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【日本サッカーミュージアム】インタビュー・後編 日本サッカー協会総務部ミュージアムグループ村上洋樹氏
2022年11月24日
2002FIFAワールドカップ日本/韓国のレガシーを活用し、サッカー文化のさらなる発展を目的に2003年12月22日に開館した日本サッカーミュージアム。2023年2月の休館を前に、同ミュージアムの設立に携わり、現在も管理・運営を担当する日本サッカー協会総務部ミュージアムグループの村上洋樹氏に話を伺いました。
※このインタビューは2022年10月24日に実施しました。
ミュージアムは感動を共有する場所として不可欠
――最大の目玉というと、展示ゾーンに入った人たちの目に飛び込んでくる日本代表の円陣ですね。
村上 あれが2002年6月9日、日本代表が歴史的なFIFAワールドカップ初勝利を収めたロシア戦の先発メンバー11人を再現したものです。各選手のユニフォームからシューズに至るまで全て本物を使って再現しました。
――過去と現在と未来をつなぐ装置として、あれが必要だったということですか。
村上 あの円陣に加わっていただくことで、当時を知る方々の記憶を呼び戻し、まだ生まれていなかった子どもたちはあの歴史的な瞬間(過去)に触れ、未来に思いをはせる。子どもも大人も年配者も、性別も国籍も関係なく、ただ感動を共有し、つながる。そういうものですね。
――全て本物を使って再現したということですが、展示にあたってのこだわりということでしょうか。
村上 展示については、そこに物語があるかどうか。その点を重視し、展示品の一つ一つに盛り込むことを念頭に置いて、リアル(本物)にこだわりました。
――実際に使われたシューズやユニフォームからは、やはり重みが伝わってきます。
村上 実物にこだわる一方で映像も作っていました。この展示ゾーンは当初、三面メガビジョンによるヴァーチャルスタジアムでした。実際、ゴールからゴールまでピッチを丸ごと収めた映像を2本流していました。
このヴァーチャルスタジアム構想は、ワールドカップ日本招致委員会が当初、目玉に掲げていたものです。世界初の試みで、当時の通産省、郵政省も絡む国家プロジェクトに近いものでした。日韓大会の期間中、パシフィコ横浜のメインメディアセンターで韓国の試合を上映しています。そこには撮る技術、送る技術、再生する技術の三つが必要で、ハイビジョン衛星回線さらに日本と韓国との間に海底ケーブルを引くことで可能になりました。それくらい大きなプロジェクトだったわけです。
――国家を巻き込む巨大イベントが日韓大会だったということですね。
村上 日本代表も史上初のベスト16に勝ち上がり、日本中の関心事となりました。その意味で日韓大会のレガシーに触れることで容易に追体験できる。その意味でもミュージアムが日韓大会の記念館として出発したのは、理にかなっていたと思います。
――半面、記憶が遠のくにつれて関心も薄れていくと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
村上 あらかじめ5年、10年を区切りとした中・長期的なプランが必要との認識はありました。リニューアルですね。ただ古いものを展示しておくだけでは、なかなか集客につながらない。人々が一番見たいのはやっぱり“今”(現在)ですから。ただ、それをどうやって見せていくか。そこが最も悩ましいところでした。
――最新の日本代表をどのように見せていくか。それも同時進行で。
村上 日韓大会を起点にすると、ドイツ大会、南アフリカ大会、ブラジル大会、ロシア大会と、4年ひと区切りでも計四つの代表チームがあり、その分、展示品の数も増えるわけです。それをどう扱っていくのか。私たちもリニューアルを提案しましたが、保留のまま今日に至ったというのが実情です。
――現行のミュージアムはひとまず幕を下ろすということですが、どのような形で再出発するにしても、変わらぬ価値や役割があるように思います。
村上 サッカーは“感動産業”だといわれています。その中で私たちJFAの仕事は、選手たちがプレーを通じて人々に感動を与えられるような環境整備に努めること、そして数々の感動をあらゆる形で後世の人々に伝えていくことにあると思っています。その一環としてミュージアムの存在があり、日本サッカー界の先人たちがもたらした数々の感動を永遠に伝え、いま現在、自分たちの周りで起きている感動を共有する場所として不可欠なものだと考えています。その重要な役割と使命を全うするため、より発展した施設に生まれ変わることを切に願っています。
その点、仕事を引き継いでくれるのが永松(太/日本サッカー協会総務部ミュージアムグループ)ですから、心配はしていません。とりわけ、過去に点在するデータの収集と、それを分類して整理する力はすごいですから、それを今後のミュージアムにどのように反映させていくか楽しみです。
――そのあたりはどのようにお考えですか。
永松 正直、まだ具体的に話せるものはありませんが、新しいミュージアムのアーカイブ機能を活用して、これまでひたすらため込んできたデータや資料をどのように世にアウトプットしていくか。その方法をしっかり考えていきたいと思っています。現状、資料室に保管されているものは、ほとんどお蔵入り同然の状態ですので……。
――再開後のミュージアムの方向性についてもお聞かせください。
永松 さすがに2002年の日韓大会をメーンに据えるわけにはいかないと思っています。ただ、村上さんがおっしゃっていた「過去と現在と未来をつなぐ」という部分については不変のコンセプトだと思っているので、表現の仕方はともかく、今後も継続していきたいと考えてます。これまでのミュージアムではリアルを重視してきましたが、今後はデジタル化を推し進めることになると思います。しかし、それ一辺倒にするつもりはありません。アナログとデジタル、その兼ね合いやバランスを考えながら、最良の形を探ることになります。ともあれ、本格的に動き始めるのはこれからですので、温かく見守っていただければ幸いです。
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