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[女子チームのつくりかた]京都文教大学 U-15女子サッカースクール(京都府宇治市)サッカークラブの監督であり、U-15女子サッカースクールをまとめる牛浜真さんに話を聞きました。
2010年12月07日
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
京都も他の地域と同じで、女子が小学校でサッカーができても中学校でサッカーを続ける環境が整っているとは言えません。受け皿が少ないという状況がここにもあります。
京都文教大学女子サッカークラブは3年前から、初心者のための女子サッカー教室、ママさんサッカー教室やスポーツフェスタなどの地域貢献活動を行っています。初心者のための女子サッカー教室の第1回目は元日本女子代表の大部由美さんに、第2回目はなでしこジャパンの佐々木則夫監督に来ていただきました。本当に多くの子供たちが集まり、楽しい時間を過ごすことができました。
こうした活動を続けていたところ、昨年の4月、京都府の方からスポーツ振興計画の一環として何かできないかという話をいただきました。多くの子供たちがイベントに参加しているのを見ていて何らかのニーズがあるということは感じていましたし、大学の女子サッカークラブとして、地域に貢献していきたという思いなどが立ち上げの背景にあります。
現在はまだスクール活動という形ですので、チームではありませんが、2年以内のU-15チーム創設を視野に入れて、進んでいる最中です。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
スクールの母体は、昨年11月から月に一度のペースで実施していた「宇治ガールズサッカースクール」です。その活動を発展させる形で立ち上げることを計画しました。学内での調整や地域クラブへのお願い、京都府教育委員会や宇治市教育委員会への後援依頼、選手募集などを経て、今年の10月6日から週に一度のペースで正式にスクールをスタートさせることができました。
こうして振り返ると、ここまで携わっていただいた方、誰一人欠けても、この活動はスタートすることができなかったとつくづく思います。
これまでに生じた最大の壁はどんなことでしたか?
様々な調整は必要でしたが、壁というものは感じていません。もちろん全ての事がスムーズにいったわけではありませんが、あえて“壁”をつくらない感覚も必要だと考えています。ただ私たちのクラブは、大学の自治会組織の中に位置づけられていますので、機会をみて活動の趣旨説明を行うようにしてきました。
独自のアイデアというものはありますか?
運営・指導においては学生に積極的にかかわってもらっています。これまでのスクール指導などを通じて私の考え方を学生はわかってくれていますので、それらを軸にしながら、いろいろとアイデアを出してプランを作っています。できるだけ学生が主体的に運営・指導できるよう、私はサポート役に徹しています。中心になっている学生には、卒業後の進路にスポーツの指導者を希望している者もいます。ただ私は学生に対して、このスクールを単に指導者になるためのステップとしてではなく、人や組織にかかわる楽しさ・難しさを体験できる場と考えてほしいと伝えています。
スクールが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
スクールには学年や所属チームの異なる選手が参加しています。同じチームで日々トレーニングで顔を合わせている仲間との人間関係しか知らない選手たちですから、なかなか打ち解けられないのは仕方がありません。そういった選手同士のコミュニケーションをどうとらせていくかはとても重要です。現在学生スタッフと話をしながら解決策を考え中ですが、最近は少しずつ選手間のコミュニケーションも学生を通して深くなりつつあるようには感じています。
これからチームが目指すビジョンとは?
