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[女子チームのつくりかた]来春からザスパ草津レディースのヘッドコーチとなる清水清志さんに聞きました!
2010年01月15日
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
男子サッカー部の顧問をしていますが、中体連や協会主催の大会で、女子選手が男子に交じって練習をしたり試合に出場したりしている光景を見ることが多くなりました。また47FAチーフインストラクターとしていろいろな研修会に参加し、なでしこビジョンや女子の活動報告を受けている中で、女子サッカーの普及・選手育成を進めていく必要性を強く感じるようになりました。特に「サッカーを日本女性のメジャースポーツの一つにする」という目標の達成のために、中学校女子の環境を整え、女子生徒にサッカーの面白さを伝えていくことに大きなやりがいを感じました。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
女子生徒の所属する中学校サッカー部の顧問を通じて、女子だけの練習会を実施することを伝えてもらいました。15名程度の生徒が集まり、6月から平日1回土曜日1回の練習会でスタートしました。次第に女子同士で試合をしたいという気持ちが高まり、練習試合も行うようになりました。夏休みには女子のサッカーフェスティバルに、9月にはフットサルの大会に参加して勝つ喜びを味わい、チームとしての一体感も高まりました。その結果、新年度からチームとして登録し、活動していくことが決定しました。並行して、ザスパ草津にも女子サッカーにかかわれないかと提案し、共同作業でチームづくりを行ってきました。
これまでに生じた最大の壁はどんなことでしたか?
指導スタッフの問題ですね。ザスパ草津の協力で、今年度はスタッフを派遣してもらうことができましたが、そのスタッフも別に仕事を持っていて、練習に参加できない場合もあります。指導スタッフ同士の連携が非常に大切です。
独自のアイデアというものはありますか?
アイデアというよりも自ずとそうなっているのですが、中体連男子サッカー部に所属している女子生徒がほとんどですので、平日に行われる練習会以外は各中学校の部活動でそれぞれ練習をしています。クラブチームだけの練習よりは時間も確保され、また中学校では週末も部活動をしているので、練習時間の確保はされていると思います。
もう一つは、私が中学校のサッカー部顧問なので、男子チームと試合をすることも多いですね。練習試合は男子のスケジュールに組み入れてもらうことができています。
群馬県内はまだまだ女子チームの少ないのですが、県外に出なくても試合経験を積める状況はあるんです。女子チームとの試合経験は積極的に高校生にお願いしています。
チームが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
やはりグラウンド、練習場確保の問題が一番です。平日は前橋育英高校の山田耕介先生にも協力をあおぎ、高崎グラウンドで練習を行っていますが、土曜日の確保がなかなかできずにトレーニングが休みになってしまうこともまだまだあります。
また、選手を集めることも課題です。トレーニング場所の近くに住む女子生徒しか練習会に参加できず、なかなか仲間が増えていきません。練習日によっては、5人ぐらいで練習することもあります。多くの人にこのチームについて知ってもらえるような努力が必要ですね。
これからチームが目指すビジョンとは?
来年度からザスパ草津レディースとして活動する予定です。基本的には「やりたい」と手を挙げてくれたら誰でも何人でも大歓迎です。そしてザスパ草津ファミリーとしてのプライドを大切にする選手、サッカーを愛する選手を育てていきたいですね。サッカーの喜びを伝え、今後は群馬女子サッカーの中心的なチームになれるように励んでいきたいと思います。
さらに学校や地域との連携を図りながら、女子サッカー普及にもかかわっていければと考えています。女子サッカーをメジャースポーツにするには、学校や地域との連携が不可欠です。学校や地域から信頼され、愛されるチームを作っていきたいと思います。
そして3つ目は、将来なでしこリーグへの参加を目指し、魅力あるチーム・地域のリーダーとして活躍する女子選手を育てること。土台を固め、地道に一歩一歩取り組んでいきたいと思います。
ザスパ草津ゼネラルマネージャーの植木繁晴さんにも聞きました。
最初に打診を受けたときの率直な感想は?
Jリーグからも女子の普及に力を入れてほしいという話がありましたので、アカデミーのような形でできないものかと清水さんから言われたときにはぜひ協力したいと思いました。とは言っても、多くのことはできません。それでもJリーグのクラブですから、指導のプロを送ることはできます。それでコーチを派遣することから関わりを持つことになりました。女子でも男子でもサッカーをやりたいという子供たちが増えてくれることはいいことです。こういったことのお手伝いができないなら、地元にJリーグのクラブがある意味がないと思ったんです。
いっしょに取り組んでいくうえで問題点はありましたか?
コーチの派遣について、スケジュール調整が難しかったですね。それは今でもですが・・・。ただ、私の周りでは指導したいけれどその機会がなかったり、教師の中には自分のやっていたサッカーではなく、違う競技の部活動の顧問になっていたりという声をよく聞くんです。将来的にはそんな人たちのネットワークを作って指導の現場へのアプローチにもなっていってくれればいいと思います。そうなれば、サッカーをやりたい子供たちにも、サッカーを教えたいという人たちにも、相乗効果が生まれるのではと・・・。
どんなふうに成長していってほしいと思われますか?
