ニュース
[女子チームのつくりかた]エフルビオニーナス(神奈川県横浜市)チームを指導する久保田大介さんに聞きました!
2010年03月23日
チームを立ち上げようと思ったきっかけは?
2004年から東京都立国際高校女子サッカー部でコーチを務めています。そこで選手たちのひたむきさややる気などに触れて、女子サッカーを指導する意義とやりがいを感じていました。そんなときに横浜市に中学生の女子選手の活動場所がほとんどないという現状を知ったんです。でも、少年サッカーのチームに所属している女子選手はよく見かけます。かねてから私が横浜市で代表・ヘッドコーチを務めている少年サッカークラブ「スエルテ・ジュニオルス」にも小学6年生の女の子が在籍していました。指導者の間でもなんとかしてあげたいという話はよく出ていました。ある時、その選手に卒業後に進路を聞いたところ、「サッカーを続けたい」という返事でした。「もし、クラブを作ったら本気でサッカーやる?」との問いに「やる!」と即答で戻ってきました。その日の夜から立ち上げのための行動を開始したんです。
立ち上げに至るまでの流れを教えてください。
すでに自分のチームでの指導や運営を経験していたので、ノウハウはありました。といっても女子選手を一から集めるということは大変です。指導者の人脈を生かして、女子選手がいるいくつかの男子チームにメールで募集をかけました。まずは集まって一緒にトレーニングを始めるところから・・・と思っていたんですが、結果はあまりいい反応ではありませんでした。それでも行動を起こして実体を作らなければ、信頼もされません。2009年4月に1回目のトレーニングを行いました。わずか3名のスタートでしたが、その後1年は口コミと偶然ホームページを見てくれた子などで徐々に数は増えてきています。
これまでに生じた最大の壁はどんなことでしたか?
勢いで始めてしまったので、創設に関する壁というのは正直言って感じる余裕はありませんでした(笑)。目下、いろいろともまれている最中という感じですね。
独自のアイデアというものはありますか?
現在は4月からの本格的なスタートに向けての「プレ活動期」ということで週に1回のみの活動ですが、中学生だけでなく小学生も受け入れています。また、どの選手にも正式に入部して活動という形ではなく、来られる日に来る、またその日だけの参加でもOKとしています。とにかく、サッカーしたいという子どもたちはいつでも誰でもボールを蹴りに来ていいよというスタンスで今は活動しています。
チームが始動してから生じた課題とそれに対する取り組みを教えてください。
やはり、チームの存在を周知させること、人集めといった「広報活動」に一番苦労しました。男子に交じってプレーしている女の子は多くいます。でも、中学生になってくると男子とトレーニングについていくだけで精一杯というケースもあると思います。いい表情でプレーしているのを見て、こんなにもサッカーをする場所に飢えていたのかって思うこともあるんです。そんな経験を一人でも多くの選手に知ってほしいと思っています。今は、手紙やメール、ホームページなどでチームの活動を発信していますが、苦労はしています。
それと、本当は外でしたいんですけど、夜間の学校開放はあまりないんです。室内でのトレーニングも多くなってしまうのですが、とにかく活動場所をコンスタントに確保することが難しいですね。
これからチームが目指すビジョンとは?
