「この大会は心から楽しむことができた」女性審判員鼎談 FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023
2023年09月26日
FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023は8月20日(日)に閉幕。ここでは大会に参加した山下良美主審、坊薗真琴副審、手代木直美副審の3人の鼎談を実施し、大会に向けての準備や担当試合について聞きました。
○取材日:2023年9月5日
――今年1月に女子ワールドカップの担当審判員が発表されました。そこからどのようなことを意識しながら準備されたのでしょうか。
山下 もちろん女子ワールドカップのことはずっと頭にありましたが、できることは限られていますし、目の前の試合をより良いものにすることが女子ワールドカップにつながると思っていましたので、そのことしか考えていなかったです。
坊薗 私は前回大会が終わってから次の女子ワールドカップに照準を合わせ、日々そのことを考えながら取り組んできました。ですから発表後も特に何かを変えることなく準備を続けてきました。前回大会は気負いすぎたところがあってコンディションがあまり良くなかったので、今回はその反省を生かし、気負いすぎず、コンディションを整えることに専念して臨みました。
手代木 私も特別に何かをすることはなかったですが、最近はJリーグなど自分が担当したことのないカテゴリーのアポイントが増えていたので、目の前の試合をしっかり取り組んでいました。また、普段よく担当する試合と女子ワールドカップではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の有無という大きな違いがあったので、とにかくJ1リーグの試合を見てVARがどう運用されているのかを学び、知識面での準備を今まで以上にしました。
――開幕戦の担当審判員に指名されたときの心境を教えてください。
山下 坊薗さん、手代木さんとは離れた席にいたので2人の表情は見ていないんですけど、どの試合が割り当てられてもいいように準備をしてきたので、驚きや不安もなく、「よし、やるぞ」という気持ちになりました。
坊薗 私も開幕戦を含めてどの試合に割り当てられてもいいように準備をしていましたし、開幕戦も可能性があると思っていたので、淡々と「そうなのか」という感じでした。他の審判員が拍手で祝ってくれたのがうれしかったです。
手代木 FIFA審判委員会委員長のピエルルイジ・コリーナさんが最初に山下さんの名前を呼んだ後、副審を呼ぶまでにちょっと間があったんです。その間に両隣にいた副審の仲間が「おめでとう!」と言ってくれて。実際に名前が呼ばれて、みんながハグをして喜んでくれるなかで、すごく仲良くしている審判員が泣きながら「名前が呼ばれてすごくうれしかった」と言ってくれて、もらい泣きしそうになりました。同時に、そう思ってくれる人がいるからにはしっかりやらなければ、と気持ちが変わっていきました。
――開幕戦の印象を教えてください。
山下 一つ一つのプレーで会場が盛り上がっているのを強く感じていましたが、それによって審判員が動揺するわけにはいかないので、盛り上がりを感じつつ冷静に取り組みました。冷静になれたのは、3人でうまくコミュニケーションを取りながら試合をしていたからだと思います。
坊薗 始まる前は高揚感があったのですが、いざ始まってからは他の試合と同じように、一つ一つのプレーに集中し、お互いに声を掛け合いながら進めていました。
手代木 キックオフの笛が吹かれてからは他の試合と何も変わらないと思いながらやっていました。ただ、観客の声援がすごく響いていて、山下さんが笛を吹いているはずなのに聞こえないこともあったので、観客の盛り上がりはものすごく感じました。
――改めて振り返って、ご自身たちにとってどのような大会でしたか。
山下 私は、「楽しんでね」と声を掛けていただくことが多いのですが、自分から楽しみにいけるものではありませんし、楽しむのは意外に難しいものです。でも、この大会は心から楽しむことができました。参加できて幸せでしたし、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
坊薗 女子サッカーの力を肌で感じることができました。前回大会は雰囲気にのまれて楽しむ余裕はなかったのですが、今回は3人でしっかり準備をして、いろいろな人が支えてくれたおかげで楽しむことができました。苦しいこともありましたが、それもすべてこういう気持ちを味わうためだったと思いますし、できれば多くの方に経験してほしいですね。
手代木 過去の大会よりも他の審判員と関わる時間が圧倒的に増えました。2大会、3大会一緒のメンバーも多く、その方たちと再会してサッカーのことやプライベートのこと、今後のキャリアのことを話し合うことができ、いろいろな情報、新しい知識もたくさん得ることができました。一方で、この大会で引退する方もけっこういて、今後はその方たちと会う機会が減ってしまうので、楽しかったけど寂しさも感じた大会でした。
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