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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第18回 武田千秋 ネパールサッカー協会技術委員長
2016年07月13日
アジアの各国で活躍する指導者達の声を伝える「アジアのピッチから」。第18回は、ネパールサッカー協会(ANFA)で技術委員長を務める武田千秋氏のレポートです。
ネパールでの生活
私の拠点であるカトマンズは盆地で周りを3000m級の山々に囲まれています。こちらで言う「山」は7000m以上を指し、それ以下は「丘」の扱いで名前すらありません。飛行機からはヒマラヤが窓の真横に見え、改めて山の高さを感じます。
街にはいたるところに昨年の大震災の爪痕が残っています。世界遺産のダルバール広場にあるレンガと粘土で作られた建物は崩壊したままで、サッカーのスタジアムも使用できる状態ではありません。
ネパールは慢性的なエネルギー不足で日中9時間は停電しています。カトマンズの市内に唯一ある信号も点いている所を見たことがありません。鉄道は無く主要な公共交通機関はバスです。家族の足となるオートバイは4人が1台に乗って移動する光景が日常です。日中はいつもひどい交通渋滞で歩行者はどこでも構わず道路を横断します。そんな中、街中をのんびりと散歩して道路を横切り座り込んでいる野良牛を初めて見た時は衝撃でした。ネパールでは牛は神様の使いであり、牛肉を食べる習慣もないのです。
ネパールサッカーの特徴
一番のストロングポイントは、ANFAの指導体制が整っていること。更に素晴らしいのは、ネパールの指導者の情熱と選手のディシプリンです。目標を設定しその達成方法を正しく実行出来れば短期間での強化も可能です。ネパールでは各年代別の国内大会が全国規模で行われており、これは南アジアでは珍しいことです。ANFAの普及プロジェクトによって技術面での練習を大切にするベースもできています。一方、課題はコーチ数の少なさ、そしてコーチ自身が個人・グループ・チームの各戦術を理解していないため、選手に正しく指導出来ないことです。今年の5月に行われたAFCの講習会で初めて誕生した8名のA級コーチ、彼らが現在ネパール国内トップのコーチ陣です。コーチの質を向上させ、戦術指導ができるコーチの数を増やすことが私の使命であり、ネパールのサッカー発展にも直結します。
良い指導者を育成するために
今月から定期的にネパール各地で指導者の指導力向上のための講習会を開催していく予定です。第1回目は、ネパール国内の主要なチームの指導者とANFAのコーチを集めて7月末に2日間講習を行います。ネパールが海外で更に戦えるようになるために、戦術の基本的事項の理解と、その指導方法を理論と実技を交えてコーチに伝えていければと思っています。講習会で使用する資料はJFAのC級講習会のテキストとDVDをベースに作成し、ネパールの指導者用に翻訳しています。ネパールサッカーの現状分析と戦術理論指導、コーチング法の講義、そして戦術指導を実際にどのように行うか実技を行います。
また、こうした講習会や、指導者育成、代表チーム強化を企画運営していく「技術部」がANFA に存在していなかったため、今年中の始動を目標にその組織づくりも進めています。
表れ始めた変化
まずは、コーチに戦術の指導方法を教えるため、ネパールのコーチに選手になってもらい、私が実際にテーマを決めてコーチングデモンストレーションをおこないました。代表経験があるコーチ達でもこうした形で戦術指導を受けたことがなかったようで私の指導方法に関心を示してくれました。その後JFAの指導教本の内容や、DVDを見てもらうようにしたところ、そのDVDを参考に戦術指導を行うコーチが表れ始めました。私に指導方法を聞いてくるコーチも増えています。少しずつですがコーチの指導方法に明らかな変化が見えています。
例えば、戦術指導の基礎である「ボールをコントロールする前に周りの状況を観ること」、「攻守の切り替えの早さ」。選手はもちろんコーチもこの重要性を理解していませんでした。U-14担当のネパールのコーチングスタッフと選手にこれらを要求し続けたところ、最近かなり改善がみられるようになりました。
同じく日本から派遣されネパール代表監督を務める行德浩二さんも同様の問題を抱えており、代表選手に基本戦術を徹底的に指導しています。私は、他のコーチ陣に行徳さんの練習の組み方をよく観察するよう促しており、その結果行徳さんの練習を参考にした練習を取り入れる風景が見られるようになりました。
組織的な強化のために
前述したANFA内の「技術部」創設によって、代表チーム強化、選手育成、指導者養成が組織的にできるようになります。各活動がうまく連携して機能するよう、予算や人事等の組織をANFAと協議しながら構築していきます。
JFA公認海外派遣指導者
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