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[女子チームのつくりかた]江東区第四砂町中学校女子サッカー部 チーム立ち上げに携わった江東区教育委員会事務局の小林秀樹さんに聞きました!
2009年10月08日
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
以前、個人的に女子小学生の区の大会を見ることがあったんです。15校の学校対抗だったんですが、即席でも結構集まっていました。その時、プレーしている人もしていない人も泣いたり笑ったりしながら、ゲームを盛り上げている姿を見て、潜在的な女子プレーヤーはたくさんいると感じました。でも調べてみると、中学校でプレーしたくても私立校やクラブチームといった限られたところでしかプレーする場がない。といっても1校では人数が集まらない。そこで、一つの中学校を拠点とし、周辺エリアの中学校から希望者を集めて活動する拠点校システムにすればいいんじゃないかと思った訳です。
江東区は以前から様々なスポーツに目を向けて、中学生の部活動の選択肢を広げる活動を行ってきました。女子サッカー部の他にカヌーやウォールクライミングといった競技も活動しています。そしてさらにヒントとなったのが、「放課後学習教室」での経験でした。これは、2008年度から小中学生の学習習慣の定着と学力向上を図るために、学校に学生サポーターを派遣して、放課後や土曜、夏休みに学習教室を開いて学生サポーターが直接指導するといった取り組みです。学生にとっては教育実習までに実際の現場に触れることができますし、互いにメリットがあり、手ごたえを掴んでいました。これらのシステムを組み合わせれば、きっと動き出せると思いました。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
前々から考えとしてはあったのですが、本格的に始動したのは2008年の夏ごろからです。私たちは役所ですから、まず予算組みから入りました。そして次が指導者探しです。日本体育大学女子サッカー部にお話をさせていただいたところ、指導者を志す学生さんもいるということでOKをいただきました。学生さんの「教えたい」という気持ちが強かったのと、彼女たちもサッカーのトレーニングのために遠いところに通う大変さを知っているので、みんな力を貸したいと思ってくれたようでした。
そして次が拠点校探しです。拠点校となった第四砂町中学校にはサッカーに適したグランドがあり、立地条件もよかったので話をさせていただきました。最初は学校サイドとしても、他の学校の生徒を預かるということに躊躇されました。そこは教育委員会としてもサポートすることを約束し、現在もトレーニングには必ず、職員が同行するようにしています。募集をかけたのは2009年4月20日~28日まで。他の部活動より少しスターとが遅れましたが、蓋を開けてみれば9校37名の希望者が集まりました。
これまでに生じた最大の壁はどんなことでしたか?
企画面では非常に順調にきたと思います。それでもやはりいろんな面での根回しは必要でした。心がけていたのは、足を運んで直接お話をして理解してもらうということ。そして、ケガをしたときや、問題が生じたときにスムーズに事が運ぶようにチームが始動してからのケアもしっかりとやらなければいけないと思っています。
独自のアイデアというものはありますか?
トレーニングに関して、指導は日体大女子サッカー部のみなさんに一貫してお願いしているということです。現在は、教職を目指す4人の学生が中心になって動いてくれています。教育実習などで参加は不定期なんですが、野村一路部長も必ず来てくれますし、バランスよく参加していただいていますね。
日体大の学生はサッカーだけに限らず、何らかの形で指導方面に進む方が多いと聞いています。教えるとうことは必然的に必要。早い時期から指導に携わっていくのは学生にとっても貴重な経験になります。今なら、仲間の力も借りることができますし、卒業後も円滑に仕事に入っていけると思うんです。今回の学生はここでの活動が認められて、学内推薦を取ることができた学生もいます。JFAの協力を得て、定期的にコーチも巡回してくれますし、選手たちもコーチに来てくれる学生たちにもメリットがあると思います。
チームが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
複数の中学校が集まっていますので、すべてを共有することはできません。学校ごとにテスト休みの日程が違うとなれば、トレーニング日に参加できる人数が変動的になってしまう。こればっかりはそれぞれの中学校の取り決めですので、なかなか調整は難しいですね。人数が少なくなってくると、今度は心が折れて続けられなくなってくることもある。そんな時は一人でも仲間がいれば助け合えます。そういう時の女性の強さというのは目を見張るものがありますし、そういった雰囲気を作っていければと思っています。
これからチームが目指すビジョンとは?
