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敗者とは何か ~いつも心にリスペクト Vol.105~

2022年02月24日

敗者とは何か ~いつも心にリスペクト Vol.105~

「敗者」とは何だろうか――。

あらためてそんなことを考えさせられたのは、昨年の12月19日に行われた天皇杯JFA第101回全日本サッカー選手権大会の決勝でした。

開始早々に浦和レッズに先制を許し、長い時間リードされていた大分トリニータが、90分が終わる直前に同点とし、アディショナルタイムに浦和が決勝点というドラマチックな試合。

その表彰式で、まず準優勝の表彰を受けた大分が、浦和が優勝カップを受け取るまでの長い時間、冷え込むピッチに残り、しっかりと優勝セレモニーを見つめていました。この試合を最後に大分を去ることになっている片野坂知宏監督も、胸を張り、顔を上げて浦和の選手たちを祝福していました。

かつては、負けた悔しさのあまり、準優勝メダルをすぐに首から外してしまうチームや選手がありました。そこまでしなくても、憮然とした表情で腕組みしながら表彰式を見つめる選手たちは、今でもよく見かけます。

大分の選手たちの堂々とした態度を見ながら、私はあらためて「敗者とは何か」というようなことを考えていたのです。

試合終了直後、スタジアム内が浦和の選手たちの「勝利者インタビュー」で盛り上がる中、片野坂監督はピッチ内に全選手を集め、こう話しました。NHKの大分放送局がその様子を終始録画し、公式ツイッターで公開したことで、大きな反響を呼びました。

「この悔しさは忘れないでほしいし、この舞台はなかなか得られるものじゃない。これを成長の糧にしてほしい。この経験を、この場を、この悔しさを次に生かそう。絶対にみんなはできる。みんなならできる。グッドルーザーでいよう。胸張って、顔上げて、サポーターにあいさつしよう。絶対にこのチームはいいチームだから。俺は自信持って言う。すばらしいピッチだ。(サポーターを振り返りながら)見て、すばらしいよ。負けたけど、リーグ戦も負けたけど、それが自分たちの力なんだよ。それをしっかり真摯に受け止めて、グッドルーザーで、しっかり感謝して、みんなで大分に帰って、次に向けて準備してやっていこう。お疲れさま。ありがとう!」

負けた悔しさは忘れてはいけない。しかしできる限りのことをやって出た結果を恥じる必要などない。顔を上げ、胸を張ろう――。

2016年に監督就任してから6年間。J3に降格したチームをJ2へ、そしてJ1へと導き、この日本のトップリーグで3シーズン、文字通り暴れまくった末に今季はJ2降格が決定。その直後にJ1王者の川崎フロンターレをPK戦の末に下して天皇杯でクラブ史上初の決勝進出。激しいアップダウンの日々を通じて、片野坂監督はずっとこうした信念を貫き、ことあるごとに選手たちに語り続けてきたに違いありません。だから決勝戦直後の言葉も素直に選手たちの心に響き、表彰式での堂々たる態度になったのだと思います。

記録上は、たしかに勝者と敗者に分かれます。そして時間がたてば、どんな戦いをしたかより、どんなタイトルを取ったかだけが残るかもしれません。しかしサッカー選手としての人生を考えれば、全力で戦ったかどうか、自らに恥じない戦いができたかどうかが最も大事なのではないでしょうか。

誰にも後悔はあり、「あのときああすればよかった、こうすればよかった」と考えることがあるでしょう。しかしそのときそのときにできる最善のことをした結果であれば、しっかりと受け止めることができるはずです。

片野坂監督が語る「グッドルーザー」とは、こうやって結果を受け止めることのできる者だけがなれるもののように思います。そう考えると、「グッドルーザー」はすでに「敗者」ではありません。

結果を受け止められず、判定やミスをした選手のせいにしたり、互いを責め合ったりするチームは、たしかに「敗者」です。天皇杯決勝の大分が「敗者」ではなく、偉大な「ファイナリスト(決勝進出チーム)」だったことは、片野坂監督の言葉を聞かなくても、誰にも理解できたのではないでしょうか。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2022年1月号より転載しています。

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