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【規律委員会】 2023年9月19日付 公表
2023年09月19日
1.対象者
浦和レッドダイヤモンズ
2.懲罰
(1)2024年度天皇杯(天皇杯 JFA 第104回全日本サッカー選手権大会)の参加資格の剥奪
(2)譴責(始末書の提出)
3.根拠条項
懲罰規程 第4条第2項(2)及び(15)、第27条、〔別紙1〕3-7
天皇杯試合運営要項 第30条
4.理由等
(1)嫌疑
マッチコミッショナー及び本大会実施委員会からの報告及びその後の映像分析等に基づく対象者の嫌疑の概要は以下のとおりである。
(嫌疑の概要)
対象者は、自チームのサポーターに対して試合後においても秩序ある適切な態度を保持するよう努める義務を怠り、2023年8月2日(水)にCSアセット港サッカー場にて行われた本大会4回戦対名古屋グランパス戦の試合(以下、「本試合」という。)において、試合終了から約20分後より、多数(合計70名以上)の対象者のサポーター(以下、「本件サポーターら」という。)が暴徒化して以下に掲げる当協会試合運営管理規定に違反する行為(以下「本件管理規定違反行為」という。)に及んだことを防止できなかったほか、本件サポーターらを即刻退去させるなど、観客や選手その他の試合に関わる人の安全を確保するために適切な措置を講じなかった。
<本件サポーターらによる本件管理規定違反行為>
1. フィールドへの飛び降り
2. 相手チームのサポーター及び警備運営スタッフに対する暴力
3. 相手チームのサポーターに対する威嚇
4. 相手チームのサポーターエリアへの集団での押し寄せ
5. 相手チームのサポーターの横断幕やスタジアム内の設置物の損壊
6. 立ち入り禁止区域(券種外の入場可能エリア、関係者エリア、相手チームのサポーターエリア等)への不正侵入
7. スタジアム内を走り回る行為
8. 掲出不可エリアへの横断幕の設置
なお、当協会執行部は本大会の主催者として、本件サポーターらのうち特定することができた18人(現時点)に対し、各々の各本件管理規定違反行為を個別に認定した上で、当協会試合運営管理規定に基づき、処分を行っている。
(2)当委員会の判断
当委員会は、上記の嫌疑の内容を精査し、対象者に弁明の機会を付与した上で、慎重に検討し審議を重ねた結果、以下のとおり判断する。
ア 管轄権
対象者は当協会の加盟チームであることから、懲罰規程第2条に基づき当委員会は対象者に懲罰を科す権限を有する。また、本大会は当協会が主催する公式競技会であることに加え、本大会の開催規程第4条に「本大会における懲罰問題に関して、本協会規律委員会が直接管轄する」と規定されていることから、懲罰規程第16条第2号に基づき、当委員会は、本大会における対象者の行為について調査・審議する権限を有する。
イ 事実関係
本件サポーターらによる本件管理規定違反行為については、マッチコミッショナー及び本大会実施委員会の報告並びに映像等の客観的証拠から明らかであり、対象者もこの点について争っておらず、事実であると認定できる。
ウ 対象者の有責性
天皇杯試合運営要項第30条第1項に、「参加チームは、自チームのサポーターに対して、試合の前後及び試合中において秩序ある適切な態度を保持するよう努める義務を負う。」と規定されていることから、対象者を含む本大会の参加チームは、自チームのサポーターの行為についての管理監督責任、さらには、自チームのサポーターに対して、観客や選手その他の試合に関わる人の安全を確保するために、適切な観戦マナーを守らせ、施設の適切な使用等を周知し、遵守させる責任(サポーターへの指導責任)を負う。
また、同条第2項には、「参加チームは、前項の義務の遂行を妨げる観客等に対して、主管協会と協議の上、その入場を制限し、または即刻退去させる等、適切な措置を講じなければならない。」と規定されていることから、自チームのサポーターによる危険な行為等が生じた場合には、参加チームは、速やかに、当該行為をやめさせるとともに、被害の発生及び拡大を防ぎ、観客や選手その他の試合に関わる人の安全を確保するために、即刻退去させる等の適切な措置を講じなければならない。