勝てるチーム”といった視点ではなく、こういう存在に持っていきたいというビジョンが大事なんです。今、地元でKスポーツという取り組みを行っています。サッカーはもちろん水泳やスキー、体操など地元の人が指導にあたり、つながっていこうというものなんですが、誰かが大きな負担を背負うものであっては続かない。それと一緒で、今回のレディースチームの活動も大きな力に頼るのではなく、できる小さな力をたくさん集めて大きくすることが大切だと思います。ただ技術を与えるのは簡単ですが、環境を整えて、そこに携わる人たちによってサッカーがつながっていくこと、それがサッカーファミリーが増えることだと思います。強いチームを作ることが大切な訳じゃない。サッカーができる環境を与え、魅力あるものを与えて、土壌を作ることが大切なんです。そしてそれは楽しくなければ、ね。
まずは第一歩を踏み出したところです。ここへ来ればサッカー専門のトレーニングが受けられるという環境が整えば、人は集まる。そうするとそこに指導する人材も必要になる。いい循環を作ることができればいいですよね。難しいことではありますが、これは清水さんはじめ、地域の方々との連携と協力体制を築くことができれば、思う形に流れていくのではないでしょうか。地域ぐるみのチャレンジという感じですね。
チームトレーニングレポート
ザスパ草津レディースのトレーニングは19時にスタートします。見学した日は寒波の影響で寒さもひとしお。北関東の冬場の寒さは想像以上です。夜のトレーニングは大人でも耐えがたいはず。さすがに体育館でトレーニングをしてはと進言してみても、選手たちが拒否するのだそうです。この日も寒さにも負けず、中学生10名が集まりました。3年生4名が受験のために休んでいますが、隣のピッチでは小学生も元気にトレーニングに励んでいました。
寒さが厳しいため、念入りにウォーミングアップ。その後、4対5のミニゲームが行われます。しばらくすると、齊藤佳弘コーチの指導のもと、ボールコントロール、パスのトレーニング。そして今度は再びこのトレーニングを念頭に入れてミニゲーム。最後は小学生も交えてゲームを行いました。「どうしても途中でダラダラ感が出てしまうので、適度な緊張感を与えるために、ゲームとゲームの間にトレーニングを挟んだり、飽きさせないように内容を組み立てています」と齊藤コーチ。
齊藤コーチ、実はトレーニングに参加している選手のお父さんなんです。こうしたところでも地域のみなさんの“協力”という形が表れています。そしてトレーニングの場となるのが、前橋育英高校のサッカー部の人工芝グラウンド。水曜、金曜の週に2回は前橋育英高校のご好意により、グラウンドを貸してもらっているのです。しかし、週末は場所の確保が難しいと清水ヘッドコーチは言います。「どうしても見つからない場合は、自分たちの中学校のトレーニングに出てもらっています。こういったケースでもわかるように、もしこちらがダメになってしまっても、完全にトレーニングの機会が失われることはないというのもこの形式ならではのメリットだと思います」(清水ヘッドコーチ)。
日頃は男子サッカー部員とともに部活動に励んでいる選手ばかり。ひとつひとつのプレーがとても力強く感じられます。それでも試合感となると、難しいこともあるようです。この年代になると男子とのフィジカル面での差は否めません。そうすると、試合の出場はほんのわずかな時間しかチャンスはありません。試合経験はどうしても乏しくなってしまう訳です。そこを補おうというのがこのザスパ草津レディースの試みでもあります。フェスティバルやフットサル大会などで経験を積むことで、楽しいというゲーム感覚が選手たちに刻み込まれていきます。その楽しさがトレーニングからも伝わってきます。
選手の嶋田和季さんと桜井里穂さんに話を聞きました。男子といっしょに部活動をやることに抵抗はなかったのですかという問いに「ありましたよ(笑)。でもサッカーが好きだからやめたくなかった。ここでのトレーニングは楽しいです。男子とやってるときは力でねじ伏せられるというか・・・、女子といっしょにやると自分のプレーができるんです」という答えが返ってきました。一番違うところはどんなところと聞くと「全部。特にシュート決まったときとか、みんなでわーって盛り上がるじゃないですか。あれ、男子とじゃないですよ、ああいうの。いっしょにプレーしてるってすごく感じる時ですね」。
清水ヘッドコーチはその姿を見ながらこう言います。「毎日、当たりの強さだったり、どうしようもない部分でもまれている中でストレスもあると思います。でも、そこも彼女たちを精神的に、もちろん技術的にも成長させている要素です。ここで女子同士のプレーに触れることで本来の楽しさが蘇ってきているんでしょうね。それでまた日々のトレーニングもがんばろうって思えるんだと思います」。
男子と励む部活動と女子チームの中で育まれるチーム力。絶妙なバランスを感じずにはいられません。一人の力ではできないことも、一人一人少しずつできることを集めて大きな力に変えていく――そこには、サッカーをやりたいのにやれない子供たちの状況をなんとか変えたいという熱い思いと、それを受けて協力体制が広がる地域の絆がありました。