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自分に厳しく ~いつも心にリスペクト Vol.128~
2024年01月23日
「決してコンディションのせいではない。私たちはミスを重ね、組織力を失って、本当に弱いチームになってしまった」
U-22アルゼンチン代表のハビエル・マスチェラーノ監督の言葉に、私はとても驚きました。
11月18日、静岡市のIAIスタジアム日本平で行われたU-22同士の国際親善試合。結果は5-2でU-22日本代表の「大勝」でした。しかしアルゼンチンの5失点のうち4点は後半21分から43分にかけてのもので、明らかに「地球の裏側」から遠征してきたチームのコンディションの問題が出たものでした。しかし彼はそれを真っ向から否定し、「自分たちの弱さの問題」と言い切ったのです。
フルネームはハビエル・アレハンドロ・マスチェラーノ。1984年6月8日生まれの39歳。現役時代のポジションはボランチあるいはセンターバック。
ワールドカップ優勝3回を誇る世界のサッカー大国のひとつアルゼンチンは、当然、世界的な選手をたくさん生み出してきました。その代表が、故ディエゴ・マラドーナであり、現在世界最高の選手と言われるリオネル・メッシであることに異論はないでしょう。しかし11人対11人で戦うサッカーという競技において、どんな監督でもマラドーナやメッシにも劣らないくらい自分のチームにいてほしいと思うのが、このマスチェラーノではないでしょうか。
18歳でプロにデビュー、早くから注目され、22歳のときにイングランドに渡り、主にリバプールFCで活躍、26歳でスペインのFCバルセロナに移籍します。そこでFIFAクラブワールドカップ2回、UEFAチャンピオンズリーグ2回、そしてスペインリーグ5回など、数々のタイトル獲得に貢献、不可欠の存在となりました。
19歳になったばかりで選ばれたアルゼンチン代表でも、16年間にわたって大黒柱として活躍。ワールドカップに4回出場し、2014年ブラジル大会では準優勝に貢献、オリンピックでは、2004年アテネ大会、そして08年北京大会で連覇。代表出場通算147回は、アルゼンチンのサッカー史上2位の記録です。
しかしいくら彼の「業績」を書き連ねても、マスチェラーノの選手としての「すごさ」を表現することはできません。監督たちに不可欠と思わせたのは、どんな試合でも百パーセントの力を出し切り、チームの勝利のために最後の最後まで戦い抜く姿勢だったのではないでしょうか。強いリーダーシップを持ち、自らのプレーでチームを勇気づけ、けん引していくことのできる選手。170センチと現代のサッカーにあっては「小柄」な部類でしたが、彼ほど頼りになる選手はいませんでした。
そして私は、監督として戦ったU-22日本代表戦後の言葉に、彼がサッカー史でも希有な存在になった理由を見た思いがしたのです。
サッカーはとてもシンプルな競技ですが、同時にとても複雑な要素がからみ合って結果をつくり出していくスポーツです。その大きな要素が肉体的な「コンディション」であることは、現代サッカーの常識です。この試合後にマスチェラーノ監督が「後半20分を過ぎてコンディションの差が出てしまった」と話しても、誰も「言い訳」とは受け取らなかったでしょう。アルゼンチン選手たちの動きは、それまでの65分間とは明らかに違っていたからです。
しかしマスチェラーノ監督は、全てを自分たちのチーム自身の問題と言い切ったのです。「後半なかばで足が止まったのは長時間の移動が理由ではないか」と水を向けても、やるべきことをしなかったから大敗を喫したのだと、沈鬱な表情を崩さずに語ったのです。
人生の全てにおいて、他人や環境のせいにせず、自らの責任とする――。それこそ、マスチェラーノという人の本質に違いありません。だからこそ、厳しい勝負の世界で長期間にわたって周囲から尊敬を集める存在であり続けたのです。「自分を甘やかさず、自らに厳しく」――。それも、サッカーという競技への「リスペクト」の姿勢のひとつのような気がするのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2023年12月号より転載しています。
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