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[女子チームのつくりかた]藤枝順心サッカークラブジュニアユース チームの監督を務める渡邉亜紀さんに聞きました!
2009年10月29日
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
このチームに携わる前は日本サッカー協会の女子インストラクターとして全国を回っていて、U-15年代の女子チームが少ないという現状を目の当たりにしました。また過去に同年代の指導経験もあったので、少しでも受け皿を広げたい、そして地元で選手を育成したいと思っていました。藤枝順心高等学校サッカー部の多々良和之監督は、私のそういう思いを知っていて、学校にかけあってくれたんです。もともと藤枝順心高校の姉妹校である藤枝明誠高校でスポーツクラブとして、サッカーだけでなくバレーボールなどのチーム作りが行われていたこともあり、学校側の理解もあったのだと聞いています。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
2004年の4月に多々良監督と話をして、翌年の春を目標に動き出しました。学校側の理解を得て、次に行ったのはリサーチでした。実際にこの地域に「高いレベルを目指して真剣にサッカーをしたい女子選手」がどのくらいいるのかを調査するために、8月、9月と3回にわたり、学校の施設で数回の少女向けに無料の体験スクールを開いて、保護者にもアンケートを行ったんです。その結果、高いレベルに挑戦したいという少女たちが、思った以上にいることがわかりました。それまで女子だけのサッカースクールというものがなかったので関心が高かったのだと思います。そして10月、藤枝順心サッカースクール(少女)を発足させ、翌年に藤枝順心サッカークラブジュニアユースを創設しました。2008年度からはスクール自体もチーム(藤枝順心サッカークラブジュニア)に移行して活動をしています。
これまでに生じた最大の壁はどんなことでしたか?
やはり選手集めですね。もともと母体となるチームがあった訳でも、情報網があった訳でもなく、本当にゼロからのスタートでした。私も地域の方々や選手のことも知らなかったですし、選手や保護者の方も私を知らない。また、新しい形のチーム作りでもあったので、理解していただくためにいろいろな会場に足を運び、指導者や選手、保護者の方とも話をさせていただきました。
独自のアイデアというものはありますか?
年に数回、カテゴリー間や地元の方々と交流会を行っていますし、自分のサッカーに生かしてくれればと高校やジュニアユースの試合案内をして可能な限り観戦してもらうようにもしています。
また、この年代は特に多感な時期です。私も選手時代、海外遠征を行った際に貴重な経験をしましたので、ぜひ選手たちにもそれを感じて欲しいとアメリカのアイダホ州への海外遠征なども行いました。指導スタッフの知り合いがアメリカの方で活動しており、話し合いを重ねて実現したものです。約1週間、現地クラブチームへのホームステイと練習、試合を行い、選手たちにとっても貴重な経験になりました。選手たちは若さからか怖いもの知らずで、打ち解けるのが大人たちよりも早かったですね(笑)。
あと、選手たちに幅広い選択肢を与えるようにもしています。当クラブに入部を希望する小学6年生の選手やご家族が青春時代の中学・高校の6年間をこのスタイルで貫くという決断ができるケースばかりではありません。中学3年間で考え方が変化していく場合もある。その変化に対応できるように選択肢を持たせてあげたい。指導者としてはどんな形でも、サッカーを続けていくということが一番だと思っています。
チームが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
発足当初は8名でスタートしたんです。少人数のため、単独の活動は難しいものがありました。中学生年代の大会に参加するために、スクール生の小学生の力を借りて試合に臨んだこともありました。それでも同じピッチで藤枝順心高校の練習がありましたから、練習や試合は高校生と一緒に参加させてもらっていました。その一期生の多くが今も藤枝順心高校で活躍しています。
あとは、どのクラブチームもそうだと思いますが、県内16の中学校から選手が集まってきていますので、毎回選手が思うように揃わないという悩みもあります。グラウンドは部活動の時間内での使用になりますので、ジュニアユースの平日の練習時間は17時半~19時になりますが、集まる時間も異なり、帰りも早く施設内を出なければならないので平日は慌しい。それでも学校の協力なしでは今の活動は考えられませんので本当に感謝しています。
これからチームが目指すビジョンとは?