本件サポーターらは、試合終了後ではあるものの、まだ多くの観客や関係者がスタジアムに残っていた状況において、集団で暴徒化し、スタジアムの各所において同時多発的に前記<本件サポーターらによる本件管理規定違反行為>1.から7.までの危険かつ乱暴な行為を行った。すなわち、本件サポーターらは、集団でフィールドへ飛び降りて、相手チームのサポーターエリアに押し寄せ、相手チームのサポーターや関係者に対し大声を出すなどして威嚇し、相手チームのサポーターや警備運営関係者に対して暴行を加えるなどし、さらには、相手チームのサポーターのウェア及び横断幕やスタジアムの備品を損壊している。本件サポーターらによるこのような暴動により、スタジアム内は騒然とし、一時的に警備運営関係者においても制御することができない無秩序な状態となり、相手チームのサポーターを含む観客、選手等の関係者及び警備運営関係者が身の危険を感じざるを得ない状況を招いている。このような状態は、警察が出動して収束するまで、約1時間あまり続いた。
本件サポーターらによる本件管理規定違反行為は、対象者がサポーターとクラブとの間のコミュニケーションを通じて適切な管理監督と指導を行っていれば、防止することができたものであるといわざるを得なかったものであり、対象者には、自チームのサポーターに適切な観戦マナーを守らせ、施設の適切な使用等を周知し、遵守させる義務があるとした天皇杯試合運営要項第30条第1項に定める指導責任(サポーターの行為についての管理監督責任及びサポーターへの指導責任)の懈怠があったものと認められる。
さらに、本件サポーターらによる本件管理規定違反行為の発生後も、対象者は暴徒化した本件サポーターらを即刻退去させるなどして本件管理規定違反行為を止めることができず、結果的に1時間あまりの間、スタジアムを警備運営関係者においても制御することができない無秩序な状態に陥らせた。したがって、対象者は、被害の発生及び拡大を防ぎ、観客や選手その他の試合に関わる人の安全を確保するために適切な措置を講ずるべきであるとする同条第2項にも違反すると認められる。
エ 情状
対象者は、その弁明において、クラブとして実施していた対策の内容と、それにもかかわらず本件サポーターらによる本件管理規定違反行為が生じたことの理由等について以下のとおり述べている。
(ア)本試合に向けた対策等について
本試合に向け、以下のような対策を実施したが、従前の経過に照らして、本件サポーターらによる本件管理規定違反行為の発生の蓋然性が高いとは想定しておらず、それに対する具体的な打ち合わせはできていなかった。
・本試合については、直前まで試合会場の変更等の可能性があったこと、また、本試合会場では「鳴り物」の使用が禁止されているという背景から、通常より問題行動が起こるリスクが高いと考え、関係者(愛知県協会、当協会運営担当者、相手クラブ)と綿密に打ち合わせを行い、また、試合会場の視察を行うなどの対策を採った。
・「鳴り物禁止ルール」違反への対応として、入場門にスタッフを重点的に配置するなどし、さらに、本試合後は、試合の結果及び内容に照らして、サポーターからの何かしらのアクション(対話やチームバスの囲み等)があると予想し、それに対応すべく、競技運営スタッフをゴール裏スタンドフィールド内に2名、スタンド内に4名の合計6名を配置するなどの対策を講じていた。
(イ)相手チームのサポーターからの挑発について
相手チームのサポーター2名から発せられた何らかの言葉(「早く帰れ、こっちに来い」といった内容であったとの話もあるが特定はできていない。)に対し、本件サポーターらの一部が憤慨し、バックスタンド側に移動を開始し、その後、その他のサポーターもこれに続き、本件管理規定違反行為に至った。
(ウ)今後の対応策について
今後の対応策として、以下のような対応を予定している。
・過去に自チームのサポーターによる違反事案が生じた際にも、その都度、再発防止に向けた措置を講じてきたものの、本件を防ぐことができなかったことを受け、違反行為をしたサポーターに対する対象者による独自の処分について厳罰化と処分基準の見直しを行う。
・新たな取組みとして、専門家に本件の原因分析等を依頼して、その結果を踏まえて再発防止策を策定し、さらには、第三者委員会を設置して対策を講じることを検討する。
(エ)反省の弁
「今回、不適切行為を生じたことは、これまで先人が紡いできた日本サッカーの歴史に泥を塗る愚行であり、これまで多くのサッカー関係者やファン・サポーターのみなさまの努力によって形成されてきた、スタジアム観戦への好意的なイメージを傷つけてしまったことはサッカー界、スポーツ界に身を置く者として痛恨の極みでございます」。
以上の対象者の弁明に対し、当委員会は以下のとおり判断する。
上記(ア)(本試合に向けた対策等について)について、「今回生じた当該サポーターらの行為については、従前の経過に照らして発生の蓋然性が高いとは想定しておらず、それに対する具体的な打ち合わせはできていなかった。」との弁明は、上述のとおり、参加チームは、自チームのサポーターに対して、適切な施設の利用を含む観戦マナーを守らせる義務を負うものであり、また、本件は、対象者によるサポーターへの事前の適切な指導、周知が徹底されていれば、このような危険な行為を防止することも十分に期待することができたといわざるを得ず、対象者の義務違反の度合いを軽減する事情とはなり得ない。