サッカーをもっともっと好きになって、どんな形でも続けてもらうようにすることが、一つの目標です。またこのスクールの発展形として、2年以内を目標に、U-15チームを立ち上げたいと思っています。
スクールでの心がけとしては、「あいさつをしっかりしよう! 自分で考えて行動しよう! 人と人とのつながりを大切に!」ということを選手に伝えていきたいですね。これが本当に実践できるようになるにはどうしたらいいか、考えているところです。
京都府文化環境部スポーツ生涯学習室の柏木佳久さんに、活動支援に至った経緯(いきさつ)を聞きました。
ずいぶん前の話になりますが、文部科学省が2000年にスポーツ振興基本計画を発表しました(2006年に改定)。京都府教育委員会はこれを受けて2004年に京都府スポーツ振興計画を策定し(2009年改定)、府と府教育委員会は2005年に生涯スポーツ社会実現プランを策定しました。目標としては成人の週1回以上のスポーツ実施率を50%以上にすること、50の総合型地域スポーツクラブを作ることを掲げています。
京都は歴史的建造物が多く点在している土地柄、新たにスポーツ施設を作ることは難しいんです。そこで思いついたのが大学の施設でした。京都には多くの大学があり、それらは京都が誇る文化でもあります。また、グラウンドや体育館などを含め、利用できる施設があるということ、指導者やその予備軍ともいえる学生の存在も魅力の一つでした。
何かコラボレーションができるのではないかと、大学を回っていたんです。実は、京都文教大学との出会いは飛び込みの営業活動だったんです(笑)。女子サッカー部があることは知っていましたが、牛浜さんとの出会いは本当に偶然でした。もちろん、私たちが目指すのは“総合型”ですから、そこには多種目・多世代・多志向の3つを満たすのが条件なのですが、まず第一歩としてサッカーから始めてみようということになったんです。まだまだ手探りの状況ですが、選手たち同様、この活動も少しずつ成長させていけるように努力していきたいと思っています。
このスクールの母体となった宇治ガールズサッカースクールの発起人である山名博和さんに、当時の話を聞きました。
数年前にサッカースクールを宇治で開催することになったんです。そこで人を集めることになったんですが、多くの希望者があり、スクールではなく小学6年生を対象にした大会を行ったんです。翌年ももう一度こういったイベントをやりたいということで、何ができるかいろいろ考えていたときに浮上してきたのが、各チームでプレーしていた女子選手の存在でした。
現在、宇治市だけでもU-12の少年チームは13チームあります。その中に女子選手の姿を見つけるのは決して難しくありません。ですが、やはり徐々にコンタクトプレーでは男子にはついていけなくなる。女子選手だけを集めれば、もっとのびのびとプレーできるんじゃないかと思ったんです。
京都文教大学女子サッカークラブの学生たちにはこれまでにも何度かお手伝いをしてもらっていましたし、彼女たちが指導してくれたら、女の子同士いろいろと発展性があるのではないかと、昨年の夏あたりに牛浜さんに協力をお願いしました。とんとん拍子に話が進んで、さらに京都府からの支援なども加わり、現在の活動に至っています。不思議なものですね(笑)。選手はもちろん学生たちの楽しそうな姿を見ると、やはりこの活動は続けていってほしいと思いますね。
チームトレーニングレポート
10月6日に新たなスタートを切った京都文教大学U-15女子サッカースクールの選手たちは、週に一度、京都文教大学のグラウンドでトレーニングを行っています。時間は毎週水曜日、16時30分から18時まで。開始時間が近づくと、トレーニングウェアに身を包んだ選手たちが続々と集まってきます。参加者は小学3年生~6年生までの12名。初めてボールに触るという初心者から日頃は男子と一緒にボールを追いかけているという経験者までさまざまな環境にいる選手たちが集います。「このサッカースクールが水曜日の16時30分からということで、送り迎えできる親御さんの都合がつかない、学校帰りでは間に合わない、他の習い事と重なるなどの理由で、参加できない選手もまだまだいます。そういう選手たちをカバーするために、スタートの時間を遅らせる、土日など他の曜日の実施なども検討しています。」と牛浜コーチ。
参加する選手たちと同じく、グラウンドに次々と姿を現すのは京都文教大学女子サッカークラブの学生スタッフです。このスクールの特長はなんといっても、この学生スタッフ! 集まってくる選手を名前で呼びかけながら、「今日は早いね」、「リフティングどれくらいできるようになった?」といった具合にコミュニケーションを取っていきます。トレーニングメニューは指導責任者である牛浜真コーチとともに、多くを学生スタッフが考案しているそうです。