やはりまずは継続していくための努力が必要です。学校と他のカテゴリー、そして地域との連携を取っていかなければなりません。さらにキッズからママさんまで活動できるような組織作りができれば素晴らしいですが、土台を固めてコツコツと積み重ねていきたいですね。
育成面では、創設以降、U-15全国大会出場を大きな目標として取り組んできましたがあと一歩のところで届いていません。決して結果重視とは思っていませんが目標を持ってチーム一丸となってがんばり、よりレベルの高いステージで経験を積むことは選手たちにとってもプラスになると思いますし、チームの活性化にもつながると思っています。また、一人でも多く藤枝順心高校で活躍できるような選手を育成して、上の年代につなげていきたいですね。
同時に地元から女子指導者を育てたいとも考えています。現在、藤枝順心高校の卒業生がジュニアユースやジュニアの指導のサポートにきてくれています。選手の時から指導経験ができるよう、ジュニアユースの選手たちにもジュニア指導のサポートや大会運営などもチーム活動として行っています。彼女たちの中から、将来指導者としてサッカーに携わる選手が出てきてくれると非常に嬉しいです。
チームトレーニングレポート
藤枝順心サッカークラブジュニアユースのトレーニング日は月曜、木曜以外の5日間。17時30分から19時までの1時間30分のトレーニングです。人工芝が敷き詰められた藤枝順心中学校・高校のグラウンド。この日は一面の半分をソフトボール部、その半分を藤枝順心高校女子サッカー部が使用していました。ジュニアユースの選手たちがピッチに入ることができるのは17時30分から。限りある時間とピッチです。だからこそ些細なところも無駄にはできません。さまざまなエリアから選手たちが集まってくるため集合できる時間はバラバラですが、早く到着した選手は順次ピッチの周りで邪魔にならないようにアップを始めていました。
同じ時間、ピッチの片隅でボールを使っている選手たちがいました。GKです。火曜、水曜は通常のトレーニングの開始1時間前にGKトレーニングを行うのです。「どうしても全体トレーニングが始まってしまうと、GKを個別に見ることができません。なので、週に2度、全体で始める前にGKトレーニングを行うようにしているんです」と渡邉亜紀監督。この年代では専属のGKコーチがいるチームはほとんどありません。藤枝順心ジュニアユースも例外ではありませんでした。GKへのアプローチは渡邉監督がトレーニングブックを読んだり、他のコーチからの情報などを元に行っていました。ローリングダウン、ステップ、キャッチング・・・約1時間のGKトレーニング。貴重な時間はあっという間に過ぎていきました。
17時40分、全体トレーニング開始。ウォーミングアップを終えた選手たちが、ピッチのラインに一列に並び始めました。「全力でプレーします!」、「声を出します!」などなど、それぞれが大声で宣誓していきます。「一種のメンタルトレーニングとでもいいましょうか(笑)。今日のトレーニングでの自分の目標を各自、大きな声でピッチに向かって叫ぶんですよ」(渡邉監督)。選手たちの"声かけ"でいよいよ始まったトレーニング。この日はコンディション調整のため軽いメニューということでしたが、体幹トレーニングを取り入れながら体をほぐしたら、二人組パス。蹴る、止めるというボールコントロールの基本から前後へ移動しながらのヘディングへとメニューは移っていきます。18時からは4グループに分けて2-2。時折、渡邉監督がプレーを止めながら、アドバイスを送ります。「ドリブルなのか、パスなのか。積極的に仕掛けるために必要なスペースを広げよう!チャレンジ!失敗してもいいんだから!」。30分間、みっちりと2-2を行い、最後は2チームに分かれてハーフコートを使っての11-11のミニゲームで終了しました。
現在、リハビリに奮闘中の齋藤愛理紗選手は「今はケガをしっかり治すことが一番ですが、自分たちの学年で全国大会に出たいです」と目標を語ってくれました。また、自転車で30分の道のりを通う山田真帆選手がこのチームを選んだ理由は、「一緒にプレーしたいと思う先輩がいたから」。すでにその先輩は卒業してしまいましたが、その思いは叶えられたそうです。こういった環境は好ましい姿だと藤枝順心高校の多々良監督は言います。「すぐ隣のピッチに憧れの選手がいるということは素晴らしいことです。高校生にとっても常にそういう存在であり続けたいというモチベーションにもつながります。どんどん下の年代から上の年代へ上がってきてほしいですね」。
「厳しく接するのは、できるのにやろうとしないとき。サッカーは真剣にやるから楽しい。楽しさが違った方向に行ってしまうときは、トレーニングをさせないこともありました。サッカー選手であると同時に一人の女性なので、サッカーを通して素晴らしい女性になってほしい。一生懸命やったことは必ず生きてくる。サッカーを愛し続けて、ずっと関わっていってくれたら嬉しいですね」(渡邉監督)。そんな渡邉監督のサポートを受けながら、今日も選手たちはそれぞれの目標を掲げながらピッチを駆け巡っているに違いありません。