また、上記(イ)(相手チームのサポーターからの挑発)については、確かに、本件の直接のきっかけは、相手方チームのサポーターの言動にあった可能性も否定はできないものの、そうであったとしても、本件サポーターらの行動は、その反応として著しく過剰かつ執拗なものであり、情状として汲むべき事情には当たらないと考えられる。
最後に、上記(ウ)(今後の対応策)及び(エ)(反省の弁)については、当委員会としては、対象者の再発防止に向けた今後の対応に期待し、これを注視するものの、本件においては考慮事由とはならないと判断した。
オ 懲罰
本件は、現時点で判明しているだけでも70名以上にも及ぶ多数のサポーターがスタジアム内で集団として暴徒化し、相手チームのサポーターを威嚇し、相手チームのサポーターや警備運営関係者に対して暴行を加えるという、日本サッカー史上、過去に類を見ない極めて危険かつ醜悪なものであり、その場に居合わせた子供を含む多くの観客、チーム関係者、スタジアムや運営に携わる関係者等を危険にさらし、恐怖に陥れるものであった。また、その様子はテレビやインターネットを通して、広く伝えられ、サッカー関係者以外の多くの人々にも強い衝撃を与えた。
当協会は、JFA2005年宣言において、「サッカーの普及に努め、スポーツをより身近にすることで、人々が幸せになれる環境を作り上げる。」というビジョンを掲げている。また、Jリーグも、「豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与」を掲げ、その活動方針の一つとして、「自治体・ファン・サポーターの理解・協力を仰ぎながら、世界に誇れる、安全で快適なスタジアム環境を確立すること」を宣言している。
このように、当協会及びJリーグは、サッカーは子供達を始めとする多くの人々に夢を与え、感動させる存在でなければならないと考えている。人々がスタジアムにおいて安全、安心に観戦することができなくなれば、人々の足をスタジアムから遠のかせることになり、ひいてはサッカー競技自体への興味を失わせることにもなりかねない。本件の対象者のサポーターによる暴挙は、このような当協会やJリーグの理念に真っ向から反するものであり、断じて許されない。
これまでにも、対象者のサポーターが引き起こした問題行動による懲罰事案は、Jリーグ及び天皇杯を含めて2000年以降だけでも11件にも上る。サポーターの問題行動が起こるたびに、対象者が、再発防止に向け、様々な取組みを行ってきたことは一定程度評価するものの、残念ながら、そのような取組みにもかかわらず、対象者のサポーターによる問題行動は繰り返され、それらの問題行動は改善を見せるどころか、本件のような集団的に暴徒化するという許されざる暴挙にまで至っている。このような実態を直視すると、対象者による取組みは十分ではなかったといわざるを得ず、対象者にさらなる猛省と実効性のある再発防止策の策定及び実施を促すには、これまでと同様に罰金の処分を重ねたとしても、十分な効果は得られないと考えられる。
さらに、対象者のサポーターによる問題行動に係るJリーグによる直近の懲罰事案(2022年7月)においては、対象者は、罰金2000万円の懲罰を科されるとともに、「対象者が再びサポーターの行為に起因する懲罰事案を発生させた場合、無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性がある」と強い警告を受けていた。本件はこの警告にもかかわらず発生したものである。
以上を踏まえ、本件がトーナメント制を採用する天皇杯において行われたこと及び対象者が既に本年度の天皇杯を敗退していることを考慮し、当委員会は、対象者に対して、譴責(始末書の提出)に加えて、「2024年度天皇杯(天皇杯 JFA 第104回全日本サッカー選手権大会)の参加資格の剥奪」というこれまでに対象者に科した懲罰よりも重い懲罰を科すことが相当であると判断した。
5.付言(サポーターに対する付言)
以上の懲罰は、対象者(クラブ)に対するものであるが、本件管理規定違反行為の実行者である本件サポーターらには、自らの行為がクラブに招いた結果の重大性をしっかりと受け止めてほしい。
サポーターはクラブとその選手たちを心から応援し、愛する存在であるはずである。観戦ルールに違反する行為は、結果的に、自分が愛するクラブ、ひいては、そのクラブを愛する多くの仲間たちを傷つけることになってしまう。そのことを自覚し、ルールを守って観戦していただくことを当委員会としても切に願うものである。