中でも、中心的な役割を果たしているのが文化人類学科4年生の松本侑貴奈さん。卒業後、スポーツ指導の職場を希望している松本さんにとって、このスクールでの指導経験はとても大きいものだといいます。「最初は話しかけてもノーリアクションでした(苦笑)。お互い知らない者同士ですから、仕方ないとわかっていても落ち込むというか・・・」(松本さん)。どう接したらいいかわからない時もあったそうですが、どうしても選手たちに知ってほしい、持っていてほしいものがあったと松本さんは言います。「私はサッカーを通じて、人とのつながりは本当に大事だと感じるんです。だから、小さい頃からいっしょにサッカーをすることで生まれた絆や強さは、場所が変わってもいろんな所で彼女たちの助けになったり、強さになったりすると思うんですよね。そうあってほしいと思って日々、選手たちと接しています」(松本さん)。さらにメニュー作りも大変なことの一つ。参加年齢も異なるので、選手たちの集中力もバラバラです。同じメニューはすぐに選手たちが飽きてしまいます。トレーニング本を読んだり、自分たちがやってきたことを応用しながら構成しているそうです。
その話の通り、ウォーミングアップは遊び心満載。コーンを使っての鬼ごっこや、コーチの真似をしながらのボールコントロール、リフティングなど、多彩な要素が組み込まれていました。体がほぐれてきたところで、今度はビブスで2グループに分かれます。ランダムに置かれた7つのコーンをディフェンス6人で守ります。オフェンスグループは作戦を練りながら、マークを外して空いているコーンへボールを当てることができれば1点。得点制になると俄然盛り上がりを見せる選手たち。続いてはコーチの球出しから2人の選手がボールを取り合います。ボールが2つのコーンで作ったスペースを通過すると加点されるというルール。学生スタッフは待ち時間なども選手たちが退屈しないように、「今のプレーってどうしたら、相手を抜けると思う?」という風に、問いかけることもあります。
また、一層選手たちのテンションが上がるのが、学生スタッフとの対決。学生スタッフも楽しみつつ、時折つい本気で対峙する場面などもあり、それがまた選手たちの集中を高める効果もあるようです。
あっという間に、スクールの時間は終了。そうすると、選手たちは手にカードのようなものを持って、一列に並び始めました。何をしているのかと見せてもらうと、そのカードは出席表(スタンプカード)。トレーニングが終わるとキャラクターのシールを一枚張ってもらえるのです。なんとこのカードは学生スタッフである小坂啓子さん(短大・幼児教育学科2年生)と彼女の友だちによる手作りだそうです。カードには、自分の目標もしっかりと書かれていました。「リフティングを100回できるようになる!」、「全部の回に来る」、「技を完成させる」など、目標は人それぞれです。選手たちは嬉しそうに、カードを見せてくれました。「今、リフティングの最高記録は1,180回なんです」と教えてくれたのは4年生の村上亜海乃さん。目下、2,000回到達へ向けて日々励んでいます。この日もグランドに一番乗りしたのが村上さんでした。今年からサッカーを始めたばかりの福谷雛乃さんは6年生。「まだできないことばっかりですが、いつかオーバーヘッドシュートを決めてみたい!」ということでした。目標に向かって、また来週のスクールまで、それぞれの環境でトレーニングをすることになります。
牛浜コーチは言います。「この年代でどういう結果を残していくかを考えたとき、その一つの要素として自分で考える、またみんなで考えて、行動し、修正するという習慣をつけなければいけないと考えています。サッカーの練習は決まった時間にグラウンドに行ってコーチの言うとおりにやればいい、という習慣がついてしまったら、中学生や高校生になって突然、“考えてプレーしろ”と言われても、難しいのではないかと・・・。もちろんただ放任するのではなく、しっかり見守ってコミュニケーションをとっていく必要があります。このスクールは何かを完成させるところではなく、これから続いていってほしい彼女たちのサッカー人生の、ほんの、でも大切な時間だと考えて指導・マネジメントを行っています」。
指導者が教えすぎないように、言い過ぎないようにする勇気を持つことは難しいですが、この年代では答えを教えるのではなく、導くプロセスが重要であることを改めて感じた、京都文教大学U-15女子サッカースクールの活動風景でした。