試合を運営するスタッフ、また観戦するみなさんにとっても、平和だからこうしてサッカーをすることができる、見ることができるということを噛みしめ、考えてもらえる意義深い機会になるのではないかと感じています。
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