まずはこの活動を継続させていくということですね。自校の部活動と兼部している人もいますし、相当な覚悟を持って一人で参加している人もいます。そんな頑張っている人を泣かすようなことはできませんから。そのためにも最初に無理がある状況を作ってしまってはいけない。日体大との協力関係をより強いものにして、安定したシステムにしていきたいですね。
そしてチームとしては東京都女子サッカーリーグ中学リーグに入り、大会にも出場することが目標です。リーグに入れば、多く試合をすることができます。せっかくトレーニングするのですから試合の感覚を知ってほしい。公式戦ともなると意識も違ってくるでしょうし、他のチームと触れることで、自分たち以外にもがんばっている人がいるということを知ることで刺激にもなるでしょう。力が及ばなくて負ける悔しさも知ってもらいたい。選手にとってもいいモチベーションになると思います。強くなるだけが全てではなく、私は、やればやるだけ報われるというのが女子サッカーの魅力の一つだとも思うんです。
何年もかかるかもしれませんが、現在小学校でがんばっている選手たちが、中学に入ってもサッカーをやろう!って思ってくれるようなチームになってくれればと願っています。
チームトレーニングレポート
江東区立第四砂町中学校のトレーニングに一日密着しました。水曜日と日曜日がトレーニング日の第四砂町中学校。この日はあいにくの雨ということで、初めての体育館でのトレーニングとなりました。16時から始まったトレーニングは主にボールと触れ合うことを中心にしたプログラム。ドリブルでランダムに周りながら、コーチの合図でグループを作ったり、自分のボールを維持しながら相手のボールを蹴りだしたり・・・。
「『できた!』と思える瞬間が必ずくるように、そういった要素を意図的にメニューには入れるようにしています」こう語るのはトレーニングを統括する日本体育大学女子サッカー部の野村一路部長。もともと、体育大学である自分たちが率先して行動を起こさなくて誰が起こす!という思いで、女子サッカー部でジュニアやジュニアユースのスクールをやろう思っていたそう。ところが、日体大のグランドは男女で5チームあるサッカー部のトレーニングでいつも埋まってしまっていました。では、場所のあるところまで行ってスクールを行うことはできないかと模索していたところ、江東区教育委員会から声がかかったのです。「願ってもないことで、二つ返事でお引き受けしました」(野村部長)。
この日はJFAの犬飼会長が視察に訪れており、「サッカーは楽しくやるのが一番!苦しいだけなら止めちゃえばいい。でもきっとそのうちもっと楽しくなって、苦しいトレーニングでも頑張って上手くなりたいと思うようになる。それがサッカーのいいところです」と激励された選手たち。体育館に戻った後は、日体大の学生コーチの指導を受けながら、一緒に4-4のミニゲームをやり、トレーニングを締めくりました。
中学3年生の鈴木愛沙さんはバレー部との兼部です。すでに夏で引退をしているので現在は専念していますが、最初はちょっと大変だったといいます。「16時からのトレーニングに間に合うように来るのがちょっと時間的に厳しかった。その時は水曜だけバレー部を休ませてもらっていたのですが、キャプテンをやっていたので、そのやりくりが大変でした。小学校でサッカーをやっていて、中学ではフットサルのチームに入れてもらっていました。このチームができると聞いて絶対入りたいと思いました。いろんな人がいて、まとまるか不安だったけど、とっても楽しいです!高校生になっても何かの形でサッカーを続けていきたいと思ってます」(鈴木さん)。
そんな成長した選手の姿を見て喜んでいるのが、指導にあたっている日体大の学生コーチのみなさんです。「何が大変だったかって・・・全部ですね(笑)」、「指導経験がほとんどないので、何をどうしたらいいのかがわからかった。野村部長や他の方の意見を聞いたり、トレーニングを見たりして次はこうやろうとか、毎回考えさせられます」と手探りの状況ではありますが、それぞれの学生コーチも少しずつ成長してきました。「あまり試合はできないけど、点を入れて喜んでいる姿を見たり、卒業してもサッカーを続けたいと言ってくれるのは嬉しいですね。そしてゆくゆくは日体大に入って、そこからなでしこジャパンへ・・・っていうのが理想です(笑)」と学生コーチたちの夢も膨らんでいました。経験者もいれば、初心者もいます。そんなチームをまとめる野村部長は言います。「誰もが最初は初心者です。その子たちをきちんと指導できて初めて指導者として一人前になる。安にスピードを求めるのではなく、正しい運動を覚えさせる。それができて、次に回数や速さです。焦ってはダメ。どのスポーツも同じでスポーツ指導の鉄則です」。シンプルですが、つい忘れがちになってしまうこの鉄則。中学校の部活動という中では特にサッカーが上手くなるためのメニューではなく、人間としての成長を促さなければなりません。そこが部活動のいいところ。「もっと上手くなってみたい!」そんな選手たちの心の声が響いているようなトレーニングの時間でした。