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アジアのピッチから ~JFA公認海外派遣指導者通信~ 第38回 井上和徳 カンボジアU-15代表兼フットボールアカデミー監督
2019年11月29日
カンボジアの印象
2019年2月よりカンボジアU-15代表兼フットボールアカデミー監督として赴任しました。通常はアカデミーの指導にあたり国際大会時に代表チームを編成し大会に臨んでおります。2016年2月から2018年1月末までの2シーズン、カンボジアで育成活動をしていましたので1年ぶりの赴任になります。
わずか1年離れていた間に以前にも増して多くの高層ビルが立ち並び、道路も整備されていました。自家用車を持つ人が増えたためか、交通渋滞も激しくなったように感じます。初めてカンボジアに来たときより交通マナーも改善されているように見受けられ、経済、教育レベルの成長具合が著しい国だと実感します。
カンボジアフットボールアカデミー、カンボジアサッカーと日本について
首都プノンペンから車で約1時間半弱。タケオ州トンレバティ(通称バティ)という街にナショナルトレーニングセンターがあります。天然芝3面、人工芝1面(照明付き)宿泊・研修棟があり、U-18、U-15ともに全寮制。サッカーに集中できる環境があります。
カンボジアフットボールアカデミーは2014年に日本人監督を中心に創設されました。その後2017年から韓国人監督も加わり当時のU-17、U-15の2つのカテゴリーで活動しましたが、2019年からは2つのカテゴリーともに日本人指導者となりました。
また、我々が指導しているアカデミーの他に、2017年からカンボジア25州に通い形式のプロビンチャルアカデミーも整備されました。このプロビンチャルアカデミー設立により、選手のタレント発掘は劇的に進歩しました。
現在、カンボジアサッカー連盟には現在審判ダイレクターの唐木田徹氏、技術委員長の小原一典氏、U-18アカデミー兼代表監督の行徳浩二氏、私と合わせ4名がJFAから派遣されています。フル代表の実質的監督は本田圭佑氏が務めており、カンボジアサッカーが日本サッカーに対し大きな期待をかけていることがうかがえます。
日本人指導者の影響を受けて育った初代のアカデミー卒業生のほとんどは、カンボジアリーグ1部のチームに属しており、数名はすでにフル代表のメンバーとしてワールドカップ予選を戦っています。
アカデミーと代表での活動
カンボジア国内においては、育成年代の大会の整備が大きな課題です。今シーズン、U-18アカデミーは国内一部リーグに参戦して実戦経験を積むことができましたが、U-15アカデミーは参加予定であった大会が諸事情で延期されるなど、定期的に充分な実戦経験を積むことができませんでした。カンボジアの一般家庭は、サッカーにお金をかける余裕がなく、サッカーの活動費や大会参加費は大会主催者側が負担することがほとんどです。主催側の負担が大きく開催が難しい為、大会の数が少ないのが実情です。今後は、費用を抑えた大会開催や、グラスルーツ活動の拡充の必要性を感じます。
U-15代表についてはアカデミーを中心に、他クラブからの有力選手を補充してチームを編成しました。今シーズンは4月下旬から活動を開始し、6月中旬に代表チームの選手選考、7月から10月中旬まで国際親善試合や国際大会が定期的に実施されました。そのため、この期間は国内で試合がなかったにもかかわらず、選手たちのモチベーションを維持しながら活動ができました。また、9月中旬にラオスで行われたAFC U-16予選ではU-15日本代表と対戦する機会もありました。
U-15日本代表との対戦から感じた日本サッカー
いまや日本はアジアの子どもたちの憧れの存在です。その日本に挑戦する場が上記予選にて、幸運にも訪れました。選手たちはもちろん、コーチングスタッフも日本に一泡吹かせようと、できる限りの準備をしてこの一戦に臨みましたが、結果は0-8の完敗。点差以上の実力差がありました。
我々はこの対戦前までに中国代表、オーストラリア代表、東南アジアの強豪であるマレーシア代表、タイ代表、ベルギーの名門クラブであるスタンダール・リエージュなどとの試合経験を重ね準備をしてきました。
日本代表の選手たちは高い技術と戦術・素早い攻守の切り替えと強い接触プレー、それを繰り返すことができる強靭なフィジカルなどあらゆる面で大きな差がありました。それに加え、大きな点差がついているにも関わらず高い集中力を維持し続ける。日本ほどやりにくい相手はいませんでした。
この大きな差は我々カンボジアが数か月間必死に取り組んで埋められるようなものではありません。日本の選手たちは幼少期から15歳になるまでに多くの指導者が選手たちに刺激を与え続け、励まし、さらに指導者間のバトンがつながれ、たくさんの積み重ねがあり現在のパフォーマンスを発揮しています。そして彼らに対する育成活動はこの先も続いていきます。この試合は単にU-15日本代表というチームに負けたというより、日本サッカーの育成年代の総力に、物凄い差を見せつけられたように感じました。
日本サッカーの選手育成の方向性、その組織力の素晴らしさを実感させられたと同時に、日本はアジアのリーダーとしてさらに進化を続け、アジアを代表して世界と互角以上に渡り合えるようにならなければいけない存在であると感じました。
今後のカンボジアサッカー発展とアジアにおける日本人指導者
大小さまざまな問題はありながらもカンボジアのサッカーは日本からの影響を受けて進歩しているのは間違いありません。しかし、さらなる向上も図らなければなりません。現状からのレベルアップのためには更に低年齢層からの技術の向上、発育発達段階を考慮した基礎体力面の強化、大型GKの発掘と育成は急務です。これはピッチ上の指導はもちろん情報共有等の組織力の向上、大会の整備など、カンボジアでは簡単にできることではありませんが、少しずつ改善し全体的な底上げにつなげる必要を感じます。
2018年、19年と2年続けてアカデミーの選手3名、コーチ1名、合計4名がベガルタ仙台で3週間の研修を行いました。選手たちが刺激を受けるのはもちろんですが、コーチが受けた影響も大きいようでした。幼稚園や小学校への巡回指導、サッカースクール、アカデミーの活動などコーチの仕事量の多さと、様々な年代・レベルに対しての普及育成活動の取り組みについて驚いていました。カンボジア人コーチ自身が実体験を通して自国以外の取り組みを学ぶ機会は有意義であり、自国の指導者のレベルアップにつなげる必要があります。
アジアの指導現場にはヨーロッパからの指導者も増加傾向にあります。当然我々日本人指導者は彼らと比較もされますが、Jリーグ発足以降の日本サッカーの急速なレベルアップの過程を知る日本人指導者は、すでにサッカー文化が成熟した中での指導に慣れたヨーロッパの指導者たちよりも、発展途上の国のサッカーの発展に貢献できるように思います。
日本人指導者はサッカーを指導する上で教育面の配慮も忘れません。以前カンボジアの関係者が「日本人指導者はお願いしなくても教育面の指導までやってくれる」と喜んでいました。その方によれば、そこまで徹底するのは日本人指導者ぐらいだそうです。教育面に問題を抱える国での育成活動において「サッカーを通じて何かを学ぶ」ことは大きな価値があると思います。
実際に、11月のAFC YOUTH CONFERENCEに参加した際、アジアのサッカー関係者が日本に対し好意的であり、大きな期待抱いていることがよくわかりました。日本サッカーがアジアで果たすべき役割は益々大きくなっていくと思います。
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