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真のチャンピオン ~いつも心にリスペクト Vol.53~

2017年10月20日

真のチャンピオン ~いつも心にリスペクト Vol.53~

第10回の記念大会を迎えた「スルガ銀行チャンピオンシップ」。8月15日に埼玉スタジアム2002で行われた試合は浦和レッズがブラジルのシャペコエンセを1-0で下して優勝しましたが、「真のチャンピオン」は浦和のサポーターでした。

南米サッカー連盟のクラブ選手権といえば「コパ・リベルタドーレス」ですが、「第2のカップ」として「コパ・スダメリカーナ」が2002年に始まりました。そして、2008年からJリーグのYBCルヴァンカップ(昨年まではナビスコカップ)優勝チームとコパ・スダメリカーナの勝者同士で争われているのがスルガ銀行チャンピオンシップです。試合は1戦制で、ルヴァンカップ優勝クラブのホームスタジアムで開催されています。

シャペコエンセはブラジル南部、サンタカタリナ州の小さな地方都市をホームタウンとするクラブ。近年急速に力をつけ、昨年、クラブ史上初めてのビッグタイトル、コパ・スダメリカーナ優勝に王手をかけました。しかし11月28日、決勝第1戦のアウェイゲームを戦うためにコロンビアのメデジンに向かう飛行機が墜落、チームの大半を失いました。

対戦クラブであるアトレティコ・ナシオナルは即座に南米サッカー連盟に手紙を書き、決勝戦を辞退することを伝え、シャペコエンセを正式な優勝チームとして認めることを求めました。数日間の議論の末、南米サッカー連盟が示した結論も、強く人びとの心を打ちました。シャペコエンセの優勝を認めるとともに、「南米サッカー連盟百周年記念フェアプレー賞」を、優勝賞金の倍に当たる副賞百万ドルとともにナシオナルに贈ったのです。

シャペコエンセの事故は世界的な話題になり、支援の輪はまたたく間に広がりました。そして再スタートを切ったシャペコエンセは、昨年の「コパ・スダメリカーナ優勝チーム」として、「ルヴァンカップ優勝チーム」浦和レッズと対戦するために来日したのです。

この試合は、浦和にとっても是非とも勝ちたい試合でした。シーズン序盤に絶好調だった浦和は、6月から突然不調になり、7月末にはペトロヴィッチ監督が解任されるという緊急事態に陥りました。自信回復のためにはともかく勝利を積み重ねていく必要がある―。この試合もそのひとつでした。

浦和は後半に入ってからのシャペコエンセの猛攻を全員の奮闘でしのぎ、後半43分に千載一遇のPKの判定を得ます。シャペコエンセの選手たちはこの判定に猛抗議、結局PKが蹴られたのは6分後のことでしたが、これが決勝点となりました。

試合終了後、納得のいかないシャペコエンセの選手たちは再び全員で主審を囲んで抗議。スタジアムには後味の悪さが広がりました。

その雰囲気を奇跡のように変えたのが浦和のサポーターたちでした。真っ赤に染まったサポーター席に何千枚もの緑のシートが広がりました。緑はシャペコエンセのクラブカラーです。そして横数十メートルの横断幕には、「友よ、世界の舞台でまた対戦しよう」というメッセージがありました。

シャペコエンセの選手たちは一瞬ぼう然としました。そしてすぐに両手を挙げて拍手し、浦和サポーターの心づかいに感謝しました。感動した4人の選手はサポーターのところまで走っていき、ユニホームを投げ込みました。スタジアムは盛大な拍手で包まれ、温かな雰囲気になりました。

シャペコエンセは今年、コパ・リベルタドーレスに初出場し、すでに1次リーグ3位で大会を終えました。その大会でもアウェイで温かい拍手を送られたといいますが、キャプテンでPKを与えてしまったDFグローリは「こんなにきれいなリスペクトの表現はなかった」と感動を語りました。

浦和サポーターの行動は、大切なものを失ったシャペコエンセへの深い「共感」から発しています。大きな痛手を受けながら勇敢に立ち上がり、未来を見つめて戦うクラブと選手たちに、心からの「友情」を感じた結果でした。その思いを実に見事な形で示した浦和サポーターこそ、「真のチャンピオン」の名に値すると感じました。

寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)

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