4月から本格的に「チーム」として活動を始めますが、それでも今のような「サッカーをしたい人がいつでも来られる」ような敷居の低い存在でいたいと思っています。そしてゆくゆくはU-18を作って、さらにトップチームにまでつなげていけたらと思っています。
チームトレーニングレポート
スペイン語で"少女の息吹"――エフルビオニーナスのトレーニングは週に1回、金曜に行われています。蹴りたい!と思う人は誰でも参加可能というスタイルのため、参加人数は回ごとに異なります。この日集まったのは、これまでにも欠かさず参加している人、その友達、噂を聞きつけてきた人など13名が参加していました。
18時から横浜市内の体育館で受け付けが開始されると、次々に参加者が館内を元気に走りだします。自然に始まるミニゲームや鬼ごっこ。しばらく様子を見ていた久保田コーチが子供たちを集めて、最初に行ったのは自己紹介でした。今日一日、一緒にボールを追いかける仲間と挨拶を交わします。その直後、ジャンケンでチームを2つに分けるといきなりゲームが始まりました。「僕は通常やるような、コーンを使ってのトレーニングはあまり好きじゃないんです(笑)。本当に意味で技術が"身につく"のはゲームの中だと思うんです。一番大事なのは"考える力"をつけること。自然に身につけるようにするには、どうすればいいのかを常に考えています」とは久保田コーチです。
もちろん20時までの2時間をただのゲームで終えるという訳ではありません。途中からコートを広げたり、ボールを2個にしたり・・・。それにも対応できるようになってくると、シュートを打てる場面を限定します。シュートを打っていいのはボールを2個同時にキープしている時間帯のみ。選手たちは、常に自分の目の前にあるボールと同時に、コートのどこかにあるボールとそれを取り巻く状況を常に視野に入れていなければなりません。自然と声を掛け合う場面が多くなります。休憩を挟みながら、さまざまな要素を盛り込んだミニゲームを飽きさせることなく、どんどんトライさせていく久保田コーチ。
しかし、誰でも参加すると門戸を開いているため、年齢も技術力もさまざまな子供たちが集まってきます。展開する上で、まとまったトレーニングには限界もあるのでは? 「もちろん、そういったことは常に起こり得ます。それも、子供たちにとっては勉強の一つ。今日もトレーニングの冒頭で言ったのですが、本当に上手い選手というのは、初心者を楽しませることができる。それが一流の選手なんです。だから、今日初めて参加という人がいたら、その人のためにボールをキープしたり、みんなで協力していく。その方向へ導いていくこともサッカーでは大切なんだということを伝えています。」(久保田コーチ)。
その後もトレーニングは続きます。最も興味深く映ったトレーニングは"王様ゲーム"。この"王様ゲーム"でのルールはあらかじめコーチにだけ申告した各チームの"王様"1名だけがゴールを決められるというもの。あとの作戦は自由です。お互いに相手チームの王様は誰なのかをパスやシュートのタイミングなどのかけひきの中から探ります。そして自分たちの王様も悟られないようにプレーをしていくわけです。そのための作戦会議を行う選手たち。ああでもない、こうでもないと白熱した議論が飛び交っています。相手を混乱させるために王様ではない選手がわざとシュートを打ったり、最初はフィールドに立っていない選手を王様にしてみたりと、なかなか手の込んだ作戦を練っているようです。すべて考えるのは選手たち自身。だからこそ、その作戦が成功したときの喜びもひとしおなのでしょう、大きな歓声が上がります。「こんなことを考え付くのかと驚かされることもあるんですよ」(久保田コーチ)。そんなゲームの中で、時折プレー中でも選手に話しかけ、動きにヒントを与えたり、外で見ている選手に展開されているプレーについてポイントを話したりと久保田コーチは場面ごとに選手たちとコミュニケーションを取っていきます。
参加していた中学2年生の岡田美月さんはお父さんがホームページでこのサッカースクールを見つけてくれたといいます。サッカーは全くの未経験。「最初は周りの人の動きについていくだけで精一杯でした。でも、ゴールを決めたときの感覚は最高です! いつもは一人で家の周りとかでボールを蹴っています。ここに来ると、みんなでボールを蹴れるので楽しいです」(岡田さん)。アニメの影響もあってサッカーに興味を持ったという岡田さんに、これからどんな風にサッカーをやっていきたいかを聞いてみました。「できれば中学の部活動としてやりたいですけど、なかなか・・・(苦笑)。今はただもっとボールを蹴りたいです!」と週に1回のこのスクールを楽しみにしています。
そして忘れていけないのは、お父さんお母さんの協力体制。「動ける服装で来てくださいと久保田さんに言われて・・・(笑)」と、トレーニングで補充要員としてミニゲームに参加していたのは選手のお父さん。久保田コーチと一緒に、選手たちの対戦要員としていつでもフォローできるようにトレーニングを見守ってくれています。そんな周りの方々の協力の中で迎えたこの日のトレーニングの最後は、みんなでモップがけ。使用した体育館を全員でぴかぴかに掃除をして約2時間のトレーニングは終了しました。
「女子サッカーを普及することによって、女子だけでなく、きっと男子も含めて日本サッカーの強化にもつながっていくと思うんです。"小・中・高でサッカーをしてました"ってお母さんが増えるということは、サッカーをやらせたいと思う親御さんが増えるということです。そうすれば、裾野は確実に広がります。スタジアムでお母さんが"今のファーストタッチよかったね"って子供に教えるっていうのが当たり前になればいいですよね」と語ってくれた久保田コーチ。エフルビオニーナスは4月から本格的な活動開始となります。